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セラフィンゲイン  作者: 鋏屋
EP-1 セラフィンゲイン
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第5話 ターミナル

 唐突な意識の消失から解放された俺は、足の裏に確かな接地感を確認し自分の意識を固定させ、消えつつ有る耳障りな耳鳴りが止むのを待ってからゆっくりと瞼を開いた。

 ざわついた雑踏を確認するまでも無く、目の前に広がる風景は先ほどの殺風景な接続室などではなかった。

 目の前に広がる景色はセラフィンゲインに最初に転送される『ターミナル』と呼ばれる町の風景だった。

 ほぼ天頂方向から照らされる陽光に反射し、行き交う人々の向こうに据えられた噴水がキラキラした水しぶきを煌めかせ、その存在感を誇示している。その噴水を取り巻くかのように配置された建物は、そのどれもが現実世界の中世ヨーロッパを模したような木材や石などを主体とした意匠に彩られており、初めて見る物に強烈なギャップを持たせるに十分な雰囲気を醸し出していた。

 現実世界に存在する東京の湾岸に建造された某テーマーパークに行った時のような感覚と思って貰えばいいかも知れないが、はっきり言ってこちらはさらに生々しい現実感を出している。

 当たり前だが鼠やクマをなどの可愛らしい動物たちを題材にした着ぐるみ達が徘徊するわけではなく、周囲を歩き回る人々の衣装もまた周囲の景観にマッチした物になっている訳で、本当に自分がタイムスリップをしたような感覚になる初心者のプレイヤーも多いはずだ。

 でも間違ってはいけない。

 現実の歴史には存在しない世界であることを。

 いかに外見が似ていようともこの世界は違う。

 例のテーマーパークは確かに魔法の国をモチーフにしているが、ファンタジーアニメの世界を模した物、あくまでそれらしく見せた作り物である。

 だが此処は紛れもなく現実と呼ぶにふさわしい存在感を持った魔法の世界なのだから……



 噴水の前に立ち、ガヤガヤと騒がしい周囲を見渡す。接続前まで掛けていた眼鏡はこの世界に転送された時点で無くなっている。

 そう、この世界は俺の脳内に直接投影されるいわばイメージの世界であるので視力の矯正は必要ない。眼鏡そのものは存在するのだが、キャラクターのドレスアップを目的とした物や特殊な効果が付加された魔法のアイテムの物で、現実世界の「視力の矯正」のための眼鏡は存在しないのだ。

 これと同様な理由で、たとえば何らかの理由で肢体不自由な人であってもこの世界では不自由ない体で活動ができる。ただし脳に障害がある場合は、その程度にもよるがその限りではない。電気信号による大脳皮質への直接喚起をその手段にしている以上、これは仕方がないことだが、それと同じく麻薬などの中毒症をもつ者も脳とシステムとのシンクロを乱してしまうため接続出来ない。もし偽って接続しプレイ中に何らかの発作や禁断症状等の行動が出た場合、サービス側に強制的に接続をカットされる様になっていた。

 それ以外の人の初期設定は全て平等に設定される。不自由な人はそうでない人を、肉体的、体力的に弱い人は強い人を。費やした時間と努力、工夫や知恵、それに対する情熱、そして何よりも勇気によってそれを凌駕することが出来る。

 現実世界ではほとんど建前と化している本当の意味での「平等」はこんな虚構の世界でのみ実現可能な幻想に過ぎないのかも知れない。


 俺はとりあえず腰の太刀を始め、今現在持っている装備を確認することにした。

 この世界に接続したプレイヤーはまず自分の現在の装備を確認することから始まる。初めてここに来る初心者以外は最後にセーブ(データ記録)した時の状態のまま接続される。装備は勿論、常に今自分がどのようなアイテムを持っているかを把握しておくことはプレイヤーの基本。これを怠ると後で泣くのは自分ばかりか、一緒にクエストに参加しているチームのみんなにも迷惑が掛かるのでこまめにチェックする必要がある。単独で行動するソロプレイヤーなら話は別だけど、ほとんどのプレイヤーがチームプレーを前提行動するだけに、それは最低限のマナーだ。

