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セラフィンゲイン  作者: 鋏屋
EP-1 セラフィンゲイン
23/60

第21話 魔女の矜持

 俺は安綱の切っ先を空中に浮遊する少女に向け、そのあどけない顔を睨んだ。

「はは…… 大した威圧感だ。プログラムである僕がプレッシャーを感じるとはね。流石と言ったところか……」

 そう言ってメタトロンは乾いた笑いを漏らした。心なしか先ほどより邪気が弱まったように感じる。AIであるコイツにそんな人間らしい『感情』の様な物があるのかわからんが、知ったこっちゃ無い。どうにもコイツは許せそうにないんだよ。

「まあいいさ、何にせよこの戦闘である程度はハッキリするからね」

 ハッキリする? なにがだ?

「どういう意味だ?」

「いやなに、こっちの話だよん。そんなことよりつよ〜いでしょ? 僕のチューニングしたバルンガモーフは。大丈夫? 見たところ有効打はまだ1度も無いみたいだけど。頑張らないとやられちゃうよ〜?」

 雰囲気が変わったのも一瞬のことで、またさっきのようなふざけたしゃべり方で俺たちを挑発する。

「あの野郎、人間様をオモチャにしやがって…… なんかスゲームカつかね?」

 とリッパーが呟く。奴も俺と同様の気持ちらしい。珍しく意見があったな、俺たち。

「同感だ。何とかあのふざけたあいつをぎゃふんと言わしてぇ……」

 リッパーに狂おしく同意。同じプレイヤーとして、そこはなま暖かくスルー出来ない部分だよな、まじで。

「あたしも聞いてて腹が立ってきた。人の道に反してるわ。若干それてるあたしが言うのもなんだけど」

 ははは…… ドンちゃんのはさ、人の道でもオカマ道だけどね。

「ん――― いまいちよく分からないんだけどぉ…… ここは拳で解決する方向で……」

 おいララ、どんな方向だ、それ? つーかここはって限定しなくても、いっつもそうだろ? お前の場合。

「昔ミーのグランマが言ってたネ…… 左のケツ叩かれたら右のケツも出せって…… こうなったらノーマーシーね。100倍にしてリターンざんすっ!!」

 サム…… 気持ちは分かるが意味がわからん。何だケツって? そもそもお前のばあちゃんお前が生まれる前にとっくに天国でバカンスしてるだろっ! 会った事ねぇって言ってたじゃねぇかっ!

「私も腹に据えかねる…… 魂を救済する者として見過ごせない冗談だ」

 さ、サンちゃんが喋った! って当たり前か。別にしゃべれないわけではないし。確かにリアルで現職の僧侶なだけに、魂を弄ぶような所行はスルー出来ないんだろうね。

「私も一人のプレイヤーとして…… いいえ、この仮想システムの開発に携わった者として、そしてその原型を『楽園』と名付けた兄の想いを汲む者として……」

 スノーが静かにそう言葉を紡ぐ。少し下を向いていたフードと下ろした前髪で隠れたその美貌がゆっくりと顔を上げ、その瞳に確固たる意志の光をたゆらせて。

「私は……」

 そう言いかけ、ちらりとメンバーに視線を回した。その瞳に若干の迷いの色が伺える。

 しかし、その瞳の色に答えるように皆一様に頷いた。

 大丈夫だ。皆お前と同じ気持ちだ。俺たちは『仲間』だ。そしてお前は俺たちのリーダーなんだから。良いぜスノー…… 言ってやれっ!

「私のチーム『ラグナロク』は絶対お前になんか負けない。絶対お前になんかに膝を屈しない。そして、絶対お前を許さないっ! お前が私たちのどんな姿を期待しているのかは判らないけど、きっと期待には応えない。応えてやらない。たとえデッドする結果になったとしても、誰一人逃げない。たとえ最後の一人になっても最後まで戦い抜くわっ!」

 『神の代理人』の称号を持つ大天使の名を冠するこの世界の支配者に、高々とそう宣戦布告するスノー。先ほどまで覗かせていた迷いの色は微塵もなく、その決意を秘めた美貌にはある種の神々しささえ伺える。

「そうそう、その意気だよ―――あ、そうだ、一つ忠告しとくけど此処では君のれいの反則技は使わない方がいいよ? このフィールドは通常システム外の閉鎖プログラムだから、何が起こるか判らないよ。まぁ、無理にとは言わないけど……」

