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セラフィンゲイン  作者: 鋏屋
EP-1 セラフィンゲイン
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第4話 ウサギの巣

 午後の講義は全体の三分の二の時間を夢の中で過ごし、なんとか乗り切った僕は妙にテンションの高いマリアを伴ってセラフィンゲインの端末がある秋葉原へと向かった。 

 駅の西口から北へ向かって進み、西側駅前広場をすり抜けアキバブリッチで明神通りをつっきってさらに進む。イヤに目立つタイムズタワーを横目に田代通りを歩いて蔵前橋通りのちょい手前の路地を入ると古びた雑居ビルのような建物が目に入る。

 普段はシャッターが閉まっていて全く人の気配が感じられないこの建物は、夕方になるとシャッターが開き、ぞろぞろと若者が入っていく。

 入っていく人達の格好は様々でサラリーマン風のスーツを着た者、僕たちのような見るからに学生、明らかに電波な人、正体不明の遊民など、本当にバラエティに富んでいる。

 店の看板、ビルの名前を示すような物は一切無く、シャッターが開いているにも関わらず、入り口にひっそりと蛍光灯が付いているだけのシンプルを通り越して荒廃感すら漂うこの不思議なビルの地下に、魔法の世界の入り口があるなんて普通の人だったら想像も付かないだろうなぁ。まずビル自体気が付かないかもね。

 元に僕も行きつけのゲームショップの店長から聞いてここに来た時、気がつかなくって三回通り過ぎたしな。

「ちょっとカゲチカ、ホントにこんな所にそんなゲームセンターがあるの?」

 とマリアがもっともな疑問を投げかける。始めてきた時はみんなそう思うだろう。

 ただちょっと待て。ゲームセンターじゃないぞ。

「ああ、が、外見から、みみ見たら、ちちち、ちょっと、わ、わから、らんけどな」

 そう、ここが仮想世界セラフィンゲインの端末がある通称『ウサギの巣』の入り口だ。

 東京都内には此処の他に、渋谷にもあるらしい。そちらには行ったことがないので解らないけど、多分そこも似たような感じだろう。

 数万人規模のオンラインであるため世界各地でもかなりの数の端末があるはずなんだけど、何故か端末の場所は公式には発表されていない。ファンサイトやコミニティーサイトはやたらあるけど、普通一般にあるような公式HPなんつー物は一切無し。ネットの口コミや僕のように常連のゲームショップの店長などから場所を聞いたりして探すほかに僕は手段を知らない。

 それでもかなりの登録者があって、おまけに初回登録料や毎回のアクセス料なんか、かなり高額で儲かってるんだろうから、もっと大々的に宣伝してちゃんとした建物で受け付ければいいと思うんだけど、どういう訳か全くその気配が無い。

 サービス自体を提供している会社は、最近急激に成長している外資系の企業なんだけど、その伸びの原動力は全く別の分野で、企業のホームページを覗いても事業内容の一番下に一行『セラフィンゲイン』とあるだけで全くわからない状態だった。

 ネットの掲示板などでは半ば都市伝説めいた様々な憶測や噂が飛び交っているが、どれも信憑性に欠ける戯言ばかり。ホント謎だらけのゲームだ。

 しかしそんな妖しげなゲームであるにもかかわらず、日本だけでも数千人の登録者がが居るんだから世の中一体どうなってるんだろう。

 むしろそんなミステリアスさがまた、今の若者のニーズにストライクだったのかもしれない。まぁ僕もそのウチの一人なわけで、偉そうなことは言えないけど。

 それだけ妙な刺激に飢えてる人が多いんだろう。世界は一応平和なんだなと実感。

 ビルの入り口には今時珍しい両開きの鉄製框扉が付いているのだが、これがまたやたらに重い。始めてきた時は鍵が閉まっているのかと思ったぐらいだ。

 僕とマリアはそのクソ重い扉を開けて中に入った。中は外の寂しい雰囲気とは裏腹にガヤガヤとした喧噪に満ちていた。

「へぇ〜 中は結構広いのね」

 入って匆々マリアが呟いた。そう、中は外からじゃ想像しにくい広さでちょっとしたホテルのロビーぐらいの広さがある。

 左手に受付カウンター、その前にはちょっとしたテーブルが十数台ほどあり、それぞれのテーブルでは数人の若者達が雑談していて時折変な声を上げている。

 右手には数カ所パーテーションで仕切られた記載カウンターと数台のPC端末が並び、天井から生えたアームが大きな三台の液晶モニターをがっちり掴んでいる。モニターにはエントリーの呼び接続を済ませた登録名が羅列しており、その横には『Standing by』【待機中】の文字が赤く点灯していた。