 俺が一通り装備品を確かめていると、俺のすぐ隣の空間に細かな光の粒が発生しそれらが次第につむじ風の様な渦を巻き始めた。これはプレイヤーがこの世界に転送される前兆である。

 渦が急速にその範囲を狭め中央に凝縮されていく。次の瞬間、パッと光が弾けて忽然と一人の人間が現れた。

 薄い緑の布地に深紅の縁取りの付いた胴衣。少し太めの同色のズボンに腰から膝下まで隠れる腰覆い。燻銀のような光沢の肩当てから皮バンドで繋がった胸当ては女性の体型を考慮して膨らみを持たせた成形になっている。肩口まで有ろう髪を後ろ手に結び、下ろした前髪を肩当てと同じ材質であつらえたであろう籠手を付けた両手で無造作に掻き上げ、ゆっくりと目を開いたその美貌…… ビジュアル系悪魔、兵藤マリア。

「うわぁ……すごっ……」

 開口一番そう呟き周囲を見渡すマリア。

 いや、此処はもうセラフィンゲインだ。彼女は現実マリアであってもマリアではない。此処での名前は『ララ』 モンク【武闘家】のララなのだ。

 それにしても予想通りビジュアル最高! 俺的には密かにミニスカ女剣士を期待していたのだが、コッチも凄く良い。やっぱり素材が良いと違うわ。似合うとかそういうのを超越してるな、こいつは。

 そんなララの容姿に見とれていたら周囲を見回していたララの瞳がそばに立つ俺を確認した。

「うわっ、あんたカゲチカ!? ずいぶん雰囲気違うわね〜」

 そう言って俺を品定めするかのように下から上へと視線をはわせる。

「あんた、あのへんちくりんな眼鏡やめてコンタクトにしたら? 結構イケてるわよ」

 好きでへんちくりんになったんじゃない。高かったんだぞ! あの眼鏡。

「余計なお世話だ。それに此処ではリアルでの名前を呼ぶのはタブーだ。俺のことはシャドウと呼べよ」

「へぇ〜ホント普通に喋るんだ。別人みた〜い」

 どうも調子が狂う。だからリアルで知り合いの人とはコッチで会いたくないんだよな。

「ララ、携帯持ってるか?」

「え?」

「恐らくその腰に付いてるポーチに入ってるはずだ。ちょっと出して見ろ」

 俺がそう言うとララは腰のポーチをまさぐり折り畳まれたシルバーの携帯電話を取り出した。

「ホントに携帯なんだ……」

「コイツはこの世界でのみ使える連絡ツールだ。電話機能の他にもメールやマッピング機能、自分のステータスデータ閲覧機能なんかもあるが、もっぱらチーム内のメンバーと連絡を取ったり他のプレイヤーとの連絡などに使うことが多いだろう。とりあえず迷子になると面倒なので、ララのデータを俺の携帯に転送しろ」

 セラフィンゲイン内では全てのプレイヤーがこの携帯電話型端末を持っている。現実世界の携帯同様押しボタンがあるが、番号を押してダイヤルする事はない。登録した相手のキャラ名を検索して発信するだけ。じゃあ『何故ダイアルボタンがあるの?』つー事は俺には聞かないで。俺だって知らないんだから。こんな形してるんだからとりあえずダイアルボタンがついてないとカッコが付かなかったんじゃないかな。

 フレンド登録のさいもダイアル番号を押して登録する訳じゃ無い。お互いの携帯を近づけ送受信に振り分けられた番号のボタンを押すだけでデータのやりとりが可能だ。

 現実の携帯電話もあまりその都度番号を押して掛けることが少ない昨今、そのうち電話機能自体がオプションになる日が来るんじゃないか?

