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魔法少女は闇堕ちしました。




 トントントン、とリズミカルな包丁の音が聞こえてくる。

 卵の焼ける音が耳を喜ばせる。この音はベーコンも一緒に焼いているのだろう。

 誰かの作った飯を食べるなんてここ最近ご無沙汰だったから、自然と喉が鳴ってしまう。


「……ごくり」

「~~~♪」


 小さな背中が台所に立っている。青髪のツインテールがゆらゆらと猫じゃらしのように揺れ、鼻歌交じりに料理を続けている。


「……ん。出来ましたっ」


 振り向いた美少女――星崎瑠那(ほしざきるな)がお盆を持って近づいてくる。

 制服の上からエプロンを着けた姿は正直とてもドストライクである。なにがって? 性癖に。

 

 星崎ははにかみながらテーブルに出来上がった朝食を並べていく。

 しっかり火が通った目玉焼きは俺好みの完熟だし、焼き色が付いたベーコンも非常に食欲をそそる。

 炊きたてのご飯はきめ細かく輝いてるし、ほかほかと湯気が昇る味噌汁も美味そうだ。


「はい先輩、朝ご飯が出来ましたよ」

「あ、ああ。美味そうだな」

「はい、先輩のために愛情をたくさん込めましたからっ」


 星崎は真っ正面から恥ずかしい言葉を言ってくる。くすぐったくて背中が痒くなってしまうが、両手を拘束されていては何も出来ない。


 星崎みたいな可愛らしい美少女にそんなことを言われたら嬉しいのだが――残念なことに、今の俺は喜んでられる状況ではない。


 両手は縛られ、腰にはロープが巻かれ逃げることすら叶わない。

 星崎はトパーズイエローの瞳を輝かせながら、懐いた猫のようにすすす、と俺にすり寄ってくる。


 箸を手に取ると、目玉焼きを食べやすいように切り分けた。そして小さく切った目玉焼きを自分ではなく、俺の顔の前にまで持ってくる。


「あーん、してください」


 星崎が、微笑む。けれどその微笑みはいつも見ていた愛らしい笑顔ではなく、そこはかとなく妄執を感じさせる微笑みだ。


「……あーん」


 抵抗なんて出来やしない。おとなしく口を開けると、待ってましたとばかりに箸が差し込まれる。

 けれども決して勢い突っ込むのではなく、優しい箸使いだ。俺が咀嚼して飲み込むと、次にご飯、そして味噌汁と続けられる。

 それはまるでひな鳥に餌を与える親鳥のような光景だ。拘束されているというのに、愛情を感じてしまう。

 ……やべ、俺もしかしてMなのでは?


「ふふっ。先輩、かわいい……」


 可愛いのはお前だろう!? と叫びたくなったがぐっと心に飲み込んだ。

 今の星崎は正気じゃない。

 普段の星崎を語るなら――そう、まさに天使。


 多少人見知りは激しいが、仲良くなった相手にはにぱっと愛らしい笑顔を見せてくれる。感情の浮き沈みが顔に出やすく、コロコロ表情が変わるのは見ていてとても和んでしまう。

 困っている人には手を差し伸べるし、運動は苦手だがそれもまた彼女の魅力のひとつだ。


 そう、星崎瑠那は俺の『推し』なんだ。見ていて和むし癒やされる宝物のような存在なんだ。

 そんな星崎が、どうして、どうして……っ!


 どうして、【闇堕ち】してしまったんだ!?


「先輩はずーっと、私がお世話してあげますからね……」


 俺は、推しにリアルでお世話されるような立派な人間じゃないのに!

 でも、こうしないと星崎を闇堕ちから戻せないんだ。ちくしょう、ちくしょう……嬉しすぎて死にそうだっ!

読了ありがとうございました。

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