魔法少女は正気だけど正気じゃありませんでした。②
「星崎、ストップ。タイム! ウェイト!」
「ダメですよー。ささ、脱ぎ脱ぎしましょうね~」
気付けば俺は風呂場の前に立たされていた。星崎がいつもとは違う妖艶な笑顔を浮かべながらにじり寄ってくるのはにわかに怖い。
「自分で脱げるから、な?」
「ダメです。先輩のお世話は私がするんですっ」
こうなった星崎がテコでも動かないのは知っているが、それはそれとして越えちゃいけない一線もある。というか星崎に脱がされるとか俺は前世でどれだけの徳を積んだんだよなあ神様!?
「ふふ。そうはいっても先輩は動けませんよ……」
「あしまった魔法かこれ!」
「バインドの魔法を上手く使えば、こうやって自由に先輩を動かせちゃうんです」
両手両足どころか身体が変に動かないと思ったら、そういうことだったのか!
星崎に言われてようやく気付くことが出来た。俺の両手両足には光のロープが纏わり付いていて、俺の身体はそのロープに引っ張られて勝手に動いてしまう。
両手を上げて、星崎がシャツを捲ってくる。そのまま上半身を倒し、シャツを脱がされる。
「はい先輩。よく出来ました」
「星崎ストップだ。これ以上は不味い!」
ノクターンになっちゃう! なっちゃうからぁ!
それでも星崎は止まらなかった。俺の身体は星崎の意のままに動き、ズボンも脱がされてしまう。
パンツ一枚になってしまった俺。せめてパンツだけは死守せねば!
「さあ先輩、あとは――――」
「……星崎?」
ピタリ、と星崎が動きを止めた。よく見てみると顔が真っ赤になっている。
「せんぱいの……ぱんつ……っ」
「ほ、星崎?」
「っ、っ、~~~~~っ!」
あ、爆発した。
「さ、先に入っててくださーーーいっ!」
……えーと、うん。星崎の羞恥心が勝ったのかな? いや俺としては助かったのだが……ちょっともったいなかった気も……げふんげふん。
とりあえず逃げ出してしまった星崎の行方も気になるが……先に風呂に入ってしまおう。シャワーだけ浴びてさっさと出てしまおう。
「はぁ、癒やされる……」
湯につかりたいところだが、星崎も探さなければ。
髪と身体を手早く洗い、全身の泡を洗い流す。
シャワーを止めてタオルを手に取ったところで――ガラガラと、浴室の扉が開かれた。
「え」
「……お背中! 流しにきました!」
星崎が、いた。しかもスク水で。
いやいやどんだけマニアック――いや学園の指定がスク水だった。え、変なプレイなんて想像してませんが???
「さっきはちょっと動揺してしまいましたが、もう大丈夫です!」
「俺が大丈夫じゃないんだが!?」
「いいんです。先輩は私に身を委ねてくれればそれで……っ」
星崎が近寄ってくる。もちろん振り払うのは簡単だけど、推しにそんな態度を取れるわけがないだろう!?
あ、そうだ。もう洗ったんだからそれを伝えれば――。
「逃げるのはダメですよ。もう捕まえちゃいましたから」
「あ、しまった!」
瞬く間に俺は再び魔法のロープに捕らえられてしまった。ぎりぎりのところでタオルで下半身を守ることには成功したことを評価して欲しい。
魔法によって椅子に座らせられた。星崎はボディソープをタオルにしみこませて泡立てている。……やばい、絵面がマジでやばい! ノクタっちゃう!!!
「お背中洗いますねー」
「……ハイ」
やばい。どうしてもカタコトになってしまう。振り向けば水着の星崎がいる。普段では絶対に見ることのできない姿。見たい。でも見たらアウト。先輩としての誇りのために、俺は絶対に振り向いてはならない……!
「よいしょ、よいしょ」
小さな全身を使って星崎が背中を洗ってくれる。力加減も決して弱すぎず心地いいほどだ。あと、時たま当たってしまうスク水が……その……最高です……。
「首も洗いますねー」
「うひゃっ」
「っふふ。先輩可愛いです……」
「耳元は反則ですってばよ星崎サン!?」
「……ぎゅー」
「あうと! あうとですよ!?」
泡まみれの状態で星崎に後ろから抱きつかれてしまった。ダメですダメですスク水と星崎の柔肌ガーーーー!?
「このまま前も洗えますね」
「くすぐったいのと気持ちいいのガ!?」
「痛いところあったら教えてくださいねー」
「痛くはないし嬉しいけど絵面が!!!!!!」
静まってくれ俺の小宇宙(意味深)!
