魔法少女は正気だけど正気じゃありませんでした。③
朝、目が覚めた。星崎に抱きしめられたままの起床もすっかり慣れ……るわけがない。
でも昨日と少し違うのは、抱きしめている星崎の力が少し緩い。ちょっと力を込めれば拘束を緩めることが出来る。
「よ、と」
そのまま身体を動かすと、すっぽりと星崎の身体が俺の腕の中に収まった。星崎はまだすやすや夢の中だ。
「かわえぇぇぇ……」
昨日は見れなかった星崎の寝顔。きっといい夢でも見ているのだろう、安らかな寝顔だ。
昨日と同じようにぷにぷに頬を突く。柔らかくて最高の手触りだ。
「ん……ふにゅ……」
「つんつん」
「にゅにゅにゅ……」
「かわえぇぇぇぇ……」
許されるなら一生この時間を満喫していたい。推しの女の子を抱きしめて温もりを堪能しながらいちゃつく……男子にとって夢のようなひととき。
星崎が起きるまで、とりあえずひたすらぷにぷにつんつんしよう。拘束されてばっかりだから、これくらいはいいよな?
でもこの関係に慣れてしまってはいけない。いつかは終わる関係なんだから。
休み時間の度に星崎を迎えに行って、お昼ご飯は星崎お手製のお弁当を味わう。
放課後はもちろんデートだ。永遠桜にはもう行ったから、別の場所へ向かう。
星崎はどこへ行くにもニコニコと愛らしい笑顔を見せてくれる。ぎゅって俺の腕を抱きしめてくれる。歩きづらさはあるものの、こんな可愛い星崎に抱きつかれて嫌なわけがない。
「星崎は何処か行きたい場所あるか?」
「いえ、先輩と一緒なら何処でだって楽しいです!」
すっかりいつもの会話だ。まるで恋人同士のような会話は言葉を交わしているだけで幸せになれる。
《管理者》を見つけ出したい気持ちは確かにある。でも今の星崎と過ごす時間も、俺にはかけがえのないものとなっている。
……ああ。俺って本当に星崎が好きなんだな。
今すぐ星崎を抱きしめたいが、ぐっと堪える。目的をはき違えてはならない。
「やっと見つけたぞ、大空浩輝!」
聞き覚えのある声に振り向いてみたら、額に一本角を生やした少年――ユーが立っていた。首からヒモでスマホをぶらさげている。あれは星崎のスマホだろう。
「全く。どうして瑠那の闇堕ちを直していない!」
「いやいや、これでも方法を探してるんだぞ?」
ユーは瑠那がいるにも関わらず詰め寄ってくる。
「探してる……ですか?」
俺の言葉に星崎が反応する。いけないいけない。放課後デートが建前だというのは星崎には内緒だったんだ。星崎には心から楽しんで欲しいから……ったく、ユーはもうちょっと気を遣ってくれ。
「ああそうだ、ユーに聞きたいことがあったんだ」
「何だ? 正直な話グリード・コアヌスについては僕もわからないことだらけだぞ」
「そっちはいいんだ。えと……《管理者》の居場所を知らないか?」
「……そっちか。盲点だった」
俺の言葉で察してくれたのか、ユーがふむふむと頷いた。
星崎は《管理者》に合えば闇堕ちを治せるとは知らない。だから《管理者》の話題は、俺とユーだけの暗号的なものに出来る。
「《管理者》を探す合い言葉は知っているのか?」
「『桜舞うところに黄金の炎が愛を囁く』だろ? よくわからんが」
昂から教えて貰ったこの言葉は、どうやら合い言葉らしい。
「魔法少女ミラクル・コスモスは知ってるな?」
「あ、ああ。有名じゃないか」
魔法少女ミラクル・コスモス。
コズミック・ルナと肩を並べて戦っている、魔法少女の一人だ。
正体は不明――というより、俺が興味なくて調べたことがない。
だってコズミック・ルナがいればいいんだもん。
「なあ星崎、ミラクル・コスモスとは面識はあるのか?」
「あ……ります。でも、どうして《管理者》に会いたいんですか?」
「ち、知的好奇心だよ。俺みたいな一般人には都市伝説みたいな存在だし」
「……先輩、あやしーです」
うっ。そんな上目遣いで見ないでくれ。ああもうほらユーが凄い形相で睨んでくるじゃないか!
