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セラフィンゲイン  作者: 鋏屋
EP-1 セラフィンゲイン
24/60

第22話 堕天使の鼓動

 スノーの声が響き渡った瞬間、彼女の周囲に展開した3つの魔法陣が強烈な光で明滅し、各々その中心部に細かなポリゴンが収束されていく。

 まるで巨大な何かが地中からゆっくりと浮上してくるような錯覚を見る者に与える。

 空間テクスチャーを構成する周囲のポリゴンを浸食しながら、まるでそれらを自らを形作る糧としているような、そんなまがまがしい光景に俺は魅入っていた。

「すげぇ……!!」

 多重召還魔法……

 使われなくなった第1世代魔法の典型。1人で複数の魔法を同時に行使できる唯一の手段。その複雑な行使方法、そして何より複数の魔法を同時にコントロールする際の術者に掛かる精神への負担の大きさから、一時は『禁呪』に指定することも検討されたと聞く。

 術者の精神力に依るところが大きいが故にその効果が安定せず、発動前に術者が意識を失い接続が絶たれるなど、数々の問題を抱えながらも初期プレイヤーーの強い要望で今に伝わる旧世代魔法……

 収束した細かなポリゴンが徐々にその空間に定着し、俺たちが狩るセラフとは明らかに別種の『異形』を魔法陣に出現させていった。

 その中心に立つスノーは歯を食いしばり、正面のバルンガモーフを睨む。恐らくすさまじい精神負担に耐えているのだろう。

 そして今や完全にその姿を実体化させた異形の者達各々が、口々に呪文名を放った。


『メテオバースト―――!!』

『ゼロブリザラス―――!!』 

『ボルトバイン――!!』


 『メテオバースト』は言わずもがな。『ゼロブリザラス』は冷却系最上級呪文、マイナス273度の絶対零度の冷気で物質を形作る原始の活動を停止させる。『ボルトバイン』も最大級の落雷を軽く凌駕する高電圧の雷をたたき込む雷撃系最上位魔法と、3呪文ともその系統では最大の威力を誇る上位魔法で、どれも通常魔導士がキメ技として使用するレベルのものだ。普通の術者なら単発でも相当の魔法力を消耗するであろう魔法を、複数の召還生物を呼び出して各々に行使させその同時発動を可能にする。

 召還時の『ディメイションクライシス』の発動と、召還した3体の召還生物をこのフィールドに実体化させ、同時にコントロールする精神力と魔法力ってどんなだよ……?

 恐るべし、白銀の魔女『プラチナ・スノー』…… 

 レベル30オーバーの、いやもうすぐ40に手が届く魔導士の底力に戦慄すら憶える。

 なまじ声と顔がロリ全開なだけに、そのギャップが怖すぎる。

 灼熱の火球が爆発し、絶対零度の冷気が空気を氷結、雷がその膨大なエネルギーをまき散らし周囲の大気をプラズマ化させていく。

 鼓膜が裂けるほどの轟音と共に、異なるベクトルで移行するエネルギーの渦に翻弄される空間テクスチャーをどう表現すればいいかわからない。

 いかにバルンガモーフが防御属性を変更しようとも、同時に異なる特性の、しかもその属性最大の物理エネルギーに抗えるとは思えない。奴のその特性を瞬時に見抜きこの魔法を選択したスノーの判断力も驚嘆に値する。流石は鬼丸の妹、兄に勝るとも劣らない頭脳だ。

 3つの魔法がバルンガモーフに直撃し、3体の異形の召還生物が細かなポリゴンを弾けさせて霧散し霞のように消失した瞬間、糸が切れた繰り人形のようにその場にへたり込むスノー。

「スノーっ、大丈夫っ!?」

 彼女の傍らにいたドンちゃんとサンちゃんがスノーに駆け寄った。

「……だっ、大丈夫よ…… ちょっと、目眩が…… しただけ……」

 肩で息をしつつ口元にうっすら笑みを浮かべてそう応えるスノーだが、その顔色は悪く、額ににじむ汗が魔法行使の精神負担の大きさを物語っていた。

 尋常な負担でないことはスノーの表情から想像に難く無い。その幼さを残す美貌が少しやつれて見えるのは錯覚じゃないだろう。いったいどれほどの集中力を要するのか見当も付かないが……

 サンちゃんの肩に手を掛けながら、彼女の装備である杖を床についてゆっくりと立ち上がるスノーが、大業を成し終えて皆に微笑みを漏らした。

 いやはや……

 先の宣言通り、白銀の魔女の実力、しかと見せていただきました。すげーもん見せてもらったよ。オープンエントリーのチームバトルじゃ、絶対敵に回って欲しくないキャラだぜ…… 

 同じチームでよかった~俺♪

 そんなことを考えながらスノーに声を掛けようとした瞬間、耳を疑いたくなるような声が俺の鼓膜を叩いた。


『ボルトバインっ!』

 

――――――えっ!?

