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セラフィンゲイン  作者: 鋏屋
EP-1 セラフィンゲイン
13/60

第12話 クラブマチルダ

 連日の仮想世界での行動で完全に夜型にシフトされてしまっている僕の体は、単位の危うい講義であるにもかかわらず僕の意志に反し『そんなの関係ねぇ!』とばかり活動を停止しようとする。

 基本的にクリアーな脳であっても耳To耳へと直接スルーしていくのだから、ほぼ徹夜に近い状態なら耳に入ることすらしないのはもはや当然といえる。今の僕ならのび太君より先に寝れますよ、きっと。

 そんなこんなでとりあえず講義を乗り切った僕は、月末に提出期限の課題をクリアーするため資料を探しに新宿にある本屋へと向かった。

 今日は月一回の大型サーバメンテナンスがあるためセラフィンゲインはお休み。この数週間ほぼ毎日アクセスしていたのでちょうど良い休みになった。確かに楽しいんだけど連日の平均睡眠時間約3時間つーのはうっすら命削ってる気がして正直怖かったのよマジで。

 電車に乗り込み運良くドア側のはじっこに空席を見付け座ることが出来た。サラリーマンの帰宅時間とは若干ずれているせいと、逆方向ということもあってか、車内は比較的空いていた。

 僕は車窓の流れる町並みをぼうっと眺めながら、昨日のスノーの言葉を思い出していた。


『そう、鬼丸が使徒なのよ……』


 僕にとっては衝撃的だった。未だにちょっと信じられないけど……

 僕らセラフィンゲインのプレイヤーは他のプレイヤーのリアルでの事をほとんど知らない。基本的にリアルでどんな事やってるか、どんな人間なのかなんてあっちじゃ関係ないし興味もない。現実がどうあれ、セラフィンゲインではキャラのパラメータが全て。だからこそすべからく平等なんだよね。だから当然リアルの鬼丸を知らない。

 でも何で雪乃さんは知っていたんだろ? リアルで鬼丸と会った事があるんだろうか……?

 本来プレイヤーのリアルでの事なんてどうでも良いんだけど、何となくスルー出来なくて考えてしまう。セラフィンゲインで出会ったたくさんのプレイヤーの中でも、やはり鬼丸は僕にとって特別だったんだ。

 情報量が圧倒的に少ない今、雪乃さんと鬼丸の関係なんてどう考えても判るわけないし鬼丸のリアルでの事なんて知る事は出来ない。もう考えるのやめよう。

 そう思い僕は鞄からipodを取り出した。その時電車が揺れ、コードに引っかかっていたパスケースが落ちた。こぼれた銀色のカードが電車の床を滑り、向かいの席の前に立っていた人の踵を軽くノック。うわっ! 何となく嫌な予感がする。だってさ、その人見るからにヤバそうなティーンズなんですもの……

 踵まで滑ってきたその銀色のカードをその人は拾ってしげしげと見ると、くるりと向きを変えこちらに歩いてくる。

 妙な形のしたシルバーリングを中指と小指にはめた左手をつり革のリングにかけ、右手で僕が落としてしまったカードを差し出す。

「コレ、アぁンタのだろ?」

 鼻と唇に大きさの違うリングピアス。それに喋ったときにチラッと見えたけど舌にもなんか刺さってる。どう考えても邪魔な前髪に対してアンバランスな両サイドの刈り上げと生え際が黒い人造のブロンドヘア。何となく『漏らしてる?』って聞きたくなるような微妙に下げ気味のズボンを引きずりながらその人は俺にそう聞いてきた。

「ああ、あ、ど、どうも……」

 確実に僕の人生では良い事では交わらないであろう人種だけど、とりあえず拾って貰った訳だからお礼は言わないと……

 そうどもりながら一応の礼を言いつつ手を伸ばしたらひょいとカードを引っ込めもう一度僕のカードを見る。

「アぁンタ、プレイヤーなんだ」

 そう言いながら僕の方を見つつにやりと笑う。この銀色のカードは確かにセラフィンゲインのプレイヤーを示すエントリーカードだけど、コレはプレイヤー登録をした者だけしか手に入れる事は出来ない訳で、コレを知っているのは同じプレイヤーだと言う事。つまりこの色毛虫にたいなデーハーな人もプレイヤーつーことなのかな?