 とりあえず俺も携帯を取りだしララの携帯に近づけボタンを押した。

「あれ? あんたの黒いんだ」

「ああ、コイツは自分好みにカスタマイズが出来るんだ。俺のは配色変更で黒にした。後でやり方を教えてやる」

 程なくして送受信終了のデジタル音が流れ、データのやり取りが終了したことを告げる。

「使い方は現実の物とさほど変わりはないからわかるだろ……」

 と言った瞬間、俺の携帯が鳴った。液晶モニターに表示されるララの名前。どうやら使い方は大丈夫なようだ。

「でもさ、他がこんなにレトロなのに、何で携帯なの?」

「知らん。此処にいる全員がそう思ってはいるが、納得できる回答がでてくるわけないだろ。細かいことはスルーするのが此処のルールだ」

 自分で言っててわけわからん。つーかプレイヤーの暗黙のニーズや疑問点なんかにいちいち対応しようなんて気はさらさら無いよ、此処の運営側。

「とりあえずスノーとの待ち合わせもあるので『沢庵』に行く。説明は追々してやるから俺の後に付いてこい」

「は〜い。宜しくね、ガイドさん」

 と、少々浮かれた感じで答えるララ。悪魔的要素満載の実害が無いのは良いのだが、リアルでの彼女を知るだけに何とも言えない気持ち悪さを感じる。あんたキャラ違うやんけ。

 とりあえずそんな妙なテンションのララを連れ立って俺は広場を後にし、スノーとの待ち合わせ場所である沢庵に向かった。

 セラフィンゲインの主要施設は此処ターミナルの噴水広場である『エレメンタルガーデン』にそのほとんどが面しているが、レストラン『沢庵』は通り一つ向こうにある。

 俺達は先ほどの俺達と同じように転送されてくるプレイヤー達を避けながら裏通りに出た。

 噴水広場ほどではないが、それなりに人通りがある通りだ。行き交うプレイヤーも皆思い思いのカッコをして通りを歩いているが、中には数人システムが管理するプログラムであるNPC【ノンプレイヤーキャラクター】も混じっている。この世界のNPCはAIで非常に良くできていて、質問への応答や、この世界の日常会話などは楽にこなせ充分話し相手になる。

 初心者のプレイヤーが本当のプレイヤーと間違えて話しているなんて馬鹿な話しも良く聞くが判らなくもない。

 それぐらい出来の良いAIだが、あくまでAI。数万通りの回答を基本に経験した会話から学習する優秀なプログラムだが、意味不明な質問には対応しきれない。ちなみにAIかどうか見極めるには意味不明な質問を投げかけ、回答を吟味し見極めればよい。この会話はプレイヤーの間で『パラドックス・トーク』と呼ばれている。

「裏通り、通称『寝床通り』だ。向こうにすっとぼけた色した看板が下がっているのが見えるだろ。あれがレストラン『沢庵』だ」

 そう言って指を指す。どうやらララもすぐに看板が判ったようだ。もっとも、紫の縁取りに赤とオレンジの文字なんて看板、1キロ先でも確認できるだろう。どういう色彩感覚の持ち主がこさえたのかは謎だが、およそ看板という機能は確実に発揮できていることは間違いない。

「ねえ、なんで『寝床通り』なの?」

 と、ララがもっともな質問をよこす。

「沢庵のはす向かいにある尖塔アーチの屋根の建物わかるか?あれは『狩り者の寝床』つって俺達プレイヤーに与えられるプライベートルームがある建物だ。ベッドで休息を取ったり集めたアイテムを保管するBOXがあったりと、およそ自分の部屋として使える。言ってみりゃ長期滞在のホテルのような物かな。そこにちなんでみんなそう呼んでいるのさ」

 建物の外観はヨーロッパの中型アパートみたいだが、入ってすぐのロビーに面した10枚のドアのどれでも好きなドアを開けると、そのドアを開けたプレイヤーの部屋に接続する仕組みになっている。仮想空間であるセラフィンゲインならではの仕組みだ。

 ただ、一つの部屋には一プレイヤーしか入れず、知り合いやチームメイトを招き入れる事は出来ない。恐らくサーバの負荷を考慮してのことだろう。

「こういうゲームに良くある『宿屋』みたいな物?」

「う〜ん、まあ、ホテルに例えたが、此処は何回使っても料金はかからないし、完全なプライベート施設だから、そう言った意味合いからするとこの世界での『家』みたいな物かな」

 そう説明しつつ『狩り者の寝床』を右手に通りすぎ、俺達は沢庵の前まで来た。

 大判の樫の木の板に紫色の縁取りがされ、その中にまるで怒りにまかせて筆を叩き付けたような字体の漢字で大きく『沢庵』と書かれた文字が、赤とオレンジといった素っ頓狂なカラーで踊っている。

