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セラフィンゲイン  作者: 鋏屋
EP-1 セラフィンゲイン
27/60

第25話 泣きキャラ

「ああ……」

 ため息にも似た声を漏らしつつ、僕の隣で吊革につかまったマリアは首を2,3度回した。そのたびに天然物のしなやかな栗毛がさらさらと肩口を舞い、朝の陽光を浴びて光っている。

 朝のマリアショックが完全に抜けきらないまま、僕はマリアとともに家を出て駅に向った。朝の宣言通り、駅前のサンドイッチ屋でターキーサンドを2個も買ったマリアは、ホームで電車を待つわずか2,3分の間に買ったターキーサンドをセロのマジックみたいに消し去り電車に乗り込んだ。2個目の半カットなんてほぼ一口だったぜ?

 僕はどうも朝食べたハムエッグトーストサンド(魔界風)のせいで全く食欲が沸かなかった。その僕に「アンタ小食ねぇ」と意外そうに声を掛けるマリアは、きっとその小食を招いたのが、さっき自分の作った食べ物が原因なのでは? という可能性など1ミクロンも疑ってないんだろうなたぶん……

 そんなことを考えながら、隣でまた首を回しているマリアを見た。

 薄い緑のノースリーブの上に白いブラウスを着込み、その上からモスグリーンの生地の薄い軍用ジャケットを羽織っている。きゅっと締まったウエストから程良く突き出たヒップライン。その下にすらりと伸びた足を包むブートカットのアイスウォッシュジーンズの裾からベージュのパンプスが顔を覗かせている。

 中に着ている服から考えて偉くちぐはぐな印象を受ける男物の軍用ジャケットなのだが、173cmというモデル並みの高身長もあって、違和感なく着こなすどころか、かえってマリアのワイルドな美しさを際だたせている。見慣れているはずの僕でさえ見とれて目が離せなくなるよ。

 いや、コイツの場合容姿が突き抜けてるから何を着ても服の方が勝手に合ってしまうと言う方が正しい表現かもしれない。中身の容姿が良ければ服などどうでも良いつー典型だな。顔もルージュと眉引いただけのほとんどすっぴんなんだぜ?

「ブラ付けて寝たからなんか首とか肩とか痛~い。アンタと添い寝するからと思って付けてたんだけど、やっぱり外しておけば良かった……」

 オイ、マリアっ! 声っ! 声がでかいってまじでっ!!

 マリアのそのぼやきに、僕らの前に座る若いサラリーマンと大学生がマリアに熱い視線を投げかける。続いてその隣で慌てる僕に視線を移した瞬間、殺意すら伺える嫉妬の目で睨む。確かにこんな超美形の女子の隣で、あまつさえ親しそうに話す男が僕みたいな明らかにヘタレで秋葉ファッション装備のヲタ全開野郎なら『てめえふざけんなよっ!』って気持ちになるのも当然だけど……

 いや、前だけじゃない。この車両の僕らの周りにいる男性ほとんどが、マリアと僕に温度の違う視線を投げてくる…… マジでめちゃ怖ぇぇっ!!

 この次マリアが妙なこと言ったら、まともな体で電車降りられる自信がない。マリア、頼むから誤解されるような事は喋らんでくれっ!!

 あのね皆さん――――っ! 僕はマリアの彼氏とか恋人とかじゃ断じてありませんからっっっ!!

 そんな嫌すぎる気分でつり革に掴まりながら電車の揺れに身を任せつつ、ふとあることを思い出した。

 さっきのターキーサンド…… 奢らされなかったな? あれ? そういや昨日の経験値ってどれだけ出たんだろ?

「あ、あ、ああ、あのマ、マリア、き、きき、き、昨日の、け、経験値、ち、って?」 僕のその質問に、マリアは思い出したように言った。

「ああ、そうそう、昨日の経験値ね。凄かったよ~ みんなレベル上がったし、あたしは20越えて…… スノーなんか40だよ。あたしは3分の1ぐらいキャッシュにしちゃった。今月厳しかったから助かった~♪ メタちゃん良いトコあるじゃんって感じ」

 良いトコって…… お前昨日握りつぶされかけてたんだけど、あいつのペットに……

 にしてもスノーがとうとう40か…… ララもレベル20越え。皆一通りレベルアップしておつりが来る稼ぎってことは、こりゃあ期待できるよ僕も♪

「……でも、アンタはかわいそうよね~ 一番活躍したってのに経験値ゼロなんだもん」


 ―――――え゛っ? 