「ええ、ま、まあ、い、い、一応……」

 例によって例のごとく、どもりまくりの言語。もうさ、この時点で舐められてしかるべきなんだなぁと痛感。情けないけど……

「実わぁ、俺もプレイヤーな訳よぉ。奇遇だねぇ」

 案の定プレイヤーだった。いったいどの辺りが奇遇なんだか教えてほしいけど……

 とりあえず僕のカードを受け取り一応の礼と感謝の言葉を述べると、気分を良くしたのかその若者は僕の前に立って話をしてきた。話してみるとそんなに危ない人じゃないみたいだ。セラフィンゲインでのクエストの話題やアイテムなんかの話題で意外に盛り上がる。やっぱり、人間見かけじゃ判断出来ないんだね。

「いやぁ〜、勉強になるわぁ〜 俺そこまで考えてなかったわ〜」

 クラスAで割と有名なクエストの攻略ポイントを教えてあげて嬉しそうにうなずく彼。ちょっと鼻が高い僕。実に気分がいい。なんだかん言ってたけど、セラフィンゲインのプレイヤーに悪い人は居ないね。同じ話題なら、こんな真逆なスタイルの人種でもこうして分かり合えるんだよ、ママン。

「ねえぇ、ちょっと耕治ぃ、何やってんのよぉ〜」

 セラフィンゲインの話題で盛り上げってる僕たちに、向かいでさっきまで非常識にも車内で携帯電話で話してたギャルが声を掛けてきた。

 ロリのはいったボンボン付きのドピンクな髪飾り。普通でいればまともな小顔なのに妙にぼかしたチークでウーパールーパーみたいに見える頬。よせばいいのに『これでもかっ!』と引いたアイラインは、まるで3日間の徹麻雀を今さっきあがってきたようなクマを目元に演出していてむしろ不健康そうに感じる。

 制服を着ていなければ『もしかしてピエロのアルバイト?』と聞きたくなる様な女子はどうやらこの彼の彼女のようだった。

「おおう、ワリィなミサミぃ〜」

 そう言って彼女の方を抱き寄せて弁解する彼。あはは、類は友を呼ぶって言うけど、女子も呼ぶみたいだねぇ……

「コイツはミサミィ。俺の彼女なんだ。結構イケてるだろ?」

 やべぇ、どうしよう。ツッコミどころ満載だけど同意求められちゃったよ、あはは……

 この娘のスッピンがどうだか判らないけど、ほぼ毎日最高のビジュアルを持つ美少女2人と一緒にいるわけだから他の女子が色あせてしまうのは仕方ないよね、実際。

 とりあえずリアクションを求められているようだし、何か言っとかないとあとがやばそう……

「け、け、けっこう、ま、マニアックな趣味の彼女だ、だ、だねぇ」

―――――

 嫌な沈黙と冷え切った空気が辺りを支配する。

 やべぇ、やっちまった。つい口が滑った……

―――――が

「ねぇ耕治ぃ〜 この人ぉ、あたしに気があるみぃたあぃ? あたし口説かれてね?」

「えぇ? マジぃ? ミサミはカワユイからなぁ〜」

――――――馬鹿で助かった……

「まあ、此処でこうして知り合ったのも何かの縁。実はちょっと頼みがあるんですよ〜セ・ン・パ・イっ!」

 いやぁ、縁なんて物は1ミクロンも感じないんだけど、センパイなんて呼ばれるとちょっと気分がいい。人から尊敬やら敬愛なんて物からはめっきり遠い僕だけにこそばゆさを感じるわけで…… 良いじゃないの。話だけでも聞いてあげましょ。

「俺もかれこれ半年くらいやっててさ、そこそこチームのレベルも上がってきて稼げるようになってきたんっすよ。でも最近ちっとばかりツキに見放されちまってアクセス料も払えない始末なんっす」

 ああ、わかるなぁ〜、アクセス料高いもんね。大物狩ってレベルアップとリザーブで次回のアクセス料を賄うのが基本なんだけどバランスが悩み所なんだよな。

「俺、こんなんだし、バイトもクビになっちまってセラフィンゲインで生計立ててる様なもんなんっす。まあ、何つーの? 俺にとっちゃ死活問題ぃ?」

 えっと……働けば良いんではないかと……

 つーかセラフィンゲインで生計立てるつープランが根本的に間違っている気がするのですが……

「そこでだ、アぁンタにカンパを頼みたいつー訳よ」

 ――――へっ? なんで?

