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魔法少女、管理者と出会う。②




「らんらんるー。らんらんるー」


 四ノ月さんが鼻歌混じりに道を行く。島の中央の研究街でも、お金持ちが住んでいる豪邸街でもない、何の変哲もない住宅街を歩いている。


 こんなところに、本当に《管理者》が住んでいるのか?

 豪邸もない住宅街。俺や星崎の住んでいるマンションからは離れているが、《管理者》が住んでいるとは到底思えなかった。


「星崎は四ノ月さんの家に遊びに行ったりするのか?」

「いえ、ありません。秋桜ちゃん、あんまり友達とは遊びに行かないので」

「え、そうなのか」


 意外すぎる。あんなに人なつっこい子なのに。友達も多そうなのに。


「秋桜ちゃん、友達も大切ですけど誰よりもお父さんが好きですから」

「ああ……」


 納得してしまった。確かに四ノ月さんと言えば一にお父さん二にお父さんだったな。


「……でも、私も同じくらい先輩が……」

「…………」


 すまん星崎。小声で言っているがぜんぶ聞こえてるから。

 恥ずかしすぎて耳まで真っ赤になりそうだ。いや見えないからわからんけど。


「み、着きました!」


 四ノ月さんが足を止めたのは、至って普通の二階建ての一軒家だった。

 表札には「四ノ月」と書かれている。確かに四ノ月さんの家のようだ。


「たっだいまー!」

「あら秋桜様、お帰りなさい」


 四ノ月さんが元気よく扉を開くと、割烹着を着た女性が出迎えてくれた。

 四ノ月さんと同じ真紅の髪。透き通る青の瞳はとても綺麗で、思わず吸い込まれそうだ。


「えーっと、四ノ月さんのお母さんですか?」

「み?」

「あらあら、違いますよ~。私は秋桜様と旦那様にお仕えしている、たいしたことないただの《星獣》でございます~」


 …………星獣?

 それって、ユーと同じ存在ってことなのか?


「ユー、彼女って……って、いつの間にかいない!?」

「ユーくんだったら商店街でもう別れてましたよ?」

「まじか……全然気付かなかった」

「『僕の発言がすぐに消される』ってへこんでました」


 ドンマイ。


「あのー、星獣ってことは、ユニコーンと同じ存在ってことですよね?」

「はい。そうですよ~。フェスは星獣フェニックスと申します」


 ニコニコと柔和な笑顔を浮かべ、フェスさんことフェニックスは丁寧にお辞儀をする。


「フェスー。お父さんはー?」

「あ、そうでした。旦那様はリビングですよ~」

「はーい!」


 まるで親子のようなやり取り。見ていて非常に微笑ましいものだ。

 靴を脱ぎ捨てて駆けていく四ノ月さんを見送りながら、改めてフェスさんが俺と星崎に向き直る。


「ユニコーンの契約者、コズミック・ルナさんですね~」

「は、はい」

「事情はなんとなく把握しております。ささ、どうぞ上がってください~」

「失礼します」

「し、失礼します……」


 星崎は緊張しているのか、きゅっと俺を抱きしめる力を強くしてくる。

 玄関を通ると、すぐに奥の扉から四ノ月さんの賑やかな声が聞こえてくる。

 むしろ鳴き声だ。「みぅ」「みー」「みみみ!」と非常に豊富なレパートリーで鳴いている。……まじで子犬?


「おう、よく来てくれた。俺が四ノ月春秋だ。よろしくな」

「お、大空浩輝です」

「星崎瑠那です」

「座れ座れ。俺も秋桜もリラックスしてるしな」

「みぅ~」


 リビングにはイケメンがいた。え、まじ何なのこのイケメン本当に四ノ月さんの父親ですか芸能人じゃないんですか。男の俺でもつい見入っちゃうほど整った容姿。鋭い真紅の瞳が俺と星崎を見つめている。

 肩口まで伸びた髪は先までしっかりと手入れがされているのが離れていてもわかるほどだ。

 美形。イケメンオブイケメン。なんだこの人、少女漫画のイケメンがそのまま飛び出してきたのか……?!


