魔法少女、管理者と出会う。
今回の《侵略者》は大きなクラゲだった。ふよふよ空に浮かんでると思ったら、触手から電気を飛ばしてくるタイプ。
魔法少女……触手……いや、ナンデモアリマセンヨ?
四ノ月さん/魔法少女ミラクル・コスモスは迫り来る触手を隙間を縫うように的確に避けていく。流麗な飛翔は見とれてしまうほどだ。
無数に迫る触手の全てを躱しきり、ミラクル・コスモスは巨大クラゲと対峙した。
そんな光景が、街角の大きなモニターに映し出されている。
《侵略者》との戦いが日常茶飯事になった星華島だからこそというか、なんというか。
この戦いも一種のエンターテイメントとして受け入れられている。
「はっや……」
「……ミラクル・コスモスは魔法少女の中でも最速の存在です。それに……」
「それに?」
星崎は不安げな表情でモニターを見ている。
わぁぁ、と歓声が聞こえてきて慌ててモニターに視線を戻す。
そこには信じられないというか――やばい光景というか。
「とりあえず、侵略者さんは倒しちゃいます! そんでもってお父さんにナデナデしてもらうんだーーーー!」
「ゴォオオオオオ!?」
……圧倒していた。いや、圧倒というか瞬殺というか。ミラクル・コスモスを守るように待っていた桜の花びらが次々と巨大クラゲに突き刺さっていく。あまりの手数の多さと早さに巨大クラゲが全く対応出来ていない。
「集え炎。意志を燃やし、愛を奏でよ――コスモブロッサム・アブソリュート!」
巨大クラゲが怯んだところに、ミラクル・コスモスが突進する。花びらを右の拳に纏わせて、巨大クラゲを貫いた。
「――――!」
「お仕事完了! いぇいっ!」
星崎/コズミック・ルナの戦いならいつも見てきた。そんな俺だから……なんとなく、星崎の不安げな表情の意味に気付けた。気付いてしまったというべきなのか。
「ミラクル・コスモスは最強の魔法少女です。多分……この島を守っているヒーローの中でも、誰よりも強いです」
憧れというよりも、諦めというべきか。
「まあミラクル・コスモスは規格外中の規格外だ。それにそもそも父親が――」
「たっだいまーーーーー!」
ユーの言葉を遮って、ミラクル・コスモス/四ノ月さんが降りてきた。
しゅたっと降りてきたミラクル・コスモスは変身を解くと真っ先に星崎に飛びついてくる。
もちろん俺はそれを見越して星崎と離れておきました。百合の間に挟まるつもりはありません。
「瑠那ちゃんやったよー! みぃーーー!」
「し、秋桜ちゃん……くるし……っ」
四ノ月さんが星崎をぎゅーーーっと抱きしめている。背格好は似ている二人だが、四ノ月さんが抱き寄せているから自然と星崎が胸に抱きしめられる形となっている。
はぁ……尊い……一生眺めていたい……。
「せ、先輩っ。見てないで助けてください!」
「何を言ってるんだ星崎。可愛い女の子二人が戯れているなら男として眺めることに徹するのは当然だろう?」
「わ、私は先輩がいいんですーーーーー!?」
「えへへ。ここがいいのか~?」
「にゃー!?」
はぁ……無理……まじ尊い……カメラ回したい……!
「任せろ」
「さすがだ!」
ここぞとばかりにユーが星崎のスマホで撮影していた。お前もしかして……有能だったのか……!?
「秋桜ちゃん! ストップですっ! 先輩が、秋桜ちゃんに用事があるんです!」
「……み?」
「あ、離れなくていいのに……」
「大丈夫だ大空浩輝。最後の瞬間までしっかり保存しておいた」
「言い値で買う」
「後でじっくり話し合おう」
ユーと熱い握手を交わし、本題に戻ることにする。
息を荒くしている星崎が非常に扇情的だが……うん。今は置いておこう。
「あー、その。四ノ月さんは《管理者》について知っているのかな?」
「み? お父さんのこと?」
「へ?」
「みぅ?」
四ノ月さんは可愛らしく首を傾げている。子犬のような仕草が可愛い。……あぁ、星崎がこんな風な仕草したら一撃で悶死する自信がある。してくれないかなーーーーでも星崎はどちらかというと子猫だからなーーーー。
「……なんか先輩に失礼なこと思われてる気がします。わ、私は先輩のお願いだったら何でも叶えますよ!」
「え、なにこの天使」
「て、天使だなんて……っ」
「……あのー。私帰ってもいいですか? みみみ……」
っとと。危ないところだった。星崎が可愛すぎて本題から逸れてしまった。
「えと、四ノ月さんのお父さんが……」
「はい。お父さんが《管理者》ですよ?」
な、なんだって―――――――というか。
「《管理者》って本当にいたんだな……都市伝説としか」
「みぃー。お父さんは噂じゃないですよー」
「ああ、ごめんごめん。でも全然表に出てこないから、いるかどうかも信じられなかったんだ」
「まあ、お父さん目立つの嫌がってますしね。一応このトップって立場ではありますけど」
「ごめんなさい初耳です」
「みぃーーーー! あんなにかっこいいお父さんを知らないだなんて!」
四ノ月さんがぷりぷり怒っている。とても星崎と同年代とは思えない子供らしい仕草。何だろう、星崎は見ているだけで癒やされるし和むけど……四ノ月さんは四ノ月さんで和むな……。
「あはは。申し訳ない……」
「でもたとえ先輩といえどお父さんと出会ったら好きになっちゃうかもしれないのでそれを回避しているなら合格です!」
「え、四ノ月さんのお父さんって何者なの?」
「凄くかっこよくて優しくて最強の優しいお父さんです!」
優しいって二回言ったよ。大事なことなのかな。
「大事なことなので二回言いました!」
大事なんだ!
「……それで、お父さんに会いたいんですか? 多分今なら家にいると思いますけど」
「そうだね。会えるなら会いたいかな」
「み。わかりました。連絡してみます」
そう言って四ノ月さんはスマホを取り出して電話をかけ出した。
「あ、もしもしお父さん? お父さんのことが大好きな秋桜だよー。えへへ。私も大好きっ。え、見ててくれたの? やったー! あとでナデナデしてね? え、もっとしてくれる!? わーい!」
うん、なんかものすごい会話が繰り広げられている気がする。
くいくい、と星崎が四ノ月さんの袖を引き、注意を逸らしてくれる。それで四ノ月さんも気が付いたのか、こほんと咳払いをして本題を切り出してくれた。
「それでね。コズミック・ルナちゃんとその友人の人がお父さんに会いたいって言ってるんだけど……うん。問題ない? わかったよー。みぅ!」
通話が終わり、四ノ月さんは相変わらず笑顔の花を浮かべている。
ニコニコの笑顔は愛らしい。星崎とはまた違う愛らしさだ。
「お父さん、会ってくれるそうです。それじゃあ案内しますから、着いてきてください」
「ありがとう四ノ月さん!」
これで星崎を元に戻せる! なんて運がいいんだ!
「わ、私も行きます。……いいですよね?」
「もちろんだ。星崎も一緒に来て欲しい」
「せんぱい……っ」
「はいはいイチャついてないでいきますよー」
星崎が寂しそうな表情をしていたので、俺から抱き寄せた。いつもと違って星崎が身体に抱きつく形になって、少し歩きにくい。
でも星崎は今までに見たことがないくらい幸せそうな笑顔を見せてくれた。うん。それだけで俺も幸せだ。思わずちょっとだけ抱き寄せる力を強くして、二人で四ノ月さんの後を追いかけた。
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