6 とある幼稚園の先生
私は幼稚園の先生をしている。
小さい頃は夢があった、それは警察官になること。
ある日迷子になった時にお家まで送ってくれた警察官の姿が忘れられなくて、自分もあんな風にカッコよくなりたいと思ったのだ。
でもその夢は小学生の高学年になる頃には諦めていた。
いや、諦めたのではなくて魅力の少ないものに変わってしまっていたのだ。
もちろん警察官になるのは大変だ。勉強もしなければいけないし、運動も出来なければいけない。だが諦めた理由はそういうところではなかった。
小学生高学年になれば半分くらいの子供は恋愛というものに興味を持ち始める。周りに男の子がいないので男の子ってこうなんだとか、男の子の話題が増えてくる。知り合いに男の子がいる女の子に集って色々な話を聞いたりするのだ。
たまにデパートなどで男の子を見かけるとみんなジロジロ見てしまう。それは子供だけではなく大人の女性も例外はない。
こうして男の子に興味を持ち始めると大体が男の子と関われる仕事をしたくなるものだ。どんな仕事でもそうだが、たとえば教師であっても医者であっても、男の子の担当(男担)と呼ばれる資格を取らなければ教育免許や医師免許をとっても男の子の学校や患者は扱えないことになっている。
このことによって男の子は小さい頃から守られ育って行くのだ。
だからみんな最初に男担を取りたがるのだが、男担はその職業の資格を取った後にしか取れないようになっているし、転職する時は男担の免許は剥奪されるようになっている。
これによって同じ男担でも倍率というものが変わってくるし狙い目も人によって変わってくる。
たとえば私のように子供との触れ合いが好きで男担を取れなくても幼稚園で働くつもりがあるとか、まぁいろいろだ。
もちろん医者は大人気で医者の男担を持ってる人をみたらすごいとしか言いようがない。もちろんいろんな意味ででもあるが
こうして小さい頃の儚い夢より現実の利益を考え始め今年やっと幼稚園先生になれたわけだ。
男担も無事に合格し光中央幼稚園というところに就職した。日々幸せだった。可愛い男の子に囲まれ生活するのだ。
生徒たちは先生と呼んでくれる。それだけでとろけそうになるしこの仕事ができて本当に良かったと思う。
私は新人なので担当のクラスは与えられなかったが、その分いろんな子供達とかかわれた。別に差別するわけでもないのだが、とくにこの幼稚園で私が大好きな子たちを紹介したいと思う。飲み会や知り合いと話す時は大体この子たちの話をすることとなる
まずは少しつり目でちょっと茶髪の男の子。結構いいところのお坊ちゃまで、毎日髪もセットしてあるしカッコいい雰囲気をか持ち出してる。幼稚園児なのに王子様みたいな感じだ。
この子はひとりの男の子をよく見ていることが多く、他の子と遊んでる時もその子のことをチラチラと気にしている。たぶんちょっとふわっとした子だから守ってあげたいのかな?と思ってるが、もしかして好きだったりして〜と妄想して楽しんでいる。
もうひとりは先ほどのふわっとしてる子。この子は元気なんだけどなんだか不思議な雰囲気な子だ。何もかも全力だって感じなのにまだまだ余裕ありますって感じがする子だ。頭がすごく良くて、飴をみんなに配った時とかの計算など幼稚園児とは思えないような発言をたまにしていて、他の先生にも有名だ。
最後はいつも1人で本を読んでいる男の子。この子はあまり他の子と関わらない。話しかけられても本を読むからって断ってるみたいだ。こういうミステリアスで知的な子は私の好きなタイプだ。少しくらいお友達ができたらいいのになといつも思っているがまだ友達はいないようだ。
こんな感じで幸せな社会人生活を送っていたのだ。
今日は朝から少し忙かった。そろそろお泊まり会があるからだ。その日のためにみんなせっせと働く。子供の寝顔は素晴らしいものだ。お昼寝の時間もあるが短いのでこうして夜見てられる日を楽しみにしている。
お泊まり会は親御さんから心配されることが多い。今日も色々な親御さんから電話が来た。
「もしもし、光中央幼稚園です。」
「もしもし!?ちょっと昨日配られたプリントを見たんですけど、来週お泊まり会があるんですって!?」
「はい、そのような予定になっております」
「ちょっとおかしいんじゃないですか!?私は息子が家に居ないと寝れないんですけど!それにたくさん危険なことがあるんじゃないですか?そんなに男子がたくさん居たら危ないと思うんですけど!?!?」
「えっと、大体の幼稚園ではお泊まり会は行われており、その目的は親御さんから安心して離れられることやお泊まり会でしか経験できないことなどたくさんありますよ。もちろんお泊まり会の日は警察の方も何人もいらっしゃる予定になってますし安全ですのでお任せください」
「・・・安全なのはわかったけど、さっきから言ってるように私が耐えられないのよ!」
「そう言われましても…強制というわけではないのでお休みされても大丈夫ですが、お子さんの為にも参加させてあげてください…」
「そうなんですか?わかりました!」
ガチャっ
通話が切れる
「また親御さんですか?」
「そうです…参加させないかもって感じですね〜あー私の楽しみがぁ」
「半分くらいの子は参加しませんからね〜毎年そんな感じですよ、子供は来たがるのに」
「そうなんですか!?そんなに休むんだー…」
「先生のお気に入りの子は来るといいですねっ」
「あ、あははっ…」
他の先生にもお気に入りの子とかいるのだろうか?ちょっと恥ずかしい気持ちになったがあの子達のことがきになっていた。
ちょっと聞いてみようかな
子供たちは今自由に遊べる時間なのでいろんなところを周って探す。まず見つけたのはふわっとした子だった。
「りくくーん、なにしてるのかなぁー?」
「あ、先生〜。今は折り紙をしてます。」
見ればわかる
が、声や話し方も可愛いのでなんでも質問系で話しかけてしまう
「そっか〜、昨日のプリントはお母さんに渡してくれた?」
「わたしましたっ」
「お泊まり会について何か言ってたかな〜?」
「え、う、うーん・・・なんか行かせたくないみたいな感じだったかな〜?でも僕はお泊まり会したいですっ」
やっぱりこの子の親もか、どうするべきか
少し考えていると
「…たぶん大丈夫ですっ頼めば聞いてくれる優しいお母さんなのでっ!」
「そっか、先生も楽しみにしてるからね!じゃあまたね〜」
「ばいばい〜っ」
来てくれればいいけどなーと思いながら次の子を探す。
あそこにいるのは少しつり目のあの子だ。
やはりこの子の近くにいたかっ
「あきとくん、ちょっといいかなー?」
「ん?うん。」
「あきとくんはお泊まり会参加できるのかな?」
「いや、俺は参加しちゃダメだって言われてる。…けど」
「けど・・?」
「友達によるかな・・。」
「でも、お母さんがダメって言ってるんでしょ?」
「そのときはどうにかする…」
この子はどうやってお泊まり会に参加するのか楽しみ!もし参加したら聞いてみよう。
「そっか、ありがとう!参加できるといいね」
最後はいつも本を読んでる子を探そうかなっと思ったところで自由時間が終わり次の仕事の準備をしなければいけなくなった。
あの子はまた後でだな〜
親御さんと話すのは大変なことが多いけど子供達と話すのは幸せ。この仕事についてよかったと1日1回は思うのでした。