 ゴメンちょっと良く聞こえなかった。

 今 なんて 言った デスカ?


「ターミナル戻ったらアンタだけ転送されて来なくてさぁ、ほらあたし向こうじゃ気絶状態だったじゃない? だから詳しいことはよくわからないんだけど、スノーが言うには、アンタどうもあのキングコング倒して倒れたんだって。そしたらそのまま接続切れちゃったらしいのよね~」


 な、なな、何じゃそりゃぁぁぁぁ――――――っ!?


「ほら、戻ってこないと入らないじゃん? 経験値。みんなで『まぁ仕方ないか』って事になって均等割。フィールドの関係上コンプボーナスは無かったけどすんごい稼ぎでびっくり! ほとんどアンタが倒したのにねぇ、ほんっとわかいそ~♪」

 ま、まじで!?

 あ、ありえねぇ…… あんだけ苦労して倒して、さらにリアルでもこんだけ痛い思いしているのに獲得経験値ゼロ……!? ま、まさに、ほ、骨折り損の……ああぁ 

 朝のショックも凄かったけど、今の話しもショックでかいや。しかもこっちはすげーリアルなダメージだ…… はは、あははは……

 あのさマリア、どうでもいいけど心なしかちょっぴり嬉しそうに聞こえるのは僕の気のせいかい?

 聞けば昨夜のタクシー代もマリアが払ったらしいが、日頃から「人の金は使うの好きだけど自分のは嫌」つー全く以て自分勝手な事を公言してはばからないマリアが、自分の金でタクシー代を払い、さらにそれを僕に請求しないなんて……

 いったいどんだけ貰えたんだよチクショウっ!!

 今の話しでさらに痛みが倍増した体を呪いながら、僕は電車の揺れに身を任していた。


☆ ☆ ☆ ☆


 午前中の講義中は例によって例のごとく睡魔に襲われながら講義を聴くのだが、今日はさらに体の関節と筋肉の痛みにも襲われ居眠りすら出来なかった。たまに眠気に抗えずこっくりと船をこぎ出すたびに筋肉痛と関節痛が同時に体中をかけずり回り、その激痛に耐えなければならず寝るどころの騒ぎではなかったよ。

 そんな拷問のような午前中の講義を終え、僕は痛みの残る体を引きずりながら学食ホールに向かった。

 朝食べた例のトーストサンドのおかげで未だに胃に異物感が残っていたのだけれど、生命維持の観点から考えても昨日の昼からの食事がアレだけっていうのがとてもヤバイ気がして、とりあえず軽いところでスパゲティーナポリタンをチョイスした。

 だってほら、とりあえず人間の食べ物を食べておかないと怖いじゃないですか、背中に黒い羽とか生えてきそうで……

 とりあえずそのナポリタンを乗せたトレイを持って、僕はカウンターを離れ空いているテーブルを探しにホールに向かった。

 歩くたびに走る痛みのせいで、まるでマイケルジャクソンのロボットダンスのような奇妙な歩き方で他の学生達が食事しているテーブルの間を歩いていると、前方から僕を呼ぶ声が聞こえてきた。

「カゲチカー、コッチコッチ~!」

 前方11時の方向に激しく手を振る美女一人…… マリアだ。

 僕はまた痛みを堪えつつ、その奇妙な歩き方で墜ちそうになるトレイを慎重に支えながらマリアに近づいていった。

 いつもの事だけど4人掛けのテーブルに並べられた料理の量にウンザリする。相変わらずすげぇなお前は…… 四川料理のフルコースかっ!? 4人掛けのテーブルが小さく見えるわっ!!

 マリアの向かいには雪乃さんが座っていた。あれれ? 今日はお弁当なのに学食なんですか?