 反則技? 『コンプリージョン・デリート』のことか…… 確かに奴の言うとおりシステム領域に近いこの空間なら極めて危険な行為だ。しかしスノーの答えは簡素だった。

「忠告なんて無用よ、アレはもう使う気はないから」

「そうかい。まぁそうだよね。みんなまとめてロストなぁ〜んて嫌だもんね。よ〜し、それじゃそろそろ2回戦といきっまっしょ〜!!」

 相変わらず場違いな声音で戦闘再開を告げるメタトロン。その言葉を合図に、あの地鳴りのような雄叫びを上げ、バルンガモーフがずいっと前進し始めた。

 この世界でロストしたプレイヤーのなれの果て。そんな同情めいた思いが一瞬脳裏によぎるのか、スノーは顔を強ばらせ、ごくりと唾を飲む。

「迷うなよ、スノー。確かに奴は元プレイヤーだったかもしれない。だが、あの状態ならそれこそ哀れってもんだ。せめて同じプレイヤーである俺たちの手で消してやろう…… 少なくとも俺ならきっとそう願う!」

 それはスノーだけじゃなく、俺自身にも向けた言葉だった。それが正しいのかなんて判らない。判るわけがない。今言った言葉だって、実際に自分であったら恨まない自信はない。たかがゲームで、もしかしたらその人の人生を自分が終わらせてしまうのだ。迷わない方がどうかしている。だが、俺のような特別な感情移入でこの世界に生きる者にとって、散っていった戦士達の意識を弔う事は、俺たちの義務のように思える。だから俺は躊躇しない。俺はこの世界では畏敬の視線を浴びる黒い大鴉、『漆黒のシャドウ』なのだから……

「……うん、そうだね…… ありがとう、シャドウ」

 そう言って頷くスノー。少し寂しそうに目を伏せるその顔。やっべぇ、こんな時になんだが……むちゃくちゃ可愛いんですけどっ!

「よしみんなっ! チーム『ラグナロク』反撃開始っ!!」

 そう言ってスノーは後ろに下がり、ワンドを立てて呪文詠唱の準備に入る。同時に俺は安綱を構え直すと高速移動に移った。するとほぼ同時に左からリッパーが飛び出すのが見えた。

「リッパーっ! 接敵時間に気を付けろよ! 奴はAIコントロールじゃない。動きを読まれるとカウンター食らうぞっ!」

「んなこたぁ、わかってるよっ! 俺をなめてね?」

 相変わらず口の減らない奴だ。そう思ったとき後方のスノーから指示が飛んできた。

「リッパーは左翼から移動しつつ攻撃して攪乱、くれぐれもヒットアンドウェイに徹すること。シャドウは右翼から攻めつつ飛び込むララを援護っ! サムは牽制しながら隙を見てジャンプ。ドンちゃん、狙えるなら顔を狙ってっ! 倒せずとも目を潰しておいて損はないはずよ。サンちゃん、前衛に『ケイトンド』をお願い」

 メンバーに惚れ惚れするような的確な指示をとばし、呪文詠唱に入るスノー。流石は鬼丸の妹だ。指揮者としての資質はあいつに勝るとも劣らない。信義と打算でやっていた傭兵時代では味わえない高揚感に酔いつつそんな思いが胸を走る。すると全身がぽわっとほのかに光り、太刀を握り疾走する体に力がみなぎる。

 サンちゃんの援護魔法『ケイトンド』の効果だ。『ケイトンド』は攻撃力を一定時間上昇させる援護魔法でチームメンバー全員をその対象にする。前衛メンバーにはありがたい魔法だった。

 バルンガモーフはその狂気の四つ目をランランと輝かせ、手にした巨大ハンマーを振りかぶり接近するリッパーめがけて振り落とした。

 その行動を予測していたリッパーが、するりとハンマーを交わし丁度奴の膝あたりを手にした二振りの双斬剣で数回斬りつけた。人間同様真っ赤な体液を霧散させ、バルンガモーフがたまらず吠える。すると緑色だったその体が見る見るに銀色に変わっていった。

 体皮色が変化するのか? なんだそれ?

 一瞬そんな疑問がよぎったが、俺はかまわず跳躍して渾身の力を込め安綱を袈裟切りに振るった。間髪入れずの絶妙なタイミングだったが、バルンガモーフは驚異の反射を見せ、左腕でガードする。

 なろっ! 腕ごと切り落としてやるっ!!

