表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セラフィンゲイン  作者: 鋏屋
EP-1 セラフィンゲイン
16/60

第15話 雪乃と智哉

 週明けの月曜日。先週末はセラフィンゲインがメンテナンスだったためアクセスしなかったんだけど、その代わりにクラブマチルダでの一件があったため日曜は二日酔いで1日中家で寝てるつーもったいない休日の使い方になってしまった。

 この前買ったDVDBOXの全38話を一気鑑賞する予定だったのに……

 吐き気と頭痛で苦しみ、3日経った未だに気分が悪く、さらに眠い。出来れば今日は午前中の講義をパスしたいけど、今までの出席率から考えると貯金を全て使い果たしているはずで、恐らく1教科も落とせない。二日酔い、いや三日酔? のせいでアクセスしてないのに寝不足になっているにもかかわらず、重たい体を引きづりながら勉学に励む僕って……二宮金次郎さんみたいだ。

 いや、単に自分がいい加減が招いた結果です、ハイ……スイマセンでした。

 しかし時間が経つにつれて徐々にからだが回復し、講義後半からやっとまともな体調になり、お昼には食欲も出てきたので今日は学食人気No1のオムライスでも食べちゃいますか、とカウンターで注文。

「オムライス1つ」

「オムライス1つ」

 ―――?

 僕と同時に隣の人の注文がハモる。あれ? この声は……

「あれ? 今の声、もしかしてカゲチカ君ですかぁ?」

 少しスローリィーなしゃべり方だが、それが持ち前のロリ顔とマッチして脳がとろけてしまいそう。あっちでのクールな印象ばかりを目にしているので、たまに見るこのギャップは破壊力満点! 盲目の超絶美少女、雪乃さん登場。

「カゲチカ君もオムライスですか? 気が合いますね。ここのオムライスおいしいですよねぇ〜。私大好きなんですぅ〜」

 あのね毎度の事だけど、僕はトモチカだから、つーツッコミもこの際スルー。

 もうね、超 激 萌 えっ!

 スイマセン、最後の『大好きなんですぅ〜』ってトコ限定で、もう一回言ってもらえませんか?

「お昼一緒に食べませんかぁ? あ、もちろん迷惑じゃなければですけどぉ……」

 そう言って子猫のような目で僕を見上げる雪乃さん。

 か、か、可愛いすぎだっ! そんな目でみつめないでくれぇ〜っ! いや、実際は見えていないんだろうけどさ……

「めめめめ迷惑だなんて、ぜ、ぜぜんぜ、ぜん…… もももも、モーレツに、ギギ、ギザお、おおおkで、でですっ!」

 もうダメぽ…… 脳が溶けて人の言語を忘れてしまいそう。迷惑つーか、むしろ幸せ感で死にそうつーか……

「ほんとうですかぁ? よかったぁ、うれし〜」

 そう言ってオムライスの乗ったトレイを受け取り、にっこり笑う雪乃さん。


 周 り に お 花 が 咲 き ま し た!


 自分の分と雪乃さんのトレイを両手に持ち、テーブルに向かう。緊張でぎこちない足取りになる。すると左側に妙な抵抗を感じる。なんだ?

 見ると雪乃さんが僕の上着の裾を掴んでいるではないですか――――っ!!

「すいません。ちょっと一緒に歩くとリズムが掴めなくて……」

 恥ずかしそうに呟く雪乃さん。いやもう全然オッケーですぅ! 袖と言わず腕なり肩なりどんどん掴まってくださいっ!! いっそのこと腰にこう、腕を……


 お 花 満 開 で す!


 運良く窓際の4人がけのテーブルをゲットし、向かい合わせで座る事に成功。オイオイ、コレって端から見たら付き合ってるぽくないか?

「いつもはお弁当を研究室で食べるんですけど、今日は持ってこなかったんですぅ。私、目が見えないから学食って苦手で…… でもたまには学食も良いですね。カゲチカ君に会えたし」

 そう言って嬉しそうに『いただきま〜す』とオムライスを食べ始める。

 僕に会えた―――? ああ、あ、あのそれって……

 イカンイカン! そんなはずがあるわけないっ! 希望的都合妄想はやめよう。何となく体に悪そうだ……

「あれ? そう言えば今日はマリアさんと一緒じゃないんですか?」

 思い出したように質問する雪乃さん。アレと1セットで考えるのはやめてください。

「2人は付き合ってるんですかぁ?」


 ―――――はいっ!?


 冷てーっ! 思わず水をズボンにこぼしてしまった。いきなり何言い出すんだコノヒト!