「こんにちはカゲチカ君。お昼ご一緒させてくださぁい」

 そう言ってにっこり微笑む雪乃さん。ああ、ギザカワユス…… 痛みが一瞬和らぐ気がするよ~ いやもうこちらこそって感じですよ~♪

「さっき3号館のトイレの前で会ったからお昼一緒に食べようって誘ったの。いいからアンタもさっさと座りなよ」

 なあマリア、勧めてくれるのはありがたいんだけどさ、この満漢全席みたいなテーブルの上で僕のトレイをいったいどこに置けと?

 仕方なく僕はマリアのトレイに自分の持ってきたトレイを重ね、皿を詰めて何とかナポリタンを置くスペースを確保しつつマリアの隣の席に着いた。

 ふと見ると雪乃さんの手元に広げられたチューリップ柄のピンクのナフキンの中央に可愛らしく鎮座する小さなお弁当…… 雪乃さんのイメージピッタリだよ~ お弁当まで可愛いんだねまじで。

「うわ~ちっさいお弁当。雪乃そんなんで足りるの?」

 ……いや、確かに小さいけど、君は規格外だから……

「私小食なんですよぉ~ コレでも今日はちょっと多いかもって感じです」

 コレでも多いってのも規格外な気がするなぁ…… でも女の子って感じで良いんじゃないッスか? マリア基準にしちゃダメですよ~ 胃袋魔界にリンクしてるんですから。

 とりあえずマリアの「いただきま~す」の声と共に僕らは食事を始めた。

「そうそう、カゲチカ君ごめんなさい、昨日の経験値。あのバルンガモーフ倒したのカゲチカ君なのに。私凄く申し訳なくて…… リーダーなのに全然役に立たなかったし……」

 本当に申し訳なさそうに箸を置きそう言いながら目を伏せる雪乃さん。や、やめてください雪乃さん、そんな顔されたら僕の方こそ泣きますってっ!

「い、い、いいや、もも、もういい、いですよ。デ、デッドした、ぼ、ぼぼ、僕も、ま、まま、マヌケ、な、なんです、か、から」

 もう今更言ったって仕方ないし、文句言ったってレベルが上がる訳じゃない。リザーブだってまだ余裕あるから大丈夫です、気にしないでくださいよ~

「あっ、それに大丈夫でした? あの後ちゃんと帰れたんですか?」

 そうか、雪乃さんは自分の家からアクセスしてるから知らないのか……

「ああ、それなら大丈夫もぐもぐ あたしが連れて帰ったから(もぐもぐ)」

「えっ?」

 再び箸を持った雪乃さんの手が止まった。なんかとっても嫌な予感がするのは僕の気のせいデスカ?

「そしたら(もぐもぐ)終電無くなっちゃってさぁ(もぐもぐ)仕方ないからカゲチカの部屋に泊まったってわけ(もぐもぐ)」

 話しをしている最中も関係なく食事をするマリア。さっきから箸を持ったまま完全に固まってる雪乃さんに気づかずに2枚の皿を綺麗さっぱり処理し、次の皿の料理に手を付けながらさらに話を続ける。相変わらずすげースピードだ。なんかカジノとかでトランプ配ってるディーラーみたいだ。

 でもマリア、ちょっと待て。なんか様子がおかしいよ。なあオイっ! と僕はマリアの袖を軽く引っ張った。

「ちょっ、何よ~? でね、聞いてよ雪乃~ コイツったら寝言で『鬼丸ぅ』なんて叫んで五月蠅いったらありゃしないの(もぐもぐ)同じ布団で寝てる身にもなって欲しいモンだわ全く(もぐもぐ)」

 引っ張る僕の手を振りほどき、雪乃さんを全く見ずに食事をしながら一方的に話すマリア。また余計なことをっ!!

「お、同じ布団……!」

 そう呟いた雪乃さんの手から箸が落ちてカランっと変に乾いた音が鳴った。

 あ、あの…… 雪乃さん? なんかエライ誤解してませんか?