 俺達より先に数名のプレイヤーが重厚な作りの木製扉を開けて中に入って行く。俺達もその後を追うように店内に入った。

 開けた瞬間、ザワザワとした喧噪が鼓膜を刺激する。中は外からは想像できない広さだ。ざっと大学の教室二つ分はあるだろう店内にはびっしりと円卓が並び、ほぼ満席に等しい繁盛ぶりだ。

 テーブルを囲んでこれからエントリーするクエストに向けて入念な作戦を打ち合わせるプレイヤー達。そんなテーブル間を忙しなく注文を取り、通り一辺倒に復唱するNPCの店員達。手を叩きかつての戦友との再会に声を踊らせる者。食器やテーブルを叩く音をBGMに意味不明なかけ声で気合いを入れるチームなど……店内はそんな喧噪のごっちゃ煮だった。

 内装は他の施設の例に漏れずヨーロッパ風で、看板の色彩感覚もさることながら、どう考えても店名が致命的に間違ってると言わざるを得ない。開発者のネーミングセンスに首を傾げたくなるが、そこのところは携帯同様スルーしよう。考えるだけ無駄だ。

「うわ〜ひろ〜っ、でも満席じゃん」

 感心した声でそう言いながら店内を見回すララ。アクセス開始からまだ間もないこの時間はいつもこんな物だ。みんなそれぞれ待ち合わせやクエストの作戦会議などでこの店に集まってくる。

 待ち合わせにはこの店の他に別の施設があるのだが、そっちはいつの間にか俺のような傭兵が屯するようになり、他のプレイヤーは依頼以外寄りつかなくなってしまった。

 『待ち人の杜』なんつー洒落た名前があるのだが、何時の頃からか『傭兵の巣【ネスト】』と呼ばれるようになったのだ。もっぱら俺はそっちに居ることが多く、この店に来るのは久しぶりだった。

「やれやれ、待ち合わせも一苦労だな。先に来ているのかもわからんし……」

 そう呟いた途端、俺の携帯が振動と共に場違いな電子音を鳴らす。モニターにはスノーの名前が表示されている。

 オイオイちょっと待て。何でアイツの端末が登録されてるんだ? 不思議に思いながらボタンを押す。

「何故俺の携帯に直接交信できるんだ?」

 受け言葉を省略して俺はそう聞いた。凄腕の傭兵が「もしもし、シャドウです」なんて返すのは似合わないだろう?

「前に一緒にクエストに参加したって言わなかったかしら? 46番テーブル、待ってるわ」

 そう言うと一方的に電話を切られた。

 そういやそんなこと言ってたな。しかしさっぱり覚えがない。それにしても何とも愛想のない電話だった。やっぱり彼女もセラフィンゲインの魔女だ。リアルの雪乃とこの世界のスノーとはキャラが違うらしい。まぁ俺も人のことは言えないけどね。

「雪乃、先に来てるんだ?」

「ああ、向こうは俺達に気付いたようだ。46番テーブルに来いってさ。それよりララ、いい加減リアルの名前で呼ぶのはよせって。ここじゃアイツはスノーだ」

「あ、そうか。ゴメンゴメン。じゃ、早いとこスノーのとこ行こっ、ねっ、シャドウ」

「あ、ああ」

 コイツの「ゴメン」なんて言葉初めて聞いた気がする。ヤバイ、いやに可愛いんですけど…… 

 容姿が容姿だけに破壊力有る。騙されるな、俺!

 気を取り直し、ぎっちり並ぶテーブルを避け店内を進むと、少し先に白いローブを羽織った女が手を振っているのが見える。テーブルには彼女の他に3人のプレイヤーが座っている。

 大柄な体躯を持つ男と中肉中背の男。そしてその隣に『中坊か?』と思えるようなチビの男。大、中、小と揃った一見『狙った?』と聞きたくなるような綺麗な階段ラインを描いて座っている。

 手前のどう見ても『傷のないドズル中将』にしか見えない顔の大男は装備からしてガンナー。隣の『デューク東郷』のような眉をした中背男は僧侶。そして最後のチビは戦士と言ったところか。

 チビは顔は普通なんだが目が逝ってる。なぁお前、リアルで二、三人刺してないか?