「なんかさ、空港の発着ロビーみたいね」

 そうマリアが感想を漏らした。確かにそんな感じかなぁ、規模はすこぶる小さいけど。

「とと、とりあえず、う、受付でと、と、登録をしないと。あ、あそこのカウンターの、い、い、一番手前が、と、登録の、ま、ま、窓口だよ」

「よし、ほいじゃちょっといってくるから」

 そういってマリアは右手にある端末に向かった。相変わらず妙にテンション高いな、マリア。

 マリアが登録の手続きを終えるまで僕は適当な椅子を探して座り、天井から下がった大きなモニターを眺めて時間を潰すことにした。

 こう眺めている間にも次々と予備接続をした登録名がくわえられていく。その横にそのキャラのクラスや戦績などが並び所属チーム名などが付け加えられる。

 その中にはチーム名が空欄の者もあるが、これは僕のような何処のチームにも属さないフリーのプレイヤーを表している。

 セラフィンゲインでは仲間と協力してクエストをこなす、いわゆる『チームプレイ』を原則としているんだけど、別にソロでもクエストに参加することは可能でそれに対してペナルティなんかもない。

 しかし簡単にソロでこなせるほどセラフィンゲインの世界は甘くは無く、一番下のクラスCならともかく、僕がエントリーするクラスAは生還すること自体目的と言えるほど厳しい条件付けがされたクエストばかりでかなりサバイバルな環境だ。

 僕も何度かソロを経験しているが、はっきり言ってかーなーりしんどい。そんなわけで、僕は他のチームと契約を交わしてクエストをこなす『傭兵』になった。まあ当然僕も昔はチームに所属してたんだけど色々あって今に至ってる。その辺りのことはあまり触れたくないんでスルー。

 時計を見ると五時を少し回ったところだった。予備接続が開始されるのはきっかり五時からで、実際にエントリーが始まるのは五時半から。それが過ぎるとここに表示されている『Standing by』【待機中】の赤い文字が『Connecting』【接続中】という緑の文字に次々と変わっていく。その瞬間、エントリーしたプレイヤー達の意識は一気に仮想世界セラフィンゲインに転送されることになる。まさに夢の世界の冒険旅行に出発ってわけ。

 そう考えると、さっきマリアが言ってた『空港の発着ロビー』つー表現もあながち的はずれな比喩じゃないな。マリア、上手いこと言うなぁ。

 様々な思惑を抱え、毎晩あの世界で狩りをするプレイヤー達。色々な現実世界のいざこざやしがらみなんかを忘れて、怪物との戦闘に明け暮れる人々。

 退屈な日常から非日常への解放―――みんな夢中になるのも当然だよ。

 僕も現実では何一つ良いことがない。周りに流されるだけの、悲しいくらいにさえない毎日だ。生身の異性とは会話にならず、辛うじて会話として成立してるのは行きつけのアニメショップやゲームショップの店長ぐらい。成績だってギリギリ受かった三流大学の底辺すれすれをキープしてるし、スポーツなんて以ての外。

 普通人間って何か一つぐらい取り柄があっても良い物だけど、僕の場合はそれが完全に欠落してる気がする。きっとこの先の人生も似たような感じで過ぎていって、あっという間にジイサンになっちゃうんだろうなぁ。

 でも、あの世界では僕は全く違う人間としてやっていける。現実どんなにさえないヘタレ野郎でも、あそこにさえ行けば周りのみんなが一目置く凄腕の傭兵として認められる存在になれる。

 現実逃避と言われればそうかも知れない。所詮仮想のゲーム世界だし、そこでどんなに英雄的な存在になっても意味なんて無いのかも知れない。でもこんな僕にとって、あそこでは唯一、自信に満ちあふれた別の人間として過ごせる場所なんだ……

 そんなことを考えつつモニターを眺めていると、カウンターからマリアの素っ頓狂な声が聞こえてきた。

「マジでっ!? しんじらんなーいっ!!」

 振り向くとカウンターでマリアが受付の係員となにやらもめている様子だった。周りの連中が「何事?」と言った顔でカウンターのマリアを見ている。

 マリアがあんな声を出すのは二つの理由のどちらかしかない。一つは食事、もう一つは…… やばーいっ!、そうだ、一つ肝心なことを言い忘れてた―――!