「い、い、いいや、ゆ、ゆ、ゆき、ち、ち、ちち、違っ……」

 ヤ、ヤバイっ! 全然言語が出てこないっ! 誤解ですっ 誤解ですからねっ! ぼ、僕はマリアとは何にも無いですからねっ!!

「それにコイツどさまぎであたしの胸まで…… あれ? どしたの雪乃…… ああっ!?」

 ここで初めて雪乃さんの異変に気づき、何を思ったのか驚いた声を上げるマリア。いまさら何に気づいたか知らないけどお前なぁ!

「む、胸…… 胸をなんですかぁ?」

 顔を下に向け、完全にフリーズしながらそう聞く雪乃さん。顔が見えないのでその表情が全くわからないのと 奇妙に震える声のトーンが嫌すぎる!

「あ、ち、違うの雪乃。あのね、あたし達は雪乃が考えている様な事なんて全然無いの」

 と必死に弁解するマリア。コイツのこんな姿は初めて見たよ。僕も何か言いたいのだけれどどう頑張っても言葉が出ないので、マリアの隣で赤べこの置物のように首を縦に振るしかないのがもどかしいが仕方ない。マリア頼んだぞっ!!

「私の…… 考えてる様なこと…… って?」

「いやだからそのなに?…… ベッドで上になるとか下になるとか…… 入れるの入れないのとか…… アレとかナニ……とか?」


 ブ―――――――――っっ!!

 思わず吹いた。

 お前馬鹿か――――っ!! 何でそんなに生々しい表現するんだよっ!?


「ひ、ひどいよカゲチカ君…… この前『つき合ってないって』……」

「い、い、いや、あ、ああ、あの……っ!」

 こんな状態で僕に言葉なんかしゃべれるかぁっ!

 マリアのアホっ!! 完全に誤解されてるじゃんか――――――っ!!

「ううっ…… 私って童顔で子供っぽいし…… うえっ…… マリアさんみたくセクシーじゃないし、胸だっておっきくないから…… 二人して私を笑ってたんだぁ……」

「あ、あのね雪乃、そ、そんなんじゃないから…… まあ添い寝して胸揉まれたってのは事実だけど……」

 お前状況考えろっ! どう考えたって火に油注いでるだけだろそれっ!?

「や、やっぱり……ヒック…… じ、事実なんだぁ……」

「ちょっ、ちょっとカゲチカっ! アンタ何とかしなさいよっ!! アンタにも責任あるんだからねっ!!」

 そう言って慌てるマリア。オイなんだよその責任ってっ!? そもそも君が踏んだ地雷でしょーがっ!!

 そうこうしているうちに雪乃さんの体が小刻みに震えだした。まさか……!?


「うえぇぇぇぇぇ―――――――――――――――んっ!!!!」


 いきなり雪乃さんはテーブルに突っ伏して泣き始めた。思わず奇妙な中腰で固まる僕とマリア。周りの学生も食事を中断してこっちを見ている。

 ええっ? 雪乃さんこういうキャラなの――――――っ!?

 ってか普通泣く!? 何で泣く!? 僕にはさっぱり意味がわかりませんっ!!

 突っ伏したまま大声で泣く雪乃さん。時折「やっぱり子供なんだー!!」とか「カゲチカ君のぶぁかぁ――!!」とか、あとなんだかわからない言葉を連呼しながら泣き続けている。それを必死になだめる僕とマリア。

「あのね雪乃、ねえ聞いてっ、聞いてってばっ! あ、そうだ、ほ、ほら、あたしのマンゴープリンあげるよ~っ! ちょっぴり中古だけどおいしいよ~っ! ねっ?」

 アホかっ!! 幼稚園児あやしてるんじゃないんだぞ! しかも中古ってオイっっっ!!