「待たせたか?」

「いえ、私たちも今来たとこ。ようこそ、えっと……」

 とスノーが俺の後ろで突っ立てるララに声をかける。

「ララよ。こっちでは……初めましてになるんだよね?」

 一応気を使ってるらしい。さっき言ったこと憶えている様だな、感心感心。

「そうね、初めまして、ララ。ようこそ『セラフィンゲイン』へ」

 挨拶もそこそこ、俺は早速スノーの横に座っている妙なトリオについて聞いてみた。

「そこに座ってる三人組はなんだ?お前の親衛隊か何かか?」

 素っ気ない通り越してかなり失礼な言い方だが、これぐらいでないと傭兵家業なんか務まらない。

「彼たちは違うわ。貴方と同じように私がスカウトして来たの。三人とも腕は確かよ」

 俺のそんな物言いに、さすがに場数を踏んでるらしく全く気にしない素振りでそう答えるスノー。

 彼たちは違う―――?

 サラリと返されたが、そんじゃ他にいるって訳か。まあこの容姿ならあり得るな。ファンや親衛隊の一個連隊ぐらい居ても不思議じゃない。しかし冗談で言ったつもりだったんだが、マジでいるのかよ親衛隊。TVアイドルにでもなった方が良いんじゃねぇか?

「あら〜、これが噂の『漆黒のシャドウ』?割といい男じゃな〜い」

 と少々バスの聞いた声音で妙な言い回しをしながら立ち上がるドズル中将。

 オイオイなんだ?この生き物は!?

「紹介するわね。彼はマチルダ。でもあだ名はドンちゃん。見ての通りガンナー」

「宜しくね。あたし、セラフじゃなくて貴方も狙っちゃおうかしらぁ〜あははは!」

 マチルダ…… 

 違う、致命的に間違ってる。お前は絶対ドズル・ザビだろっ!世の中のガノタ全員敵に回す気かっ!

 硬直している俺にスノーが補足説明。

「ドンちゃんはこう見えてもリアルじゃ二丁目でお店持ってるのよ。キャラの名前はお店の名前から取ったのよね?」

 こう見えてもって……まんまやんけっ!

「そっ、宣伝も兼ねてんのよ。今度遊びに来てね、サービスするわよ〜」

 そう言ってウインクする二丁目ドズル。

 宣伝ってオイ……

 誰が行くかっ!そんなマニアックな趣味は無ぇ。

 ―――が、間違ってもビクザムの射程距離に入らないよう、店の場所だけは後で聞いておこう。

「それで隣に居るのがビショップのサモン。私はサンちゃんって呼んでるの。サンちゃんはね、リアルでも本物の曹洞宗のお寺の住職さんなの」

 そう紹介を受けたローブ姿のデュークは無言のまま俺に会釈した。

 なるほど、それでビショップか。しかし現職の坊主がこんな殺戮そのもののようなゲームに参加して良いのかよ? 世も末だな…… 

 つっても顔は希代のスナイパーなんだからガンナーの方が合ってないか?実際。

「そして最後に戦士のリッパー。彼二刀使いなの。珍しいでしょ?肉を切る感触をいっぱい味わいたいんだって。ちょっと変わってるけどなかなか強いわよ」

 確かに二刀使い【ダブルブレイド】とは珍しい。正式には【双斬剣】つー剣に属する武器で普通の剣より若干短く両手に一本づつ装備する。二本で一つの武器としてカウントされ盾と同時に装備することが出来ない。

 盾を装備出来ないのは俺の使う太刀も同様だが、リーチを存分に利用し、流れる連続切りと高い切れ味を誇る攻撃力で大ダメージを狙う太刀とは違い、双斬剣は一回当たりの攻撃力が低く手数によってダメージを伸ばす武器だ。セラフとの短い接近時間にどれだけの数の斬檄をヒット出来るかが鍵となる。

 連続して斬りつける事を想定して作られている為、武器自体の重量が軽めに出来ている物が多く一見扱いやすそうだが、如何せんリーチと攻撃力が乏しいため接敵時間が長くなりがちで致命的なカウンターを食らいやすく使用者はすこぶる少ない装備だった。

 確かに斬りつける回数は他の剣より格段に増すだろうが、肉を切る感触ってお前……

「なかなかじゃねぇ、かなり強い」

 スノーの紹介を若干修正してチビが口を挟む。

 そういや確か以前に聞いたことがある。戦闘が始まるとまるで何かに取り憑かれたように斬りつけまくるチビのバーサーカーの噂―――コイツのことか。

「強いチームならそれだけ上のセラフを切り刻めるだろ?う〜っ、ゾクゾクするぜ」

 あぶね〜危なすぎるぞお前っ!