 ……とりあえず星崎が見ないようにしておこ。星崎の視線は俺だけに向いて貰いたい。


 ちなみに四ノ月さんはお父さんの膝の上に寝転がっていた。お父さんはそんな四ノ月さんの頭を優しく撫でている。微笑ましい親子の姿だ。


「みぃ~」

「ほら秋桜。お客さんも来たんだし、一回降りようか」

「や!」

「やだかー。そうだなお父さんも秋桜と離れたくないぞー!」

「みぃー!」


 四ノ月さんがイヤイヤと首を振った途端お父さんもわしゃわしゃと頭を撫でるのを激しくした。四ノ月さんは四ノ月さんで嬉しそうに受け入れている。


 子煩悩というか……うん、親馬鹿だな!


「よし、本題に入ろうか。フェス、飲み物を用意しておいてくれ」

「かしこまりました~」


 フェスさんが恭しく一礼し、キッチンへ向かう。お父さんは四ノ月さんを撫でたままだ。

 え、このまま話すの?

 でもお父さんはどんとこいとばかりの顔をしている。えぇ……この人が本当に《管理者》なのか……?


「……本題は、隣にいる星崎のことです」

「え、私のことだったんですか!?」

「ははーん。グリード・コアヌスについてだな?」

「察しが早くて助かります」


 内心驚いている。この人には何の連絡も行っていないはずだ。

 でも、俺と星崎を交互に見てすぐに答えを導き出した。

 にやり、と頬を吊り上げて笑っている。


「結論から言おう。俺が手を貸せばすぐにグリード・コアヌスを排除することは出来る」

「それじゃあ――」

「だが、ダメだ」

「どうしてですか!?」


 協力して貰えると思っていたのに、お父さんから出てきた言葉は真逆の言葉だった。

 この島を守っている《管理者》だというのに、この島で暮らしている星崎の生活を守ろうとしてくれないのか!?


「落ち着けって。心の中身が顔に出すぎだ。交渉をしたかったらもっとポーカーフェイスを磨け」

「落ち着けません。だって俺は……」

「だって? 先に言っておこう。その先の言葉は絶対に言うなよ」

「っ……」


 だって俺は、星崎を元に戻したかったのに。


「秋桜ー。しばらくお嬢ちゃんと部屋で遊んでて貰えるか?」

「み? お父さんと離れたくないよ~……」

「しょうがない。今日の夜はもふもふ抱き枕コースだ!」

「本当に!? わーいわーい! 瑠那ちゃん私のお部屋いこ!」

「え、秋桜ちゃん!? せんぱーい!?」


 四ノ月さんが凄い勢いで身体を起こして星崎を連れていった。

 もふもふ抱き枕コース……一体なんなんだ……。


「さて」


 フェスさんがお茶を配ってくれたと思ったら、すぐに姿を消した。自然とリビングには俺とお父さんだけが残される。


「とりあえず俺のことは春秋でいい。お前にお父さんと呼ばれると秋桜を奪いに来た逆賊と勘違いしそうになる」

「は、はぁ……春秋さん」

「おう、よろしく」


 四ノ月さんあっての春秋さんというか、春秋さんがこれだから四ノ月さんがああなのか……。


「お前、今の星崎に何か不満があるのか?」

「不満って――」


 不満があるわけじゃ、ない。星崎が俺のお世話をしてくれて、飯や家事までしてくれて申し訳ないくらいだ。


「不満はありません。でも、星崎がグリード・コアヌスに操られてああしてるなら……俺なんかのために、自分の時間を捧げないで欲しいです」

「はぁ。お前あれか。自分の感情はぜんぶ置き去りにして物事を考えるタイプだな。俺のめっちゃ嫌いなタイプだ」

「初対面なのに言い過ぎでは!?」

「うるせーばーか。同族嫌悪だばーか」


 馬鹿っていった!!!! 大人だし管理者のくせに!!!!!


「思い違いをしてるかもしれないが、今の星崎の行動はぜんぶ星崎自身がやりたいと思ってしている行動だ。お前に向けて、あれをしたい、これをしたい。女の子がそこまで一生懸命になる理由なんて、普通に察しが付くだろう?」


 春秋さんの言葉に、思わず言葉を失ってしまった。

 ……それは、俺が目を逸らしていたことだから。

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