 その後約5分間、僕とマリアは泣きじゃくる雪乃さんをなだめるべく、あの手この手を使って奔走する羽目になった。


☆ ☆ ☆ ☆


 そして5分後……

「もう…… マリアさんやめてくださいよぉ~」

 どうにか事情をマリアに説明させ、僕とマリアの間にはチーム仲間と友人って事以外に特別な関係は一切ないと言うことを納得してもらった。そして5分後にはコレこの通り、すっかり元に戻った雪乃さんが、ニコニコしながらお弁当の残りを食べている。さっきの惨劇から一転、まるで泣きわめいた事など無かったかの様なご機嫌モードだ。

 いやマジでもっそ疲れたんですけど……

「もう…… 勘弁してよ雪乃ぉ」

 そう言ってさっき雪乃さんにあげるって言ってたマンゴープリンを食べるマリア。あのさ…… いや、もういいやべつに。

「あたしがこんなヘタレでキモオタで根性なしでゲーマーでむっつりで二次コンで萌えゲーにツッコミとか入れてて童貞で『右手が恋人です』って地でいってるような天然ラッパーなヘタレとつき合うわけないでしょ?」

 マリアおまえ…… 確かに否定できないけど言い過ぎっ! つーかヘタレ2回も言ったし!!

「う~ん そうですよねぇ♪」

 はい雪乃さ~ん。そこ嬉しそうに納得するトコと違うでしょっ!!

 しかしそれにしても雪乃さんが泣きキャラだったとは知らなかった…… あっちじゃ冷徹な絶対零度の魔女って言われる『寒怖キャラ』なのに、リアルじゃ『萌え泣きキャラ』だなんて誰も想像できないだろうなぁ……

「あ、そうだ、ねえ雪乃、あたしもレベル20になったし、雪乃も40になったじゃん? それに一人を除いてみんなレベル上がったんだしさ、お祝いにパーティーしない?」

 一人除いてってわざわざ言うな!

「パーティ…… なんか良いですねそれ♪」

 と雪乃さんが嬉しそうに言う。パーティーかぁ…… そういや沢庵でもビネオア飲んでワイワイ騒いでる連中も結構いるよなぁ。でも僕だけレベルも経験値も上がってないつーのが悲しすぎるよ、トホホ……

「じゃあ、沢庵のいつもの46番テーブルで……」

 と段取りを考え始める雪乃さんの言葉を遮り、にんまりと笑うマリア。お前ナニ考えてるんだ?

「ノンノン、違うよ雪乃。リアルでやるの。リアルラグナロクパーティー第2弾♪」

「それって…… オフ会ってことですか? でも第2弾?」

 またやるのカヨ…… ってことは当然場所はまた例のあそこか……

「前にね、ドンちゃん達と電車でばったり会ってさ、その場のノリでドンちゃんの店で盛り上がった事があったの。ホントはお店の新装開店祝いだったんだけどね」

 そうそう、そんなこともあったな。あの後僕は二日酔い…… いや三日酔いでボロボロだったんだよ。

「わぁ、楽しそうですねぇ♪ やりましょうかオフ会」

「そうそう、サムも呼んでさ。あ、でもサムの連絡先知らないや…… ねえ、アンタ知らないの? 前に同じチームだったんでしょ?」

 あのねぇ…… 僕たちプレイヤーは基本リアルじゃロビー以外では会わないんだよ。傭兵なんかは特にそうだ。ロビーですら会いたくない。

 何故かって? そりゃ決まってるじゃん。契約料に不満があったりしてイザコザになったりしたら、面が割れてりゃリアルでやられちゃうでしょ? リアルでもそれなりに喧嘩強かったらまだ良いけど、僕なんか特にリアルじゃこんなんだもの、連日カツアゲのターゲットにされるに決まってる。だいいち、あっちでもあんなにアホな奴、リアルでなど会いたくもないよまじで。連絡先なんて知るわけないじゃん。

「し、し、知ら、な、な、ない」

 と僕は簡単に言った。つーか知ってても言いません。

「あ、でもあの人なら知ってるかも……」

 そう呟く雪乃さん。いやいやいや、良いんです、良いんですよ雪乃さんっ! 余計な気を遣わなくてもっ!!

「マジで? だれだれ? その人連絡付く?」

「はいたぶん…… 兄の古い友人で、たしか『オウル』ってハンドルで傭兵やってるハズですぅ。凄い情報通で、あの人だったらひょっとしたら知ってるかも……」

 オウル!? 雪乃さんあの『耳屋』のマスター知ってんの!? しかもあの親父が鬼丸の古い友人? マジですか!?