「こうしてうち解けてフレンドになっちゃったわけだし、かわいそうな後輩を救ってくださいよ〜 セ、ン、パ、イっ!」

 最後に微妙な怒気を込めて顔を近づける彼。

 ははは、コレってひょっとして……カツアゲ?

 気が付くと彼の横にはさっきの彼女の他に、いつの間にか似たような若者が2人、両脇を固めている。いずれも頭はともかく体力と腕力は有り余ってそうなお兄さん達……

「な、な、なんで、ぼ、ぼくが……」

「何この人ぉ〜 超どもってるんだけどぉ〜 ウケルぅ」

 そう言ってケラケラ笑うピエロッ娘。ううっ、此処でも天然ラップ機能発動かよ。お前だってマリア見たらひっくり返るぞ、きっと!

 仮想世界で半ば無敵の強さを誇る魔法剣士でも、現実は三流大学に通うヲタクダメ大学生。相手は体力と腕力は有り余ってる10代の血気盛んなストリートヤンキー。人数は4倍だが近接戦闘能力比はこちらのざっと6〜7倍。いや、ひょっとしたらそれ以上かも……

 おまけにフィールドはエスケープ不能の電車内。立ってる相手に対して座っている僕は地形効果の補正もない。やっぱり僕ってリアルじゃこういうキャラなんだよね……

「黙ってケツのポケットの物出したら痛い目だけは見ないで済むよぉ」

 そう言って左手を僕の前に差し出す彼。両脇を固める手下1と2は、あの独特な上下目線を繰り返し、時折「ああぁ?」だの「っんだコラぁ?」と言った意味不明な言葉を連呼しながら僕を威嚇する。

 とりあえず目を見るのはよそう。こういう人たちは何故か目を見られるのをやたらと嫌う習性がある。

「ねぇ、早くしてよぉ〜 あたし達これからカラオケ行くんだからさぁ〜」

 そう言ってにっこり笑う隣の女子。よく見ると所々歯が溶けてるんですけど……

 絶体絶命。半ば諦め掛けて手を尻に回したとたん、上の方から別の声が掛かる。

「あれ? カゲチカ、何やってんの?」

 ガタガタとうるさい電車内でも良く通る美声。普段は耳を貸してはいけない悪魔の囁きにしか聞こえないその声も、今は天使の歌声に聞こえるのは何故だろう。

 視線を上げると、確認するまでもなく『神の美貌』がそこにあった。

 ビジュアル系悪魔、マリア様降臨ですぅぅぅ!

 「ああっ!?……」と声を荒げて振り返るイカレ兄ちゃん達も、一瞬みとれて言葉を失う。そりゃそうだ。マリアの美貌はちょっと突き抜けてるからね。

「なに、あんたら。あたしの連れになんか用?」

 瞬時に場の険悪な異様ムードを察知して好戦的に言葉を吐くマリア。さすが格闘悪魔、こういうノリにはいち早く反応する。極めて頼もしい反面、情けないなぁ、僕。

「なんだぁ? てめぇは」

 一瞬登場したマリアにみとれていた中央の人造ブロンド兄ちゃんがマリアを睨む。が、しかし、マリアの後方から影のように覆い被さる人物が居た。

「なぁに? あら、もしかしてシャドウ?」

 完全に女性の服なのに全くそう見えない体躯と顔。確実に緑色の将校服の方が似合いすぎるほど似合うだろう思われるその人物は、リアルでも確実にその存在感を周囲に知らしめていた。いや、むしろリアルの方が強烈!