 そう心の中で吠え、俺はかまわず安綱を叩き付けるように振り切った。

 だが、安綱から伝わる手応えはまるで堅い金属に斬りつけた様な感触で、鐘突きのような甲高い音を立ててはじかれてしまった。渾身の力を込めたせいか、その反動も格別で、両手首に痛みを伴ったしびれが走る。

「何だと!?」

 銀色に変色した奴の腕は安綱の必殺の刃をいとも簡単にはじいて見せたのだ。

 あの高強度を誇るダイノクラブの甲羅でさえ、小枝を凪ぐような手応えで両断する切れ味の安綱の刃が歯が立たないなんて……まさか物理攻撃が通じないっ!?

 いや待て。さっきのリッパーの一撃は確かに通じたはずだ。

 弾かれると同時にとっさに身をひねって着地しバルンガモーフから距離を取り、頭の中で矛盾する思考を繰り返す。

 するとその後ろからジャンプ攻撃を仕掛けるサムと、それに続き飛び込むララの姿が見えた。相変わらずスピードだけはピカイチだな。

 俺はすぐさま呪文詠唱に入る。飛び込むララが狙い打ちにあわない為の牽制だ。

「ボルトスっ!!」

 バルンガモーフの顔に向けて付きだした左手から青白い電撃が球状になって飛んでいくと、バルンガモーフの顔面に直撃した。大したダメージではないが目眩ましとしては十分な効果があったらしくバルンガモーフは片手で目を覆いぐもった声を漏らした。

 それと同時にサムの槍が首に当たるが、俺の安綱同様甲高い音を立てて弾かれた。しかし続いて奴の腹にヒットしたララの爆拳に、バルンガモーフは溜まらずうめき声を上げ片膝を付いた。どうやらララの爆拳は有効なようだ。

 元々モンク特有の爆拳は堅い表皮に関係無く、対象の内側に体内で練った気を送り込み内側から破壊する打撃技だ。刃物が通じない表皮でもそれをスルーしてくれるララの爆拳が有効なのは道理だな。

「ララっ! もう一発いけぇっ!!」

 俺の叫びに反応してララは片膝を付いたバルンガモーフの前で構え直し、流れるような動きで両手で円を描きながら右拳を腰高に引きつつ深呼吸する。

「いくわよ〜っ……」

 宣言なんてしなくて良いからさっさとやれっ――――!!

 ララが地面を蹴り、バルンガモーフめがけて飛び込む。

「爆拳、金剛龍激掌――――っ!! 」

 片膝を付いたバルンガモーフの懐に飛び込んだララは叫びと同時に繰り出した右掌躰が奴の腹に当たった瞬間、バルンガモーフはその巨体が2メートルほど後ろにふっとばされ、悶絶して体をくの字に折り曲げ地面に突っ伏した。

 すげぇ、あの巨体を素手で吹っ飛ばすのかよ……

 モンクには今ララが使った様な『溜め技』がいくつか用意されている。体内で気を練る必要があるため若干初動が遅くなるが、練る時間が長くなるほど大技が使える。

 モンクと言うキャラ自体あまり選ぶプレイヤーが居ないので俺もモンクの大技を観るのは初めてだ。だいたいゲームとはいえ限りなく現実に近い体感なんだから、化け物相手に素手で挑もうなんて思わないよな、普通。

 それにしてもララの奴、怖いぐらいにキャラが嵌ってる。あいつのためにあるような職業だな、モンクって。

 ララの攻撃で突っ伏したのもつかの間、バルンガモーフはゆっくりと立ち上がった。多少ダメージを与えたようだが致命傷とまでは行かなかったようだ。爆拳特有の『内部破壊』の影響か、口から一筋の血を流し俺たちをにらみ返す。

 不意にまた体の色が銀から元の緑に変化した。

 俺はもう一度安綱を握り直し、再度攻撃を仕掛ける構えに入った。とその時、後方からドンちゃんの声が響く。

「みんなーっ! 避けてよーっ!!」

 ドンちゃんの宣言に続いてスノーの美声が響き渡る。

「メテオ・バースト―――っ!!」

 よっしゃー! 爆炎系最上級呪文メテオバースト。スノーのキメ技発動だ!

