楽園の扉
楽園の扉。
その扉には、掴む場所がない。
幾度となく、その扉に手を伸ばして来たが、 開かれる事の無い、その扉。
何度も私の夢に出現するその扉。
真っ赤な血で創られた其れは、何を意味するのか。
目の前に立つ黒いタキシードと、シルクハットを持つ男の顔は、真っ二つに割れた仮面を持っている。
私は裸足のまま、その男に近づく為に走った。大地は歪んでおり、踏みしめている感覚すらない。
待って。
呼び止めようとしても、声も出ない。
ただ、私は無心に走った。
ただ、私は答えを求める為に。
ただ、私は永久回路から救われる為に。
幾度となく続けられるその光景。
何度も、何度もこの場所に戻る。
私を解放して。
男は仮面を外し、私の方を見つめた。
私の大好きな、私だけに見せる優しい笑顔。
夢から醒めた私は、転がる銀貨を震える指で掴んだ。
隣で眠る男は、瞳を固く閉じており、微動だにしない。
楽園に導かれる為には、この地獄を変えるしかない。
ねぇ、パパ。
楽園に行けば、もう辛くないかしら?
楽園に行けば、私達は永遠を手に入れられるかしら?
楽園に行けば、獣の宴は終焉を迎える事が出来るかしら?
楽園に行けば、私達はひとつになれるかしら?
「ねえ、パパ。どうして、返事をしてくれないの?」
返事の無い男の亡骸の胸にそっと頰を寄せて、真っ赤な指先で彼の唇をなぞる。
「ねえ、パパ。どうして、私を置いていっちゃうの?」
再び私は瞳を閉じる。
いつか訪れる、死という楽園の扉が開かれるのを夢見て。