 唖然とした顔で固まる3人+女子1人。マリアを見た後のこの精神的衝撃は計り知れないね、きっと。

 その後ろからぬぅっと現れた紫色の法衣を羽織ったお坊さん。そしてスーツを着た小柄な男。

 マチルダにサモンにリッパー。いやしかしサンちゃんってばホントお坊さんなのね。

 いや、あっちでも濃いメンバーだけど、リアルでも濃いね。ドンちゃんなんてほとんど変わらないじゃん、まじで。むしろリアルじゃ会いたくなかったけど、この状況に至ってはこれほど頼もしい知人たちは居ない。

「あら〜坊や達。あたしの友人に何かご用かしら」

 そう言って4人に近づくマチルダ。秘孔でも付きそうな勢いで指をボキボキと鳴らしながら、泣きたくなるような異様な笑顔で近づく巨漢のオカマなんて他人事だけど怖いですまじで。4人は蜘蛛の子散らす用に血相変えて飛び退き、電車が駅についてドアが開くやいなや、転がるようにホームに転がり出るとそそくさと階段を駆け上がって消えてしまったのだった。

 少しだけ彼らに同情する。こんな連中に囲まれたら、僕ならきっとその場で気絶します。

「アンタさぁ、一応成人なんだからあんなガキにカツアゲされてどーすんのよ。ったく、ほんとシャドウの時とは真逆なんだから……」

 ごもっともです。でもマリア、君ほど好戦的にならなくても大抵の事態は解決するのではないかと……

「み、み、皆さ、さん、ど、どうして?」

 この4人がセラフィンゲインでならともかく、リアルで一緒にいるのかが不思議でならない。僕抜きでOFF会ですか?

「あたしのお店が明日新装でね。リッパーとサモンは常連だったから1日前だけど開店祝いに招待したの。ララちゃんは偶然電車でバッタリ。ララちゃんはあの美貌でしょ? すぐに判ったわ」

 偶然って、マジかよ。そんでもってその電車に僕も偶然乗っていたって訳ですか? そんな都合のいい偶然ってホントにあるのだろうか。だいたいマリア、お前今日バイトじゃなかったっけ?

「ドンちゃんの話聞いたら、なぁんか楽しそうだからあたしも行く事にしたのよ。バイトはさぼり!」

 オイオイ、お前目当ての客も多いのに大丈夫なのか? つっても指名率高いからクビにはならないだろう。美形って得だよなぁ。

「それにしても、ほんとシャドウってあっちとリアルじゃ大違いなんだね。あの『漆黒のシャドウ』がこんなカワイイ学生だったなんて驚きだわ」

 そう言って肩をバンッと叩いて笑う2丁目ドズル。あのスイマセン、あなたにカワイイって言われるのは非常に微妙なのですが……

「ねぇ、アンタも行かない? 『クラブマチルダ』雪乃居ないけど『リアルラグナロク』パーティーよ」

 ははは、やっぱりね、そう言うノリだったもんね。でもさ、確かドンちゃんの店ってニューハーフバーだったよね。ヤンチャな若人から助けて貰ったのはありがたいんですけど、正直○ノフスキー粒子大量散布の最大戦速で逃げ出したい気分です……

 そんな僕の気持ちは完全に黙殺され、つーか僕の意志とか合意とかはいっさい考慮に入れないマリアに半ば連行されるように、僕は新宿2丁目つーアメージングゾーンにあるというドンちゃんの店に行ったのだった。  


☆  ☆  ☆


 つー訳で新宿2丁目の『クラブマチルダ』に到着。

 課題用の本を探しに行かなくては、と一応の抗議をしたのだが

「あたしもまだだから大丈夫。アンタがあたしより先に課題出すなんて千年早いわ」

 つーマリアの意味不明なジャイアン論法で強制延期となりました。課題出すにもお前に合わさなきゃならんのか、僕は。

「さあ、みんな入って」

 そう言ってドンちゃんはドアを開けて店にみんなを招き入れた。店内は予想に反してわりかしまともな内装だった。新装したてって事もあってすげー綺麗だし。

 僕たちが中にはいると、カウンターに集まっていた女性? 達がこっちを向いた。

「ママ、遅い〜っ!」

 口をそろえて抗議するホステスさん達。いやホスト? この場合どっちだ? 