「へ~ あれ? でもどっかで聞いたことがある気がする……」

 そう言って首を傾げるマリア。そういや前に『マチルダ』で飲んだとき僕が話した気がするが…… あの時寝てたもんね、人に話せがんでおいてお前はっ!

 それにしてマスター、ホントに顔が広いな。セラフィンゲインでも情報通で通ってるけどリアルでも不思議なパイプを持ってるんだねぇ。

「まいっか。それじゃちょっと聞いてみてよ雪乃」

「はい、後で連絡してみます。それで…… いつにします?」

 そう言う雪乃さんに、マリアはきょとんとした顔で答えた。

「いつって…… もちろん今日に決まってるじゃない」

 即日決行カヨっ! お前いくら何でもそれは…… だいいち、ドンちゃんの都合もあるだろっ!

 しかしマリアはそんなこと全く気にせず、鞄から携帯を取り出し電話を掛け始める。

「―――あ、ドンちゃん? あたしララ―― あはははっ―― え? 今? 今ね学食でシャドウとスノーと3人でお昼~ でね、3人でオフ会やろうって話になったの―― うんそう―― 今日お店平気?――」

 嬉しそうな声で電話をするマリア。ドンちゃんもいきなりじゃ無理だろ?

 そう思って見ていたら一通り話し終わり電話を切った。

「ドンちゃんトコOKだって♪ 時間は6時から」

 そういってピースサインをしながらウインクするマリア。コイツのこういう行動力つーか決断力つーか…… ホント何つー自分勝手な性格なんだろ。流石は魔界の住人だ。

「マリアさんすご~い! あっという間に決めちゃったぁ……」

 そう言って拍手せんばかりに尊敬のまなざしを送る雪乃さん。

 何そんな見えない目をキラキラさせてんですか雪乃さんっ!! こんなのただの自己中じゃんよーっ! あなたやっぱりズレてませんか?

「雪乃はオッケー? あ、もちろんアンタに拒否権無いからね、カゲチカ」

 あ、そね…… つーか僕ってお前に拒否権発動できたことってあったっけか?

「はい、もちろん! 私こういうの初めてなのでワクワクしますぅ♪ あ、そうだ。私の家の車でみんなで行きませんかぁ?」

「いいの? やった! じゃああたしちょっと買い物あるから…… 5時に雪乃ん家に集合って事でいい?」

「はい、お待ちしていますぅ!」

 そうニコニコしながら答える雪乃さん。またあのお屋敷に行くのか…… あの眼鏡の執事さん苦手なんだよなぁ。絶対嫌われてる気がするんだもん。

 しかし今日はかえって寝ていたかったなまじで。からだ痛いしさ…… 体ポンコツで経験値スルー、さらには強制ソロモン送りカヨ……

 せっかく買ったナポリタンだけど、一口目でなんか一気に食欲無くして食べたくない。

 なあマリア、コレ食べるか? 中古だけど……


初めて読んでくださった方、ありがとうございます。

毎度読んでくださる方々、心から感謝しております。

第25話更新いたしました。

やっぱりリアルの智哉はこういうキャラですね。雪乃もあっちじゃシリアスだけどリアルじゃこういう娘です。でも実際にいたらこんな泣きキャラはウザいだろうなぁ

しかしリアルの話しはページ食います。普通にいつもの2話分ぐらいのボリュームで挟み込むつもりが偉く増えてしまった。

当初はこの雪乃の話から聖櫃戦になだれ込むはずだったんですが、いまいち上手く流れが掴めず、かなり不自然な繋ぎになりそうなのでオフ会のイベントを挟むことにしました。もうちょっとだけリアルでの話が続きます。

鋏屋でした。


次回予告

リアルでオフ会をすることになった『ラグナロク』またまた強制的に参加を余儀なくされた智哉は雪乃の車で一緒にクラブマチルダまで行くことになり、その日の夕方世羅浜邸を訪れる。しかしそこには『女子の家のインターホンを鳴らす』と言う人生最初の大きな難関があった……


次回 セラフィンゲイン第26話 『メイドとねこ』 こうご期待!

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