「いいい、いや、マ、マ、マリアとは、たた、たまに一緒に、なな、な、なる事が、おお、お、多いだけで……」

 そんな事、天地がひっくり返ったってあり得ない。確かに超が付くほどの美人で、容姿だけでいったらマリアが彼女だったら最高だろうけど、あの悪魔と付き合うなら命と忍耐力がもう2ダースほど無いと無理だろう。僕の場合は鑑賞するだけでお腹いっぱいだし、そもそもヲタな僕があんな超絶美形とつり合う訳がない。

「あっちでも凄い仲が良さそうに見えたから、私てっきりそうだと思っていました。そうかぁ……ふ〜ん、そうなんだぁ……」

 彼氏と彼女じゃなくて、『王様』と『家来』、『犬』と『飼い主』若しくは『奴隷』と 『主』って感じか。あっちじゃ僕のが先輩だしレベルも違うからああだけど、リアルじゃ確実にマリアが上。

「やっぱり美味しいですねぇ、このオムライス」

 そうっすか? 僕はマリア以外の女子と2人でお昼を食べるなんて母親ぐらいしか経験無いから緊張しまくりで味が分かりませんよ……

 それにしても、なんか妙に楽しそうだな、コノヒト。

 味はともかく、一通りオムライスを掻き込み2人共食べ終わったところで、不意に雪乃さんが呟いた。

「前回のクエストは……ごめんなさい。私、パニクッちゃって……」

「あ、いいい、い、いや、ももも、もうす、す、すんだこと、だし」

 突然の謝罪にびっくりして動揺する。そんな顔して謝られたら倒れちゃいますよ、僕は。

「それに、『鬼丸』のこと…… 知りたいですよね? 私と鬼丸のこと」

 そう言って少し悲しそうな表情をして俯く雪乃さん。セラフィンゲインで最強と謳われる白銀の魔女、プラチナ・スノーの時とはかけ離れた弱々しい仕草だった。

「鬼丸は…… 」

「カゲチカー! あれ? 雪乃も一緒?」

 雪乃さんの言葉を遮ったのは、天使の美声か悪魔の囁きか……

 ものすげータイミングで登場したのは言うまでもない、神の美貌を持つ悪魔、ビジュアル系悪魔兵藤マリア降臨。いや、堕天と言った方が良いかもしれない。礼によって普通の女子のざっと3人分の栄養補給量に匹敵する量のランチを乗せたトレイを持って立っている。

「ハイハイ、カゲチカ、ずれたずれた〜」

 と言いながら食事の終わった僕を無理矢理隣の席に移動させ、僕らの了解も取らぬまま席に着くマリア。他者の了解なんてマリアには関係ない。自分の思うようにやる。まさにジャイアン思想の持ち主なのだ。自分を取り巻く環境が全て自分中心に回っていると本気で考えているらしい。

 続いてトレイに満載の料理をテーブルに広げ出す。ハヤシライスにカレーうどん、カツサンドにゴボウサラダ。コレに温泉卵とゼリーってお前……

 相変わらず凄い量だ。どんな構造してるんだ? アンタの胃袋。

 そう言えば前に『ラーメンっておかずだよね?』って真剣に同意を求められた事があるし、一緒に行ったファミレスではグラタンとピザをおかずにハンバーグドリアとペペロンチーニ食ってたもんなぁ……

「こんにちはぁ、マリアさん」

「こっちで会うのは久しぶりね、雪乃」

 雪乃さんはマリアに対して『さん』付けなのにマリアは呼び捨て。まあ、コイツの場合出会って数秒で呼び捨てだったけどね。まあ僕なんか、まだ一度も本名で呼ばれた事がないんですが……

 しかしいいタイミングで現れるな。くそっ、肝心な部分で話が遮られてしまった。

「2人して仲良さそうにしてたから話しかけるのにちょっと考えちゃった。雪乃ってもしかしてカゲチカみたいなのがタイプなの?」

 何言ってんだよマリア。タイプ以前に目が見えないだろうが!