 スノーの美声の尻に、ゴンゴンと唸るような音を立ててバルンガモーフの頭上に大きな火球が出現。その灼熱の火の玉が逆落としにバルンガモーフに襲いかかった。

 ドンちゃんの声に反応しすぐさま距離を取ったはずだが、それでも尚顔がひりひりするほどの熱風をまき散らし、すさまじい爆風にさらされる。

 うっすら目を開けて爆心地であるバルンガモーフが居た場所を観るが、未だに灼熱の業火に包まれ奴の巨体を確認できない。敷き詰められていた床石は高温にあぶられシチューの様になってるし…… 流石は30オーバーの魔導士が唱える最強呪文、相変わらずスゲー威力だ。

「……やったか?」

 俺の隣に退避してきたリッパーが呟く。

「さあ、奴もレベル6セラフだ。一発じゃどうだか…… だがこの威力だ。相当なダメージのハズだ」

 リッパーの言葉に俺はそう答えた。だが俺のその言葉は次の瞬間完全に否定される結果となった。

 あの地鳴りのような咆吼と同時に、未だ溶岩のような床を踏みしだきつつ、爆炎の中からバルンガモーフが現れた。さっきと違うところは、今度は緑や銀ではなくオレンジ色の表皮に変わっており、その他は特に変化もなく無傷だった。

「まっ……まじかよ……」

 リッパーが驚愕の表情で呟く。

 確かに無理もない。アレを食らって無傷とは…… おまけにあの色…… まさか?

「あははっ! 凄いだろ? 僕の造ったバルンガモーフっ!」

 そこへあのすっとぼけたぼくっ娘口調が響く。

「防御属性を変更出来るのかっ!?」

「その通り〜! 正規版はランダムに変わっていくからその都度攻撃方法を変えていけば攻略は可能なんだけどぉ、それじゃつまんないじゃん。それに『彼』にはロストプレイヤーの意識をインストールしてあるじゃない? だから彼の意志で自由に変更できるようにしてあげたんだよ〜ん」

 こんのやろ〜っ!! よけいなオプションつけやがって!!

「ララちんの攻撃は基本打撃系だけどぉ、爆拳は無属性だから防ぎよう無い。でもまだレベルが低いから大したダメージじゃないもんね。ふふっ どうする? 白いお姉ちゃん。頼みの綱の最強呪文を防がれちゃったら打つ手なしって感じですかぁ? あははっ」

 そうからかうように笑うメタトロン。一方うつむき杖を握りしめるスノー。ローブのフードに隠れ表情はここからでは分からないが、杖を握りしめた手が震えているように見える。クソガキの言う通り最強呪文が通じないのがショックだったんだろうか。いや、スノーだけじゃない。こりゃ俺たちもやべえぞ。

「―――な……」

 するとスノーがなにやらぼそりと小声で呟いた。

 んっ? 何つった?

「えっ? 何?」

 メタトロンも聞こえなかったのかそうスノーに聞き返した。


「舐めるな―――――――っっ!!!!」


 突然スノーの絶叫が聖堂内に響き渡った。その声に一同驚いて言葉を失う。あの無口で無表情のお地蔵キャラであるサンちゃんでさえ驚いて1,2歩後ずさったほどだ。

「あったまきたわっ! 見せてやろうじゃない!! 30オーバーの魔導士、『プラチナ・スノー』実力をっ!! 」

 そう言って手にした杖を横にかざすスノー。

 ははっ、やべぇ。スノーがキレた……

 どうやら今のメタトロンの言葉が、彼女の矜持を傷つけたらしい。

 真っ白い杖が横になりスノーの手を放れ、すぅっと空中に浮かび、丁度スノーのおでこ当たりの高さで停止した。両手の指が各々同時に動き空中に不可解な光の文字を描いていく。

 なんだ? こんな呪文知らねぇぞ?


『becoming the signpost that leads me... with the god's technique wise men in the nether world that becomes lively wail about darkness……』

(暗黒の慟哭に息づく冥界の賢者達よ、その神の御技を持って我を導く道しるべとなれ……)


 呪文詠唱に入ったスノーの援護のため、安綱を構えなおした俺の耳に、通常魔法では無い詠唱が流れてきた。

「コマンドライン【言語変換詠唱】!? ベーシックスペルかよ!」

 思わず声が出た。それに反応して隣のリッパーが聞いてくる。

「なんだそれ?」

「旧ヴァージョンで使われていた魔法形態だ。詠唱とその複雑な行使方法、それにプレイヤーの精神に掛かる負担の大きさから今じゃほとんど使用されなくなったんだ」

 セラフィンゲイン初期の魔法は全てこのような『人語』で詠唱される魔法だった。だが、その複雑な詠唱を唱えることと、プレイヤーの体、特に精神に掛かる負担が大きく、またその個人の精神力によって威力や効果に大きな差が出ると言う問題があったため、今俺たちが使う『半自動入力詠唱』に変更になったのだ。