 その声と同時に轟音が響き、視界を真っ白な閃光が支配する。続けて電撃特有の衝撃が体を駆けめぐり、全身の血液と脳が瞬時に沸騰したような痛みを伴いながらすっ飛ばされた。突然のことで声も出ない。

 飛びそうな意識の中、自分の体に設置感が無いのを自覚しつつ攻撃されたことを悟った。あり得ないという思考がぐるぐると頭の中で回転し、不覚にも受け身さえとれずに壁に背中を叩き付けられたところで、ようやくぐもったうめき声が口をついた。

「ぐはぁっ!!」

 口の中に充満する血と、鼻を刺激するプラズマ化した大気特有のオゾン臭をその声と共に吐きだし、未だにしびれを伴いプレートメイルに鬱陶しく帯電しスパークする電気をまとわりつかせながら上体を起こす。

 さっきからチカチカと目の前を行き交う光に視界を占領されながらも、目を凝らして辺りを伺う。恐らく直撃は免れたものの、至近距離で数万ボルトの落雷を浴びたせいで鼓膜が役に立たず、周囲の音まで拾うことは出来ない。

 笑う膝に鞭を入れ、奇跡的に飛ばされなかった右手の安綱を杖代わりにヨロヨロと立ち上がり、ようやく回復しかけてきた視力でさっきまでスノー達がいた場所に目を凝らす。 するとまだうっすらと煙を上げ、蹲る白いローブが見えた。彼女のトレードマークであるその純白のローブは所々裂け、端々に無惨な焦げ跡を残しまるでボロ雑巾のようだ。

 恐らく直撃したであろうがそこは高レベルキャラ。まだ意識はあるようで、ガクガクとよろけつつ上体を起こそうとするが上手くいかず、その場で再び床に転がっていた。

 直撃したスノーの傍らにいたサンちゃんも、数メータ先で転がり蹲っている。さらに周囲を見渡すと、メンバーが皆同じように横たわりもがいているのが確認できたが、ララだけがぴくりともしない。

「ララぁっ!!」

 そう声を掛けるが横たわるララの反応はない。ただし消滅せずにいることからデッド判定は免れたのは確かなようだ。先にサンちゃんが掛けてくれたプロテクションの効果がきいてるのだろう。

 俺は未だにしびれを伴い震える両手で安綱を握り直し、敵の方を向いた。

 今も尚回復しないで明滅を繰り返すラグったポリゴンの中で、その怪物は仁王立ちで俺達を睥睨していた。

 くそったれっ……!!

「そ……んな……な、なんて……セラフ……なの……!?」

 そう呻くスノーの声が聞こえる。さっきの電撃に伴う轟音で鼓膜が悲鳴を上げているせいもあるだろうが、その声が震えて聞こえる。

 あれだけの攻撃的エネルギーの直撃を受けきり、絶命せずに、あまつさえ間髪入れずにカウンターを仕掛けてくるなんてありえねぇだろ、実際っ!!

 だが、流石に奴もあれだけの魔法攻撃を食らって無傷とはいかなかったようだ。

 体の所々が無惨に焼けただれていて、さらに左側の顔は原型をとどめておらず、完全に溶解しかろうじて炭化した肉片が申し訳程度にこびりついていた。

 体の表皮は抜けるような青色に変化しており、恐らくは冷却に対抗する属性防御に移行しているようだ。奴は受けるダメージを天秤に掛け、氷結で行動不能に陥る事を恐れ、属性防御でそれに対抗し残りをプロテクションで緩和したのだろう。

 にしても、その防御性能もさることながら、あの瞬時にその判断を下せる奴の思考に驚愕する。

 対してこちらは全くの無防備での最強電撃呪文の直撃。体力に若干の余裕のある前衛の俺でさえこんな有様だ。先のプロテクション効果がかろうじて持続していたが、かなりのHPを持って行かれた。後衛であるスノーやサンちゃんなどは基本的に打たれ弱い。もう一度同じ攻撃を食らえば全滅は免れないだろう。

 やべぇ、万事休すだ。

「すごーい! 凄い生命力だよバルンガモーフっ!! 同時魔法を食らった瞬間は流石にヤバイかなぁ~と思ったけどアレを凌ぐなんて驚きだよ~」

 情けない悲鳴を上げている鼓膜に、あの人を食ったような声が響く。

 自分で創っておいて何いってやがるっ!