「あら、リッちゃん、来てくれたのね〜 サンちゃんもおひさしぶり〜」

 微妙な声音で近づいてくる3人のホステス……? もういいやホステスさんで。声を聞くと確かに男性っぽいんだけど外見は女性そのもの。顔もドンちゃんがドズルなだけに想像が飛躍してたけど、普通に女性に見える人ばかり。最近のニューハーフ業界は凄いなぁ。

「あら、ママの知り合い?」

 一番手前の金髪の人が、僕とマリアを見てそうドンちゃんに聞いた。

「そうそう、大切なお友達なの。だから招待しちゃった」

「ママのお友達なら大歓迎よ〜っ、今日はサービスだから楽しんでって。でも、今度はお客さんで来てねっ」

 そう言って僕にウインクする金髪美人。ホントに女の人じゃないんですか?

「あら〜 こっちの彼女すっごい美人じゃない!?」

 続いてマリアを見て奇妙な声音のトーンが上がる。確かに天然物じゃ希に見る美貌の持ち主だからね、中身悪魔だけど。

「マリアです。お言葉に甘えて来ちゃいました」

 そう言って頭を下げるマリア。何か楽しそう。マリアってばこういう時ってホント可愛いんだけどなぁ。普段極悪なのに。

 ワイのワイのと店の中央にあるテーブルに案内される僕たち。

「じゃあちょっと着替えてくるわね〜」

 と言って店の奥に消えるドンちゃんと他三名のホステスさん。どうやら店の衣装に着替えて出てくるみたい。

「結構面白そうなお店じゃない。改装したばっかで綺麗なのもあるけど」

 マリアが店内を見回してそう感想を述べる。うん、確かに想像してたよりまともな店みたい。ドンちゃんがアレなだけに、08のサ○ダース軍曹みたいな人や、ラン○・ラルみたいな人が女装して出てくるんじゃないかってビクビクしてたよ、実際。

「2人とも良く来るの?」

 マリアは向かいの席に座ったサンちゃんとリッパーにそう声を掛けた。

「ああ、俺はたまにだけどね。サモンはこの店に来る客や、さっきの連中相手に説法説いたりしてるんだ。コレが結構評判でさ」

 そのリッパーの言葉に苦笑いをするサモン。

「いやぁ、私はただ単に話を聞いてあげるだけですよ。まあ、修行で知り得た知識なんかを混ぜてアドバイス的な事はしますが……」

「へぇ〜」

 マリアがそう言ってサモンを見ると照れくさそうに坊主頭を撫でる。リアルじゃ普通に喋るんだね、この人。僕とは逆な訳か。ちょっと羨ましい。

「で、でも、な、な、な、んでハンドルネ、ネ−ムなんですか?」

 僕の問いに妙な顔をするリッパー。

「なんだお前、そのしゃべり方は?」

「ああ、彼ね、リアルじゃ極度などもり症なのよ。緊張したり女の子の前だったりすると旨く喋れないの。だから言ったでしょ、シャドウとは真逆だって」

 と、マリアの補足説明が入る。いいから、余計な事言わなくて。

「マジかよ? ネストじゃ最強っていわれる傭兵『漆黒のシャドウ』がこんなしょぼい学生ってのだけでも驚きなのに、緊張すると旨く喋れない奴だったなんて、ははっ! こりゃ傑作だ」

 だからリアルで顔合わせるの嫌なんだよな。くそ〜、アンタだってリアルじゃ猟奇犯罪者の一歩手前じゃないかっ!