 確かに人間の言語で詠唱するので聞こえに響きが良く、より早く、正確に唱えることを要求される事があたかも本物の魔法使いの様だと言うことで古参のプレイヤー達からは好評だったのだが、新バージョンが安定した『半自動入力詠唱』に移行したのを機に次第に使われなくなったのだった。

 古くからプレイしている魔導士キャラは、現在のバージョンでもこの魔法を使用可能だが、バージョン2以降に参入したプレイヤーキャラには設定されていない。もちろん俺も使用できない訳だ。

 現在俺たちが使っている第2世代魔法と比較してもだいたい同じ様な魔法が多いが、中には現行魔法では設定されていない効果を発揮する魔法もあり、新規と古参との不平等感があるのでサポート側も完全以降したいのだが、古参プレイヤーの根強い要望で現在も消されずに残っている。

 俺も魔法に携わるキャラだからその存在は知っているが、どのような魔法が生き残っているのか、正確なところは分からない。だが、メテオバースト上回る威力の魔法が存在するとは考えにくい。スノーは一体どんな魔法を使うつもりなんだ?

 しかし普段の半自動詠唱ではすさまじい速さで呪文を消化するスノーだが、この呪文は詠唱スピードが遅い。やはりそれだけ複雑なプロセスを踏む魔法なのだろう。言葉と同時に空中に描く光の文字を紡ぐ指の動きがその複雑さを物語っている。

 宙を舞う光の文字…… 

 その光に照らし出され、歌うように言葉を紡ぐ美貌の魔女の姿……

「シャドウっ!! 援護はどうしたのっ!!」

 絶叫のようなドンちゃんの声と同時にこ気味良い発射音が響き、続いて爆発音と咆吼が耳を打った。

 ちっ! 俺としたことがつい魅入っちまった……

 軽い舌打ちを吐きつつ、俺は安綱を下段に構えつつバルンガモーフに向け疾走した。

 射程にとらえると同時に、下からすくい上げるように安綱を振るう。左翼からタイミングを合わせてリッパーが挟撃を試みるが、巧みなハンマー捌きでことごとく弾かれる。

 くそったれがっ!!


『――――It is good according to my calling commanded in this true name …… I am ω and an α ……. 』

(―――この真名において命ずる、我が呼びかけに応じよ…… 我はオメガであり、アルパである……)


 三度目の斬撃を弾かれた時点で不意にスノーの詠唱が止み、俺は距離を取ってチラリとスノーを見た。

 宙に浮いて制止していた杖が空中でクルリと向きを変え、スノーの鼻先で今度は縦に制止する。

 早くも負担が掛かっているのか、目を閉じたスノーの眉間から一筋の汗が光り、表情がかすかに歪む。

 スノーは目を閉じたままゆっくりと杖をつかむ。すると彼女の周囲を回っていた光の文字が四方にはじけ飛び、彼女の前と左右に3つの大きな魔法陣を形成する。

 光の魔法陣に照らし出され、不可視の力が下から風のように這い上がり、彼女のローブがまるで風をはらんだようにその裾をはためかせている。

 そして手にした杖を床に突き立てると同時にその閉じていた瞳を開き、最後の発動コマンドである呪文名を叫んだ。


『ディメイション・クライシス―――――――――っ!!』


 絶叫にも似た白銀の魔女の美声が聖堂全体に響き渡った。

   


初めて読んでくださった方、ありがとうございます。

毎度読んでくださる方々、心から感謝しております。

第21話更新いたしました。

いや、忙しくてなかなか書けませんです(悲)

この21話のサブタイトルは当初『堕天使の鼓動』で、もう少し話が進む予定だったのですが、中間を引っ張りすぎ、切りどころが分からなくなってしまいました。

つーわけで当初1話分だった話を2話に分けてしまいました。相変わらず構成力がないですね、自分……

次回こそはシャドウ覚醒か!? 

……違ったらゴメンナサイ (オイ!

鋏屋でした。



次回予告

凶悪な攻撃力と人の意志を持ち、さらに防御属性を変化させることによってスノーの最強呪文であるメテオバーストをも無効にさせてしまうバルンガモーフ。ハイレベルの魔導士であるという誇りを傷つけられたスノーが激高して放つ失われた魔法は果たして通用するのか!?


次回セラフィンゲイン第22話 『堕天使の鼓動』

こうご期待!!


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