「流石の君たちも、もう無理っしょ? 立ってるのはどうやらシャドウだけみたいだし」

 そう言ってククっと喉を鳴らすメタトロン。

「もう一撃で全滅だね、たぶん。残念だよ、僕も『君は恐らく』って思っていたんだけどなぁ…… 仕方ない、そろそろフィニッシュに行っちゃおうか?」

 悔しいがあいつの言うとおり、全滅は免れないだろう。朦朧とする意識の中、半ば条件反射で安綱を構えたが、全く勝てる気がしない。だが、最後に一太刀でも食らわせてやりたい。そう思いながら歯を食いしばって安綱を握りメタトロンとバルンガモーフを睨む。

 そういや開戦前にスノーが言ってたっけな。『最後の一人になっても戦い抜く』って…… ははっ、その一人が俺になったってわけかよ…… ちっ、玉砕は趣味じゃねぇが、スノーとの約束だ。仕舞いまでつき合ってもらうぜ、相棒。

 そう右手の愛刀に心の中で声を掛ける。だが、次の瞬間いきなり痛みを伴った耳鳴りが俺の鼓膜を襲った。


――――――――――――っ!!!


 まるでどでかい中華鍋で脳髄をひっぱたかれているような感覚に思わず膝をつく。ちっきしょうっ! なんだってんだっ!!

 どんどんでかくなる耳鳴りに呼応するかのように、今度は安綱を握る両手が小刻みに震えだした。

 これはっ!? あの時の……っ!?

 数週間前、メタトロンが操ったロストプレイヤー、元『アポカリプス』メンバーのカイン達に襲われた際に起きた現象と同じだ。

 そう、俺の手が震えているんじゃない……

 俺が握るこの太刀、『童子切り安綱』が震えているのだ。

「ああっ…… がっ……あぁっ……」

 脳髄を襲う頭痛と小刻みに震える両手で上手く言葉が出ない。

「始まったか……やっぱりね。もう一押しってところかな……」

 メタトロンはそう呟き、バルンガモーフに顎で合図を送る。野郎何する気だ?

 膝をついて動けない俺を後目に、バルンガモーフはゆっくりと前進し、足下に転がる標的を掴み上げる。

 ララだった。

 意識が無いララを、まるでオモチャの人形のように掴み上げ、その焼けただれた顔に近づける。どうやら奴は自分の受けたダメージを判断して標的の優先順位を決めたようだ。ララが先ほどの戦闘で属性防御を無効にした敵であることを悟り、先に潰しておこうという魂胆らしい。その証拠に一番手近に転がるリッパーには目もくれない。

「うううっ……!」

 煤だらけだが色あせないララの美貌が苦痛に歪む。握る力を徐々に大きくしているようだ。野郎、遊んでやがる。ララをなぶり殺すつもりかっ!?

「やっ…… やめろっ……!!」

 ララの苦痛に歪む表情を目にした瞬間、俺の中に爆発的にある感情が膨らんでいく。

 憎悪

 信じられないくらいその感情に支配されていく反面、もう一方で自分でも何故これほどまでにと不思議に思う。

 くっそ…… 動けっ…… う ご け――――――――――――っ!!!

 そう念じれば念じるほど、反対に頭痛と震えに伴う体の硬直が強くなる。もがく俺をよそに、バルンガモーフはララをつかむ手に力を込めていく。咳き込むララの口元に血がにじむ。

「きィ、さぁ、むぁ―――――っ!! ララちんに何さらしとんじゃぁぁぁぁぁっ! ボケェ―――――っ!!!!」

 その瞬間ものすごい雄叫びを上げてサムが跳躍した。ララの苦痛の表情にサムがキレたらしい……が、もしもしなぜゆえ関西弁?

「やられっぱなしてのは我慢ならねぇんだよ、イチプレイヤーとしてよぉぉぉぉっ!!」

 跳躍したサムと同時に傍らで転がっていたリッパーも双斬剣を構えバルンガモーフに突進する。もしかしてリッパーもララにホの字なのかぁ?