「いやなに、俺達知り合ったのはあっちだったから、そのままリアルでも自然にハンドルで呼ぶようになっただけさ。あっちでリアルネームを呼ぶのはタブーだけど、こっちでハンドル使っても変じゃねぇだろ。あだ名みたいなもんだし」

 そんな話をしていたら、奥から着替え終わったドンちゃん達が出てきた。

「お待たせ〜っ!」

 その声を聞き振り向いた僕は度肝を抜かれた。

 パッつんパッつんの連邦軍の女性士官のコスプレを纏ったフランケン……じゃなかった、傷のないドズル中将がそこにいたからだ。巨体にはち切れんばかりの衣装が、どことなく悪党を前にしたケン○ロウを彷彿とさせるんだけど……

 何の悪夢だ、コレ。絶対衣装間違えてるよ……普通の感覚の持ち主だったらまず間違いなくドン引きだって。

 さらに続いてさっきの金髪美女と他2名も、同じく連邦軍の女性制服を着ている。

 まさか……

「セイラで〜すっ!」

「ミライで〜すっ!」

「フラウで〜すっ!」

 あはは、やった、やっちまったよ……

「どう? うちの看板『木馬ガールズ』よ」

 アホかっ! オカマコスプレバーだったのか、ここ……

「ねえねえ、アンタもこっちにきなさいよ〜」

 そうセイラさんが店の奥のテーブルに声を掛ける。えっ!? 僕ら以外に店に誰か居たの? ふと見ると奥のテーブルに誰か座っている。怖い、全く気配を感じなかったよ。

 するとその人が立ち上がってこっちに来た。恐らくカツラだろうグリーンのロングヘヤーを両肩口で結い、妙な衣装とマントを羽織って口元はヴェールで覆っていて顔がよく見えない。何か微妙に薄気味悪いんですけど……

「彼女はララァちゃん。占いが趣味なの。彼女の占い良く当たるのよ〜」

 ララァってオイ……

「う、う、占い?」

「ああっ、時が見えるっ……」

 いや、見なくて良いです…… 時とか見る前に今の自分を見つめ直そうよ。

 するとララァさんは僕の隣に無理矢理座ると袖から水晶玉を取り出して僕を見つめる。

「綺麗な目をしているのね……」

 連日平均睡眠時間3時間で睡魔に毒された目が綺麗なわけあるかっ!

 つーかその台詞、男の声で言われても怖いだけです。

 あのね、あっちはニュータイプ。でもってアンタはニューハーフ。言葉似てるけど全然別物ですから。

 ただ皆さんそこそこ綺麗なので、変な道に迷い込みそうな悪寒がするが、僕の場合マリアを見慣れてしまっているせいか、かろうじて変な方向に行かなくて済みそう。あいつの美貌が免疫になっているのか。

「とりあえず何か飲み物作ろうか」

 とセイラさん。ふと目に入るお品書きを手に取りメニューを確認。店の名前や皆さんの源氏名同様、あっち系の名前の付いた意味不明な品物が並んでる。あのさぁ、この『マ・クベの壺焼き』ってどんな料理なんだ?

 こうして、『クラブマチルダ』新装開店祝い兼、チーム『ラグナロク』オフ会は微妙なノリと異様な雰囲気の中進んでいった。

 また明日も寝不足になりそうだ……


初めて読んでくださった方、ありがとうございます。

毎度読んでくださる方々、心から感謝しております。

第12話更新いたしました。

今回はリアルの智哉の話です。少しセラフィンゲイン内での『シャドウ』が多く、ギャップが薄くなっている感がありましたので、ここで智哉は現実世界では『ダメヲタ野郎』なんだと言う事を再確認する為に入れてみましたが、いかがだったでしょうか?

ファーストガンダムのネタが入っているのは私の趣味ですw

鋏屋でした。


〈次回予告〉

半ば強引に引き込まれ、微妙なノリで始まった『クラブマチルダ新装開店祝い』兼『ラグナロクオフ会』 そこで出てきたスノーこと雪乃の謎。

さらにマリアは『鬼丸』のことを教えて欲しいと智哉に迫る。

そして智哉は『シャドウ』として、鬼丸との思い出を語り始めた。今明かされる『鬼丸』とシャドウの過去とチーム『ヨルムンガムド』解散の経緯……

かつての戦友、伝説の最強魔法剣士『鬼丸』とはどんな男だったのか?


次回 セラフィンゲイン第13話 『伝説の剣士』 こうご期待!

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