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異世界へ

「へ?何処よ、ココ?」


ふと顔を上げたら、ここは異世界でした。

いや、文字通りの意味で。


今日もなんだかんだで2時間ほど定時から遅れて会社を出る。社員通用口を出た後、駐車場へ向かう途中スマホを取り出して着信履歴を確認。もちろん女性からの連絡など、無い。

ざっと確認を終えて顔を上げたーー








目の前は、見知らぬ町並みだった。小路に立ち尽くすこと数十秒、再起動を果たした俺は小路を抜けて大通りに出る。そこには明らかに現代の日本ではないようなーー

なんだろう、ヨーロッパ的な町並み?もう夜も更けているので人通りはそんなに多くない。

いや、ちょっと待てよ。なんだか歩いている人たちが変だ。なんつーか、コスプレ?時代がかった格好に、鎧みたいなものを着ている人たちもいる。


「ちょ、マジかよ…!?」


なんだよ、狼みたいな顔した人や、ドワーフ?エルフ?猫耳?およそ異世界転移といえばこんな感じの人たちが居るんだろう、っていうのを想像してみてくれ。そんな感じ。

やべ、ジロジロ見てたら猫耳の娘に睨まれた。スマン。


しかし、一体どの位そこに立ち尽くしていたのだろう。たっぷり自失しきった後、俺は改めて慌てふためく。


「やべえ!なんだコレ!?一体どうなってるんだよ…!?」


とりあえずさっきの小路に戻ってみる。行き止まりを見て再び大通りに出る。とりあえず入れそうな小路を覗いたり

入ったり、ぐるっと回って元いた場所に戻ったり。

要は混乱してあちこち行ったり来たりしていた訳だが、とうとう疲れ果てて俺はその場に座り込んだーー





◆◆





「おい、大丈夫か?」



突然頭上から声をかけられる。凛とした女性の声だ。反射的に顔を上げると、俺は再び我を失うこととなるーー


あり得ない出来事にひとしきり混乱しきった頭にもなお鮮烈に映る白銀の鎧を纏った清らかで美々しい麗人。それはまるではるか昔より多くの人々を魅了してきた伝説の戦乙女のよう。

名前にするとシャルロットとかそんな感じかなあ、とか訳の分からないことを考えているともう一度声がかかる。



「聞こえているか?私は聖騎士(パラディン)のシャルロットだ。何処か痛むところがあれば教えて欲しい。私は君を癒す力を持っている。君の具合について教えて欲しい」



「えっ?ーーああ、すみません。いや、ケガとか無いんですけど、あの、ココって何処ですか?」


「ここはフレイム帝国の帝都、アイシスだ。君はこの国の民ではないのか?」


「はい、あのーーちょっと混乱しててよく分からないです。すみません」


俺はかいつまんでこれまでの経緯を女騎士に説明した。日本という国にいたのに、気がついたら突然この場所に居たという事。だからここが何処なのかも知らずフレイム帝国や帝都のアイシスという地名も知らないという事。信じ難いかもしれないが俺自身は普通の会社員で怪しいものではないという事。まあ、俺自身なにがなんだか良く分かっていないので突拍子も無い話になってしまったが、女騎士は黙って頷きながら良く聞いてくれた。




「つまり君はここに何故来たのかも分からず、戻る方法も知らない、という事か」


「はい」


「そしてフレイム帝国や帝都のアイシスの名に聞き覚えがない」


「ーーはい」


白神(しらがみ)赤神(あかがみ)これらの神々の名に聞き覚えは?」





「ーーすみません、わかりません」



「ふふ、君は謝ってばかりだな。知らないものはしょうがないだろう。しかし大っぴらに話すことでもない。この国に居てその名を知らないものはいないだろうからな。余計な軋轢を生まぬためにも明かさぬ方がいい」


特にこれから向かう所ではな、と言うと女騎士は立ち上がる。そして此方に手を差し伸べてくれた。




「立てるか?」


「あ、はい。大丈夫です」



彼女の差し伸べてくれた手につかまり、身体を起こす。立ち上がってみて気づいた。彼女、かなり背が高い。180cmは軽く超えてるんじゃないか。羨ましい。ちなみに俺は170cmだ。およそ、な。



「ヒソカ、君の話を信じよう。これより君は聖騎士(パラディン)シャルロットの庇護下に入る。君の望みを全て叶えることは出来ないが、当面の暮らしは保障しよう」


「え?本当ですか!?」


「ああ。信じてもらっていい」



おおっ!なんたる幸運!どうしようか途方に暮れていたところ、これでなんとかなりそうだぜ!



「ふむ、もし良かったらこれからすぐ教会へ案内しよう。この辺りも暗くなると物騒だからな。なに、清貧たるわが教会でも茶の一杯くらいは出るぞ」


そう言って女騎士は片目を瞑ってみせた。やべえ、あまりに笑顔が眩し過ぎて直視出来ない。しかし、この提案は正直ありがたい。俺は素直に御礼を伝えその提案に乗せてもらうことにした。




















ーーその後、あんな恐ろしい目にあうとは知らずこの時の俺はただただ安堵していた。そして、この後ついに日本に帰ることが出来ないままこの世界で生を終えることになることなど、勿論知る由もなかった。




















◆◆









「ーーんまあ、なんて気の毒なのぉ!?可哀想に、ずぅっっっとここに居て良いからね!?」





「あ、いえお構いなく」




ーー目の前には身につけた青い修道衣がパンパンにはち切れんばかりに膨れ上がった筋肉ダルマがくねくね悶えながら此方を抱き締めんばかりに両手を伸ばしてくる。

モヒカンにヒゲ、片目に傷を負った野獣のような大男が何故かオネエ言葉でにじり寄ってくるさまなど、極限の悪夢としか思えない。やたら良い匂いを漂わせてしなを作るあたり、ホントに気持ち悪い。だからその計算され尽くされた角度からの上目遣いはやめいーー







「ザンゲフ司祭は人格者でな。そして君の成すべき道を明らかにする奇蹟を起こすことが出来る。きっと君の力になってくれるはずだ」




「ハイ、アリガトウゴザイマス」



とはいえ、此方もこの差し伸べられた手を払いのけることが出来る立場でもない。例えその手が毛だらけの岩のような手触りだったとしてもな!




ーー俺は覚悟を決め、姿勢を正して筋肉司祭に向き合う。





「ザンギエ…ザンゲフ司祭。ご迷惑をおかけ致しますが、どうか宜しくお願い致します」




「任せてちょ〜だいっっ!これからはアタシがずぅっっと一緒だから、もう寂しい思いはさせないからねっ?」




「あ、いえお構いなく」






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