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獄異譚  作者: 譚海 沈
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モノローグ

モノローグ


僕が夏休みに体験したこと…。

違う。あれは地獄だった。まるで休日にテーマパークへ行ってきましたなんていう程度の気楽さで、気怠さで語るには幾分かの語弊がある。

僕の地獄について知った。

死生観とか当たり前の倫理感を貪り尽くされ、殺し尽くされた夏休み。

何より恐ろしいのが始まりに過ぎないということをわからされた。

あの人の言葉が脳裏に焼きつき反響し、木霊する。


『『地獄は頭の中にある。』』


脳から湧き出る記憶の汁。

地獄。

地獄って何かを体験した1ヶ月。

太陽の熱を思いっきりに吸い込んだ黒いアスファルトの感触を靴裏でなぞりながら。うだるような熱さを日常を、明確に噛み締めて汗を拭う。


『 『地獄は頭の中にある。』』


蝉たちの振り絞るような鳴き声を無視してその声は何度も何度も蘇る。

だから僕は額の汗を、ワイシャツの胸元を掴み上げ拭う。


 思い出す。長い黒髪の女性。僕を見殺しにすると言い放った唯一の救済者。

 右頬に割れた六芒星の刺青をしたその女は均整のとれた二重の瞼を片目だけ大きく開く。そしてゆっくりと右手の人差し指を自分の顳顬(こめかみに)に押しつけて言うのだった。決まって言うのだ。


『『地獄は頭の中にある。』』


見覚えのある景色の中。ただ歩く足は棒のように立ち止まる。高校までの通学路。たった3カ月だが知った道だ。そんな親近感のある日常に対して恐怖を覚える道理はない…。ないはずだが。


『ははっ…。』


始まりの地獄を思い出す。感情が麻痺して、乾いた笑いが口から漏れる。

気温30度を越す蒸し暑さはなりを潜めて、冷や汗が毛穴から、鳥肌のたった毛穴から滲み吹き出すのを感じる。

目を閉じる。見知った通学路の筈だッた景色を記憶からなぞるようにして目を開ける。

これは誰の地獄だ。

太陽が月に変わり緑陽樹が萎びた枯れ木に。橋の下の烏川の綺麗な水面は工業排水で汚染された汚らしい7色の汚色にまみれ流れている。

綺麗に舗装されたアスファルトは砕けひび割れ、人間を象徴する住宅群は見る影もなく潰れている。

この景色の荒廃感。

見覚えしかない。


『『地獄は頭の中にある。』』


反芻される言葉と共に、僕を見捨て、見限ったあの人の行動が身振りまで思い出される。


『『お前はもう見る側だよ。』』


そう言って僕の地獄から僕を突き落としたあの日の続きが、2日ぶりに始まりをつげる。

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