高校2年生、夏(アマネ)
ソラの髪は、ふわふわの猫っ毛だ。
少し栗色がかった髪は、触れるととても柔らかい。
血統書付きの、長毛種の猫みたいに。
彼の心のそのままに、ふわりと全て、受け止めるような。
強さで跳ね返したりはしない、そんな髪。
反して私の髪は、真っ黒で真っ直ぐ。
色も形質も、変化を拒む。頑なに。
切ったばかりの髪は、チクリと痛い。
自分自身すら、拒んでいる。
顔にかかる感覚が煩わしくて、だいたい長く伸ばしていた。
私の髪はあまりにも真っ直ぐすぎる。
まとめようとすると、するりと逃げていく。
だからいつも、一つに結ぶだけ。
私はソラの髪が好きだ。
ソラの全てが好きだけど、とりわけ、ソラのように優しい髪が。
触れると、日向ぼっこしている猫みたいに目を細める。
ふわふわと、幸せそうに。
それを見て、私も笑う。
私の心まで、日向ぼっこしているみたいに温かい。
第二次性徴期を迎え、思春期と呼ばれる私たちの距離は、たぶん、近すぎる。
そんなことは分かっていたけど、この近すぎる距離が心地いい。
◆◆◆
高校は、少し居心地が悪い。
いつの間にか女の子たちに囲まれ、騒がれるようになっていた。
思春期真っ只中に、私で擬似恋愛を楽しんでいる。
同じ性を持つ私を、安全であると、本能的に嗅ぎ分けて。
彼女たちは、私に理想をみている。
理想を、押し付けている。
ソラだけが私の居場所だった。
ここは、いつもと変わらない。
ソラは今日も、笑っている。
ソラの隣だけが、私が私でいられる。
温かな微睡みに似て。
柔らかな、居場所。
繋いだ手が、ぎゅっと握られる。
ここに居ると、知らせるように。
いつまでも、変わらないと思っていたソラ。
そんなソラの、少し大きくなった手に、気づいていた。
でも、もう少しだけ気づかずにいさせて。
もう少しだけ。
ぎゅっと、握り返す。
子どもみたいに。
縋るみたいに。
読んでいただき、ありがとうございます。
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