「双斬剣技、桜花――狂喜乱舞ぅぅぅぅ―――――――っ!!」

 リッパーの体が駒のように回転し無数の必殺の斬撃を繰り出しながら、ララを握るバルンガモーフに突進する。

 双斬剣―――ダブルブレイド使いの大技『桜花狂喜乱舞』

 俺も見るのは初めてだ。元々双斬剣自体、不人気装備なだけにあまり目にする機会がないのもその要因の一つだが、これが繰り出せるまでレベルを上げたダブルブレイド使いがほとんど居ないのが正直なところ。恐らく秋葉の端末ではリッパーぐらいだろう。

 二人の攻撃がバルンガモーフに当たる直前、奴はその体の表皮を銀色に変更した。

 恐らく武器による攻撃の無効化……

 サムとリッパーの攻撃が奴の体に当たった瞬間、鉄を打ち鳴らすような甲高い音が響く。

 ――――やはりっ!!

 『ウオォォォォォォ―――――――――っ!!』

 バルンガモーフは雄叫びを上げ、サムとリッパーを空いた腕でなぎ払う。

 サムはスノーやサンちゃん、マチルダが蹲る後方に、リッパーは俺のすぐ傍らに墜落。続いて……

「グラビデイトンっ!!」

 バルンガモーフから発せられた呪文名と同時に、体にものすごい圧力が掛かった。

 くっ……そっ!

 範囲効果魔法『グラビデイトン』

 対象物の周りに力場を作り出し、その範囲の重力を何倍にも増幅させる魔法で、下位魔法の『グラビィ』で約10倍、『グラビデイトン』では約20倍の重力力場が対象に襲いかかる。

 頭の上から強大な圧力が掛かり脊髄が軋む。まるででかい手で地面に押さえつけられている様だ。足の関節が悲鳴を上げ溜まらず膝をつく。

 他のメンバーも地面にひれ伏し圧力に耐えている。

「うぐぅぅぅ……! ち……きしょ……う……っ!!」

 その女に…… 『マリア』手を出したら……っ!

 何が凄腕だっ! 何が英雄だっ! 仲間も救えずっ! たった一人の女も守れずにっ!!

 憎い!

 奴が憎い!

 奴を造ったあのふざけた天使が憎い!

 い……や……

 今、動けない俺自身が……


 い ち ば ん に く い っ !!


 俺の感情がどんどん憎悪に浸食されていく。まるで大きな画用紙が端から黒いクレヨンで塗りつぶされていくような感覚だ。なぜここまで憎むのか、なぜ自分自身を憎むのかわからない。得体のしれない憎しみに支配される中、そんな意識が脳裏を掠めた。その瞬間、まるで閃光のように記憶がフラッシュバックされる。


『お前、一人か?』

 カウンターの隣に座る深紅の鎧を纏った男

『俺は鬼丸。お前名前は?』

 その男は俺にそう尋ね笑いかけた。その極上の笑顔に一瞬見とれてしまう

『俺は―――――』


『何言ってんだよシャドウ、仲間だろ? 俺達』

 そこに差し出される、血糊で真っ赤に染まった皮のグローブに包まれた右手


『―――その安綱はお前が持っていてくれ。お前は恐らく【ガーディアン】だ。使えるだろが用心しろ。そしていつか……俺を滅ぼす剣になれ……お前はもしかしたら、俺の唯一の……』

 寂しげな笑顔を浮かべ、その唇が次の言葉を形作る


―――仲間 だった かもな―――


そう言い残し遠ざかる深紅の背中


 鬼丸……お前は……俺になに……を?


―――――カチリ


 その時、俺の中のどこかずっと奥の方で、何かが繋がる音がした……


《脳波一致、Pf.tomotikaであることを装備Yasutuna承認。

 同調値起動レベルをクリアー…… 全活動プログラム、ノーマルからガーディアンに移行します……》


 突然、頭の中に電子音声独特の無機質な声が流れる。

 安綱を握った手の震えがいっそうその勢いを増し、それに呼応するかのように耳鳴りが酷くなって鼓膜がその役目を果たそうとしない。にもかかわらず、確かに聞こえるその声に、それが鼓膜を介さず直接脳に流れてくる事を悟る。

 しかしその脳は相変わらず断続的に襲う頭痛で悲鳴を上げ、さらに全身に掛かる圧力が体の自由を奪う

 くっそ……なんだっ……こ……れっ?


《システムガーディアン、アクセス開始…………》

《……………………エラー》

《再試行…………アクセス成功。続いてプログラムダウンロード……》

《ロード率、60%……70……80……90……ダウンロード完了》

《起動スタンバイ……》


 次々と流れ込んでくる無機質な声音の意味不明な単語。何に繋がるプロセスか全く分からないが、一つプロセスが実行されるたびに頭の神経が焼き切れるような激痛が走る。意識があるのが不思議なくらいだ。いやもうね、いっそのこと気絶した方が楽ってやつ!?

