白い2
荒廃した街並みを後目に子供の泣き声がする方へと黙々と歩いて行くと、前方の角から金髪ツイテールの後ろ頭がそろりと出てくるのを見てしまう。
何かにばれないようにしたいのか初心者ドライバーなみに執拗な確認作業を行っていた。
そしてついに俺の目と金髪ツイテールの見開かれた二重の目が交差した。
『ナイス トゥ ミート ユゥ…。』
俺は咄嗟に渾身の英語力を発揮することに成功する。
『馬鹿丸出し。』
闇天城がエネルギーで空気を振動させて、すかさず言葉で殴りつけてくる。
そのまま距離を取りつつお互いに見つめ合っていると、金髪ツイテールの美少女はこちらにものすごい勢いでダッシュしてくる。
何で西洋系の外人て、あんなに目鼻立ちはっきりしてるんだろ。そして胸がでかい。けしからん。
少女は同じ高校の制服を着ていたが、揺れる胸ばかりに目がいき全く気にならなかった。
『ナイス トゥ…。』
『日本語話せるわよ。あんた何処の加護者よ?私はプロテスよ。まぁ、日本て特殊だから聞いても意味ないか。とにかく私の邪魔しないでよね?』
『へっ?あ、イエス。』
外人の子が流暢に話すと心底違和感がある。英語でくるぞっていう先入観があるからか、日本語でいきなり捲し立てられると何故か英語のように聞こてくる不思議。
気が強え。おっかねぇ。胸でけぇ。
『普通、地獄に先入したら、その世界の鬼地梦に合わないようにするのが普通でしょ?何堂々と歩いてんのよ?死ぬの?死にたいの?』
ああー。そういえば歪末さんがそんな事、説明してたようなしてなかったような。でも俺は地獄で何に出会おうが基本全くモーマンタイだからなぁ。
『ぼけっとしてないでこっち。』
さっきまで取っていた辛辣な態度とは一編言いたい事を言い終わったのか道路の塀の影へと引っ張られる。
金髪ツイテール巨乳目鼻美少女は左右確認を終えて一息つく。
『ところで、あんたその神祓何処かの原典?』
わぁ、近くだと良い香り。
隠れるために出来るだけ存在の面積を小さくしたいのか腰と腰が触れ合うほどの近距離でお互いにしゃがんでいた。
俺は胸に目がいかないようにチャレンジしてみようと試みるが、気を抜くと一瞬にして目線が持ってかれた。
しゃがんでいるためおざなりに地面に置かれた黒い鎌は少し不機嫌そうにあたりの空気を微振動させている。
闇天城はちっさいからなぁ。
『いや、別にこれは…。』
適当な事を言おうとして、また歪末さんの言葉を思い出す。
あの人は長い髪を後ろに掻き上げ、割れた六芒星の頬の刺青に人差し指の先をくりくり当てて言っていた。
『私以外の、教会関係者に関わるなよー。これ、忠告だから。』
『あー。そう。そうそう。これはちんふつのかんてん。』
『Ha?』
金髪ツイテール巨乳目鼻美少女が若干ネイデイブの入った、現代日本人の疑問形を吐露する。
『神祓の原典だっての。』
俺の耳元の空気を振動させて闇天城は呆れた声をだす。
『ソリーソリー。神祓の原典。ヤァ。』
意味もなく、ヘッタクソな初音の英語を混ぜて誤魔化す。
『もしかしてあんた私より位が高かったりする?』
『あー。それはないから安心して。』
『そ、そうなの?一応名前聞いといていい?私の名前はJessica Cruz。』
『アイアム 、神保(神保) 龍之介。』
『Ok、神保って呼ばせてもらうわね。』
『俺もジェシーって呼ばせてもらうぜっ。』
『クルスって呼んでくれない?』
『ジェシーなんでそんなこと言うんだ!俺たちもう友達だろジェシー!?なぁ!ジェシー!』
『もうジェシーでいいから、大声出さないで!!』
俺の声を優に超える音量でジェシーは叫ぶ。
そんなに嫌がんなくてもいいじゃんと思いながら。どす黒い気配を感じてジェシーの背中側の前方を見ると、禍々しい怪物がじっとこっちを見ていた。
人と同じくらいの蛙だろうか?背中から人間の手が何百本と生えていて、その腕が蛙を叩き続けている。
『ジェシー…後ろ。』
『なによ…!?』
俺の忠告で振り向いたジェシーはゆっくりと首をこちらに戻す。
『最悪。』