「りっちゃんは実家が精肉工場で、そこの2代目。お肉切るのが商売やってるうちに快感になっちゃったんだそうよ。時々町歩いてても肉を切りたくてしょうがなくなる発作が出るんだって」

「……そうなったらどうするの?」

 俺と同じ疑問を質問するララ。そのララの質問にリッパーは何故か自慢げにこう答えた。

「どうしても抑えられなくなったら自分を切るのさ。こうやって手のひらにナイフ当てて……痛みと同時に来る快感で発作が納まる。慣れるとこれが病み付きになるぜ〜」

 アホかコイツ。

 慣れるかっ、んなもんっ!病み付きじゃなくてお前自身が病んでるだろ絶対っ!頼むからリアルで俺の家の廻りをうろつかないでくれ。

 二丁目ドズルのガンナーにゴルゴなマジ物ビショップ。そして切り裂き狂のイカれた二刀流剣士にレベル1のモンクかよ……どうでもいいが、此処ではリアルでの事は、普通タブーなんだが、今のスノーの紹介に誰一人文句を言わないっていうのもすげーな。たいしたカリスマだ

 それにしても正直本気でめまいがする。こんなお笑い大道芸人のようなメンバーで本当に最強チームを作るつもりなのか?

「なぁスノー。悪いが俺は……」

 と言いかける俺を遮りララが口を挟む。

「良いじゃん、みんな個性的で。楽しいチームになりそうじゃない。ねえ、シャドウ」

 そう言ってララはさっさとテーブルの席に着いた。

「とりあえず自己紹介。あたしはモンクのララ。今日初めてここに来たの。初心者だけど頑張るからみんな宜しくね。はいっ、次はあんたの番でしょ」

 そう言って俺の背中を叩いた。さっき言いかけた「帰らせて貰う」という言葉を完全に言いそびれてしまった。くそっ、ララのやつ、余計なことを―――

「……俺は魔法剣士シャドウ。とりあえず宜しく頼む」

 仕方ない、とりあえず様子を見ようか。これからこのチームがお笑い集団になるのか、それとも本当に伝説の最強チームになるのか。抜けるのはそれを少し見てからでも遅くない―――かぁ?

 やっちまった感バリバリな気分の中、俺は渋々席に着いた。

 この変てこりんなメンバーが、後に俺にとってかけがえのない仲間になるなんて、この時はこれっぽっちも思っていなかったんだよ……


初めて読んでくださった方、ありがとうございます。

毎度読んでくださる方々、心から感謝しております。

第5話更新いたしました。

この回で主要のチームメンバーが出そろいました。当初このメンバーで行く予定でしたが、レベル1であるララの存在があるため、どう考えても戦力的に不利ですので次回にもう一人登場予定です。今回出てきたメンバーのキャラ達も個性的ですが、もう一人もかなり逝っちゃってるキャラです。皆、リアルじゃ色々な問題を抱えていそうなキャラですが、智哉同様セラフィンゲインでは一流のプレイヤーとして認められています。このキャラ達とのリアルでの智哉との絡みも後ほどある予定ですが、まずは初顔合わせということで。


〈次回予告〉

スノーの主催する新しいチームに参加する事になったシャドウだったが、紹介されたメンバーは微妙なキャラ達ばかり。とりあえずやっていこうとするのだが、ララがLV1であることでチーム前衛の戦力に不安が残る。もう一人前衛に強力なキャラが欲しいと考えるスノーはシャドウに心当たりはないかと問いかける。そんなスノーの問いかけに、シャドウはかつて自分が所属していたチームメイトで、今は傭兵をやっている槍使い【ランサー】を紹介するのだが……


次回 セラフィンゲイン第6話 『チーム・ラグナロク』 こうご期待!(笑

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