 僕は急いでカウンターに向かった。

「ちょっとカゲチカっ! 初回登録料二万ってどういう事よっ! ボッタクリにもほどがあるわ。おまけに現金オンリーってあんた馬鹿にしてんの?」

 やっぱり―――

 つーか僕に怒るな。気持ちは判るけど。

「それに、一回のアクセス料が一万円って、いったいどういう料金設定よっ! って事はなに? 初めては全部で三万かかるわけ? 冗談じゃないわっ!」

 ごもっとも。たしかにすっとぼけた料金設定だと僕も思う。始めに掛かる登録料抜きにしても、一回のアクセス料が一万円つーのはゲームのプレイ料金としてはぶっ飛んでるよな、実際。

「も、も、持ってない……よな?」

「あったりまえでしょーっ!! 常に三万以上財布に入れて大学行く学生が、あんなしけた大学に通う訳ないでしょっ!」

 ―――重ね重ねごもっとも。彼女らしいと言えばらしいが、大学の経営側の人間が聞いたら激怒しそうなコメントだな。

 そもそも常時三万円も現金持ち歩いている様な奴が僕のような見るからに貧乏学生とわかるような奴に食事代たかるわけがないか。

 そうだよな。確かに高すぎるよ此処の料金。マリアじゃなくても喚きたくなるよマジで。僕も始めてきた時はびっくりした。そうだ、あの時はたまたまバイト代が入ってて持ってたんだよな。金額聞いて止めようと思ったけど、受付カウンターで断れなくなって結局登録したんだっけ、情けない話。

 でも結果的にどっぷりハマってるからある意味ラッキーだって思ってるけど、普通の金銭感覚の持ち主だったら値段聞いて帰るよたぶん。

 尚もブーたれるマリア。う〜ん、雪乃さんとの約束もあるしなぁ……

 はぁ…… 仕方ない。

 悲しいけど奥の手を使うことにするか。昼間からマリア、いやに楽しみにしてたしなぁ。何よりも此処で帰したら後が怖い……

 結局ここでも僕が払うことになるのね。グスンっ

 僕はマリアを連れ立って一旦受付カウンターから離れて壁際の端末に向かった。ゲームショップやレンタルビデオなどのカードがわんさか入った財布から一枚銀色に光るカードを一枚抜き取る。右下に赤いアルファベットでセラフィンゲインと書いてあるだけの至ってシンプルなカード。これがセラフィンゲインの会員証であるIDカードだ。

 キーボードの右側にあるカードスロットにカードを差し込むとモニターにウェルカムメッセージが出てくる。そしてすぐに名前とパスワードを打ち込む画面に切り替わった。キーボードで名前とパスワードを打ち込み、続いてモニター上のデュアルセンサーに顔を近づける。二度ほど赤い光が点滅した後、画面が切り替わり会員用サービスのトップページが映し出された。

 セラフィンゲインの会員用サービスページへのアクセスは此処の『ウサギの巣』に並ぶこの数台の端末のみで他の端末や個人所有のPCなどからはアクセスできない。しかも名前、パスワード、そして今の網膜識別によって本人以外の人物以外アクセスできない厳重なセキュリティーが掛けられている。なんかスパイ映画の主人公になった気分だ。

「何すんの?」

 僕の一連の操作を横で見ながらマリアが尋ねる。

「ぼ、僕も、今は、げ、現金持ってないから、リリ、リーザーブから、ひ、引き出す、んだ」

 画面のサービス項目から『リザーブEXP』という項目を選びエンターキーを押しながらそう答えた。

 セラフィンゲインの中では『セラフ』と呼ばれる怪物を倒したり『ミッション』と呼ばれる任務で目的を達成するとEXPというポイントがもらえる。このEXPはキャラのレベルアップや装備品などの購入に使われたりする、あっちでの通貨のような物で、使わずに貯めることも出来る。その貯めてあるEXPを『リザーブEXP』と言い、通常『リザーブ』と呼ぶ。