 ま、まじ死ぬって……!!


《―――――Starting The Lucifer mode…… 》


 今まで切りたくとも切れなかった意識が、頭に響くその言葉と同時に一瞬消失する。

 意識が、細胞が、いや、俺という存在を構成する全ての物が、一切合切根こそぎはぎ取られ一カ所に凝縮される感覚……

 右手に握る安綱に……

 さっきまでこれでもかとばかりに襲っていた頭痛はどこかへ吹っ飛び、さんざん鼓膜を苛め抜いていた耳鳴りがファンファーレに変わる。猛毒のようにじわじわと浸食していた憎悪は反転、代わりに突き抜けるような快感と狂気がこみ上げ俺の中で爆散する。

 脳神経を繋ぐニューロンというハイウェイを、狂気と歓喜の電気信号が光の速さで爆走し、それを知覚した俺の全ての細胞が歓声を上げて沸き立ち、心臓フル回転で全身の筋肉にどす黒い血液を送り込む。


 わははははははははは――――――――っ!! やべえやべえやべえっ!!!!

 体は未だに痺れて動けねぇのに、やばいくらいに楽しいんですけど――――っ!!


 先刻まで全く勝てる気しなかったけど、今じゃ全然負ける気がしない。体に蓄積されたダメージで関節が悲鳴を上げているにもかかわらず、そんな考えが頭を支配する。

 属性防御? 未帰還者の意識? そんなの関係ねぇって……


 だってさぁ……

 なぁんもかんも『消して』しまえばいい話でしょ?


「おおおおおおおおおおおおっ――――――――!!」

 溜まりに溜まった歓喜と狂気を声と共に吐きだす。それと同時に足下から吹き上がる不可視の圧力に羽織ったマントの裾が翻った。

「シャ……ドウ……?」

 何かに怯えたような誰かの声がかすかに耳に響くが、そんな事はもうどうでも良い。

 歓喜と狂気……そして爆発的に膨れあがる破壊衝動。それら全てが入り交じった目でバルンガモーフを睨むと、時折ザリっとしたノイズのように像がぼやけ、視界にある物全てが数字や記号に見える。まるで写りの悪いデジタル映像を何度も見せられているようだ。

 何度か瞬きしてふと足下に視線を落とす。

 聖堂の壁からにじみ出る仄かな光に照らされて足下に落ちる自分の影。舞い上がるマントがまるで開いた翼のようだ。

 いや……背中に何枚もの大きな翼を生やした人……人に似て非なる物の姿。

 「明けの明星……」

 空中を漂うクソガキがぽつりと呟いた言葉がかすかに鼓膜を振るわせる。

 あん? 何だそれ?

 するとブンっと安綱が鈍い音を立てて唸った。今や完全に俺の一部に、いや、俺そのものと言っても良いような感覚のその二尺六寸の黒光りする刀身が仄かに濡れているように見える。それはまるで獲物を前に涎を垂らす獣の様だ。

 わかったよ、まあそう焦るなよ安綱【俺】……


 さあ、この世ならざるこの世界で、今宵も『狩り』を始めよう



初めて読んでくださった方、ありがとうございます。

毎度読んでくださる方々、心から感謝しております。

第22話更新いたしました。

プライベートがちょっとテンパってまして書く暇がありませんです。まあショーもない事を頼まれそれからようやく開放されました。

この22話を書くのに普通に1ヶ月かけてしまった。う〜ん……

それはさておき、シャドウがやっと覚醒します。つってもまださわりですけどね。覚醒時に出てくるマリアとのやりとりは別の物語で、この話では出てくる予定はありません。物語の一番最後に少しだけ触れようかなって考えてます。

しかしなぁ、ホントはこの話ぐらいで一段落付けるハズだったのですがどんどん長くなるなぁ……ショート2とか書ける人尊敬しますまじで。

鋏屋でした。


11月5日

若干内容を修正しました。大まかな流れは変わりませんが、今後の内容を変更したのでそのための修正です。



次回予告

訳も分からずに変異したシャドウ。それを予測していたにもかかわらず、その予想を上回る力を発揮し驚愕するメタトロン。そしてメタトロンから語られる安綱とそれを振るう者の秘密が明らかに!? 


次回 セラフィンゲイン第23話 『安綱を振るう者』 こうご期待!


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