「はい。それじゃ流しますねー」
星崎は俺の胸板を後ろから両手で洗うと満足したのか、シャワーヘッドを手に取って流し始めた。
天国で地獄のひとときが、ようやく終わってくれた。
危なかった……さっきもそうだったけど、星崎は星崎で俺の下半身にはまだ抵抗があるようだ。
いや、そこ以外も貞操観念取り戻して欲しいんですが……うん。一刻も早く星崎を闇堕ちから解放しなければならない。俺の理性のためにも。
「さ、あとはゆっくり暖まりましょう!」
「…………………………はい?」
星崎に手を引かれて二人で浴槽に入っていた。
当然ながら一人暮らしが出来る程度の部屋に備えられている浴槽が広いわけがない。
自然と密着しなければならない。星崎は小さいけど、それでも俺の上に座らなければならないほどで。
「あったかいです~」
「ソウデスネ」
星崎が密着している。お昼に膝の上に乗った時と同じ――いや、あの時は正面から抱きしめていた。今度は後ろから抱きしめている。
つまり、お互いに表情が見れない状態だ。
……今なら何かいたずらをしても許されるのでは?
『……私は心の悪魔です。やっちまえやっちまえ! どうせ星崎も闇堕ちしてるんだ。ヤっちゃえヤっちゃえ』
やめろ、心の悪魔やめろ! 俺まで闇堕ちさせようとするな!
助けて心の天使さん! 俺の欲望を止めて!
『私は心の天使です。でもあなたの天使は星崎です。今押し倒しても実質合法ですここは一気呵成に攻め込みましょう!』
アイエエエエエ天使=サン!?
味方が……味方がいない……!
……狭い。そう、浴槽が狭いんだ。
だから、少しだけ。ぎゅっと。
「あっ……先輩が……抱きしめてくれた……えへ。えへへ……っ!」
抱きしめてるから星崎の表情を見ることは出来ない。でも、蕩けるような星崎の声は今の俺には刺激的すぎた。
もっと力を込めて抱きしめる。星崎がビクンと身体を震わせるが、星崎もすぐに俺に身体を寄せてくる。
ちらりと視界に入ったのは、星崎のうなじ。うなじ。うなじ……!?
「…………だぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「にゃぁ!?」
そのままうなじに吸い付きたい衝動が湧き上がったのを、強引に飲み込む。そしてその勢いのままに星崎を抱き上げて浴槽から出る。
「出よう。星崎出よう! このままじゃのぼせて倒れるコースだ!」
「は、はい。先輩がそういうなら……」
そんな残念そうな表情をしてしょぼんとしないでくれ。俺の理性がリミッター解除しちゃうだろ!?
「さあ先輩。寝ましょうっ」
「あ、今日もなのか……」
布団を敷いた星崎がぽんぽんと布団を叩く。正直お風呂での出来事が出来事だったから星崎をまともに直視できないのだが……。
星崎は布団へ先に入ってしまう。そして布団をめくり、入ってこいとばかりに俺を見上げてくる。
「……失礼します」
断ろうとも考えたが、断ったら断ったでまた魔法を使われるだけだ。魔法を使うにしても魔力を消費する以上、星崎にそんな無駄な消耗をさせるわけにはいかない。
ましてや星崎は《来訪者》じゃない、元々普通の女の子なんだ。あまり魔法を使わせるのも不味いだろう。
「先輩、ぎゅー!」
「……うっ」
今日の星崎は制服ではなく猫柄のパジャマを着ている。あまりにも似合っている可愛らしいパジャマをもっと眺めていたかったが、抱きしめられて視界が星崎で埋まってしまった。
相変わらずいい匂いがする。一緒のお風呂に入って、同じシャンプーを使ったはずなのに、どうして星崎はこんなにいい匂いがするんだろう。
「あっ……先輩。あんまり嗅いじゃうのだめぇ……くすぐったいです……っ」
……あ、その声ダメ。変なスイッチ入りそう。
「星崎、いい匂いするんだ。甘くて、心地いい……」
「せ、先輩が気に入ってくれたなら、嬉しいです……ひゃっ」
すー、と大きく息を吸うとそれだけで胸が一杯になる。
星崎は星崎で身体を離そうとはしてこない。あー、頭がクラクラしそう。
星崎の手が頭に添えられ、撫でられた。誰かに頭を撫でられるのなんて、何年ぶりだろうか。
凄く心地よくて……すぐに、意識が。
「……おやすみなさい、先輩」
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