 キーボードを打ち込み『換金』をクリックすると、しばらくしてキーボードの下にある排出口から数人の諭吉さんが顔を出した。

「これ、ATMだったんだ。ならあたしも引きだそう」

 そう言ってマリアが鞄から財布を引っ張り出す。いいや違うんだよマリア君。これはATMじゃありません。

「こ、こ、これは、ATMじゃない。セ、セラフィンゲイン、で、かか、稼いだEXPは、げ、現金に、か、換金、でき、る、るんだ」

 そう、これがセラフィンゲインの魅力の一つ。セラフィンゲインで稼いだEXPのポイントは現金に換えることが出来るのだ。

「えっ! マジで!?」

 マリアの声音が変わる。さすが食べ物か金のことになると食いつきが良い。

 もらえるEXPはセラフの強さや任務の困難さなどによって細かく決められているが、そのポイントの使い道は一切プレイヤーにゆだねられている。全てをレベルアップに使おうが、全てを換金しようがすべてプレイヤーの自由で運営側からの規制は一切無い。その気になれば一度に数十万のお金を手にすることが出来るってわけ。

 しかし確かに得られる現金も魅力的だけど自分のキャラのレベルを上げてステータスパラメータを上げないと大物を倒す事も不可能だし、装備品などにもそれ相応のポイントを支払わなければならないわけでEXPのポイント運用はかなり奥が深くそう単純な物ではないのが現状。

 セラフィンゲインに通うプレイヤーの大半がそんなEXPポイントとキャラクターのステータスや装備とのバランスシートに悩む存在だった。その辺りの事をマリアに説明したのだが、果たして理解しているのだろうか。

 かわりにさっきまでふくれっ面だった美貌が急に明るくなった。金がらみなだけにホント現金なヒト。

「こ、今回は、ぼぼ、僕が、た、立て替えて、や、やる」

「ホント! やった〜らっきぃっ! やっぱ、持つべき物は友達よね」

 昼間犬や奴隷と言っておきながらこの変わり様――― 

 地獄の沙汰も金次第と言うが、アレは悪魔にも通用するらしい。半ばあきれ顔でマリアを見ると僕の表情をどう見たのか、マリアが続けてこう言った。

「なに妙な顔してんの? あ、わかった。あたしが踏み倒すとか思ってるんでしょう。ダイジョ〜ブよ、その話聞いたら俄然やる気出てきたし。あたしの拳ですぐに稼いで返すから心配しないで」

 片腕を上げてガンバリのポーズを決めるマリア。

 拳でって……

 顔が顔だけに確かに可愛いのだけれど、およそ女の子の言葉とは思えませんって。ボクサーか、あんた。

 まあいいや、とにかくその現金もって再度受付カウンターへGO。無事にマリアの登録が完了。

 あっ、そうだ。職業何にしたんだろ、マリアは? と思い受付のモニターを覗き込んだ。


 プレイヤー:兵藤マリア

 キャラクター名:ララ

 性別:女

 職業:武道家【モンク】


 モンクかよ…… だから拳って訳ね。

 ヤバイ、似合いすぎる。つーかまんまだな。

「刃物とかって使うのは、性に合わないつーか、やっぱ最後は肉体で勝負? みたいな」

 と語るマリア嬢。何とも男らしい…… いやチガウダロ。格闘悪魔らしいコメント。結局リアルのみならず、あっちでも殴る蹴るな訳ね、君の場合は。

 しかしよりによって超近接戦闘な職業選ぶとは…… レベル1でクラスAに立つって事の意味わかってんのかな? 

 とりあえずマリアの登録が済み、続いて接続手続きをして貰う。初めてのマリアは現金で。僕はIDカードからリザーブを使って手続き完了。接続手続きが完了するとプレイヤーは続いて接続室に行く。

 今回はマリアが初めてなので案内係のきれー系おねーさんが付いてくれる。ちなみに此処のサービスの女性は皆さんかなり美人さんですが僕の趣味じゃない。まあすぐ近くに性格はどうあれ最高の素材があるんだから色褪せて見えるのは仕方がないだろう。