「せ、先輩にはコズミック・ルナがいるんです! だから他の魔法少女と会う必要なんてありません!」
「やだ独占欲マックス可愛い……」
「お前もすっかり骨を抜かれて……お前……お前……!」
ユーが般若のような形相をしてくるけど知ったことか。星崎が可愛すぎるんだ。
ユーに睨まれて星崎には抱きつかれて、なんだこの幸せ地獄空間。いや星崎の可愛さで幸せに振り切れてるけど。
「とにかく、だ。ミラクル・コスモスに出会えれば、《管理者》の話も――――」
『《ゲート》が開きました。住民の方々は避難してください』
ユーの言葉を遮るように、警報が鳴り響いた。次いで避難を促すアナウンスが流れ、空は次元の裂け目が出来ていた。
「っ……ユー、星崎の出動は!?」
「今の瑠那を出すわけにはいかないだろう!」
「そりゃそうだ!」
闇堕ちしている星崎を戦わせるわけにはいかない。何かが起きてしまっては不味い。
なんたって【闇堕ち】だ。俺に対しては甘えてお世話してくれるくらいで済んでるけど、同じ魔法少女相手にどのような行動をするかはわからない。
「……随分タイミングが良すぎるが、他の魔法少女に任せた方がいいだろう」
「他の、って」
「スペルビア・エルルはどうせ出動しない。だから来るのは――」
ユーがその名前を呼ぶよりも早く、桜の花びらが風に乗って駆け抜けていく。
桜の花びらが舞い、渦を巻いて上空へと昇っていく。
いつしか渦の中央に、小柄な少女が立っていた。
桜色のドレスを身に纏い、真紅の髪をたなびかせ、藍色のマントを羽織っている。
そう、彼女は――――。
「魔法少女ミラクル・コスモスただいま見参! 島の平和を守るため、今日も元気にいっちゃうよー、みぅ!」
邪気のない笑顔で、ミラクル・コスモスはどこか聞き覚えのある声で鳴いていた。
え、いやあの鳴き声って……。
「ユニコーンくんから要請は受けてたからね。私に任せてねっ!」
「は、はい。お願いします」
「大丈夫大丈夫。瑠那ちゃんはゆっくり休んでてね~」
星崎がしおらしく頭を下げ、ミラクル・コスモスは気遣って手を振っている。
魔法少女同士で仲がいい、というより……。
「……四ノ月さん、だよね?」
「みぅ!?」
ミラクル・コスモスが驚いた顔をしている。よくよく見れば確かに四ノ月さんだ。
「え、えー。認識阻害の魔法もしっかり掛かってるのに。みぃー。みぃー?」
「秋桜ちゃ……コスモスちゃん、あのね、先輩は魔法の耐性高いみたいで……私も正体ばれちゃってるの」
「みぃーーーーーー!?」
あ、爆発した。
というか魔法の耐性高いとか初耳なんですが。え、俺そうだったの?
認識阻害の魔法とか初耳だよ。
「わ、私の正体を知っていいのはお父さんだけなんだよ!?」
「いやそれはそれでどうかと」
むしろそんなに四ノ月さんがべったりなお父さんが気になってくるだろ!
四ノ月さんは可愛らしくみぃーみぃー鳴いている。なんだか警戒してる子犬みたいな感じで星崎と違う可愛さがある。
星崎派です(ガチ勢)
「ミラクル・コスモス、それは後回しにしてとにかく迎撃に当たってくれ!」
「み! かしこまりー!」
気を取り直して、四ノ月さん――ミラクル・コスモスは花びらと共に空へと飛んでいった。
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