「なっ……!?」

 絶句する雪乃さん。

「あ、でも雪乃は『シャドウ』の時しか見てないからね。『シャドウ』の時は確かにコイツもまんざらじゃ……」

「な、何言ってるんですか!? 違いますよっ!」

 ――――いや、そこまで完璧に否定しなくても……

「あっ、いや、カゲチカ君ごめんなさい、違うんです、そ、そうじゃなくて…… 今も偶然会っただけで、それを狙って学食に来たんじゃなくて…… ってそんな事じゃなくて、あの、チ、チームメイトとしてですね……」

 と慌てる雪乃さん。言ってる事がよくわからん。

「や、やあねぇ、冗談よ、ジョ ー ダ ン!」

 雪乃さんの慌てっぷりに少し動揺してマリアがそう答える。確かにえらい慌てぶりだった。

「もう…… やめてくださいよぉマリアさん」

 そう言って落ち着きを取り戻した雪乃さん。いつものスローなしゃべり方に戻っている。何だったんだ? 今の。

「あ、あの、そ、そ、それで、お、おお、鬼丸との事は……」

 とりあえずさっき聞きそびれてしまった話を聞きたくて、僕はそう雪乃さんに聞いた。マリアのせいで中断されてしまったからね。

「ああ、そうでしたね。ただ此処では何ですし、午後の講義が終わったら私の家に来ませんか? それの方が話が早いですし、見せたい物もあるので」

 マジで!? 雪乃さんの家にご招待ですかっ!?

 人生で初めて女子の家に招待されたよ、ママン。恋愛シュミレーションとかで良くあるシュチで、プレイしながら『現実こんなのありえねー!』とかってゲームにツッコミ入れてたんだけど、まさか自分の身に起こるなんてっ! 見せたい物ってアレかなぁ? 卒業アルバムとかでさ、部屋でこう2人で眺めたりして…… よし、ここは数々の恋愛ゲームで培った経験を総動員して…… そんでもって……

「もちろんマリアさんも一緒に。マリアさん予定は大丈夫ですか?」

 ――――ゴメン、ちょっと違う世界にアクセスしてたよ……

 そりゃそうだよな、2人きりってどう考えてもあり得ない。まあ、やっぱり現実には無いよな、あんなシュチエーション。

「大丈夫よ、今日バイトないし」

「じゃあ4時半に校門の前で。私登下校は車なんで、皆さんも乗せて行きますから」

 車で送り迎えかよ……

 でもまあ目が見えないんだし当たり前か。しかしあの容姿で車で送り迎えなんて、まるでアニメに出てくる『お嬢様』を連想させるなぁ。運転手付きのリムジンだったら凄いけどね。

「それじゃあ私は戻ります。カゲチカ君、お昼楽しかったです。マリアさんもまた後で」 そう言って雪乃さんは席を立ち歩いていった。ふと隣のマリアを見ると、あれほどあった料理がもうほとんど無く、残すところ温泉卵とゼリーだけ。どんなマジックだ!? マジで。

 温泉卵をほぼ一口で平らげ、デザートのゼリーにスプーンを運びつつ、マリアがぽつりと呟いた。

「それにしても、リアクション判りやすかったわねー雪乃」

 ――――何の話?

「ま、相手が気づかないんじゃ意味ないか……」

 そう言ってゼリーを口に入れると、僕を見つめながら顔を近づけてくる。オイっ! 何だよっ! 近いって!

「ホント、困った奴よね、アンタって」

 ため息混じりそう言ってまたゼリーを食べ始めるマリア。

 意味わかんねーし。そもそも悪魔のお前に言われたくないつーの。



初めて読んでくださった方、ありがとうございます。

毎度読んでくださる方々、心から感謝しております。

第15話更新いたしました。

プライベートで風邪&多忙につき、投稿が空いてしまいました。スイマセン。いやもう死にそうで……

前回に比べると少し少ない量の更新となりました。話の切れが悪かった物で鬼丸と雪乃の関係は次回にお預けです。

今回は次回の繋ぎ部分で話の大筋とはあまり関係が薄い内容ですが、雪乃の違う一面を見れたかと思います。セラフィンゲインでは絶対零度の魔女ですが、現実は普通の女の子って所を出したかったんです。

途中智哉の妄想が少々暴走してますが、それが現実になるかはまだ判りません。ツッコミを入れたマリアも『シャドウ』の時の智哉にはまんざらでもないようですが……

多少こういった要素も入れてみたらどうかな〜って軽い気持ちで挟んでみたのですが、いかがだったでしょうか?

鋏屋でした。


〈次回予告〉

ひょんな事から雪乃の家に行く事になった智哉とマリア。そこで2人は衝撃の事実を目の当たりにする事になる。

使徒、鬼丸は何者なのか? そして『インナーブレインシステム』と【天使が統べる地】『セラフィンゲイン』が生まれた訳とは?


次回セラフィンゲイン第16話 『世羅浜屋敷』 こうご期待!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