 ロビーの奥にある二機のエレベーターの内の一機におねーさんの後に続けて乗り込み地下へと降りていく。押しボタンを確認するとB3が光っている。今日は地下三階のようだ。

 このビルは地下が全てセラフィンゲインの接続室になっていて地下四階まであるらしい。らしいというのは単にエレベーターの押しボタンがB4迄しかないからだが、実際にはどうか判らない。何しろシステムといい、建物といい、運営会社といい、謎が多いですから、此処は。

 程なくして到着を告げるブザーと共にエレベーターのドアが開き、接続フロアに降りたところでマリアが声を漏らした。

「なに? ここ――」

 そこは上のロビーとはうって変わり気味が悪いほど静かだった。

 妙に明るい天井の照明に照らし出された気の遠くなるような長い廊下の両壁には等間隔で番号が付いた扉が廊下の先まで続いていてまるで牢獄のような雰囲気だ。僕も初めて来た時は背筋の体温が一度ほど下がった様な気がしたのを憶えている。

「じじ、じゃあ、あ、ああ、あっちで、あ、会おう」

 とりあえずそう声を掛けつつマリアを案内係のおねーさんに預け、僕は指定されたドアへと向かった。

 ドアの番号を確かめレバーハンドルの横にくっついたカードスロットにIDを滑らせてロックを外し中へと入る。室内は割とサイバーな雰囲気。

 広さはちょうど大きめのユニットバスぐらい。中央に合成革張りのリクライニングシートがあり、天井から生えたアームの先は二股に別れて一方にはモニター、もう一方には【ブレインギア】と呼ばれる半帽の様なヘルメットがくっついていて正体不明のコードなんかが所狭しとへばり付いている。

 何年か前に流行った映画に出てくるシートをモチーフにしているつー噂だが、現実にするとちょっと生々しい感じがしてあまり好きにはなれない形だ。なんかね、改造手術とか洗脳とかされそうな感じで正直微妙なんだよ、これ。

 右手のは洗面台が据え付けられ蛇口が付いている。これはデッド覚醒時に起こす嘔吐用。実際に初めてデッド食らうとまず間違いなく吐く。僕も今じゃあまり使わなくなったけど最初の頃は何度もお世話になりました。

 荷物を棚に載せ、上着を脱いでシートに腰を掛けると自然にブレインギアが降りてきて頭に装着される。続いてゆっくりとシートがリクライニングしていき正面のモニターが起動。画面に僕のあっちでのキャラクターであるシャドウのステータスデータが表示されていく。

 それらをシートの右の肘掛けの先に付いているボールでスクロールさせ一通り目を通す。これはシステムが起動するまでの若干の演出のような物でたいした意味があるわけではないが、すっ飛ばすことが出来ないのでとりあえず見てるだけ。

 微かに唸るような振動がシートから伝わり、耳の奥に縦笛のような耳鳴りが大きくなっていく。程なくして正面モニターが切り替わりいつも目にするメッセージが出てくる。

 僕はこの瞬間が一番好きだ。すげーワクワクする。

『STANDING BY OK?』

 OK、おっけー、いつでもオッケー! 

 モニター画面を軽くタッチすると、また画面が切り替わりメッセージが出てきた。

『It plays for the good fight!』

 ああ、サンキューグッドラック!

 その文字を眺めつつ心の中でそう呟きながら目を閉じた。

 一際大きくなる耳鳴り。そして頭の中で重力という概念が消失する。

 高鳴る鼓動と反比例して遠のいていく意識の断片。

 目もくらむような浮遊感の中、僕の意識は暗く深い穴の奥へとダイブしていった。



初めて読んでくださった方、ありがとうございます。

毎度読んでくださる方々、心から感謝しております。

第4話更新いたしました。

今回はセラフィンゲインにアクセスする場面です。セラフィンゲインとその基本システムを説明する部分ですので、若干説明部分が鼻につくかもしれません。出来るだけマリアと智哉の会話の中に織り交ぜる様に下のですが、上手くいってるか心配です。

その辺りの事も含め、コメントなどを頂けると助かります。

鋏屋でした。


〈次回予告〉

セラフィンゲインにアクセスした智哉とマリア。初めて目にするセラフィンゲインの世界に興奮するララ【マリア】に、この世界のことを説明するシャドウ【智哉】。レストラン『沢庵』でスノー【雪乃】と合流し、彼女が集めた3人のプレイヤーを紹介されるのだが……


次回 セラフィンゲイン第5話 『ターミナル』 こうご期待!

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