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公開処刑2

 シーンとしずまりかえる教室。

 

「では、秋の文化祭の実行委員を決めたいと思います。

 どなたか希望者はいますか?」


 彩が再び声を上げるが。

 誰も反応しない。

 沈黙は続く。




 しかし。

 数秒たった頃か。


「ねぇ、掘北さん、さっきの動画どういうこと?説明してくれる」


 緊張を切り裂く声が上がった。

 声の主は有村さん。

 有村グループのリーダーだ。

 自分が想いをよせており。

 一条からも好意をよせられていると思っていた。

 近々彼と恋人になると思っていた。

 そんな一条と彩の動画を見たためか。 

 

 どう見ても激怒している。

 きつそうな顔をしている。

 そして同時に。

 イジワルそうに笑っている。


「・・・・・」


 彩は黙る。

 答えはしない。

 沈黙を貫く。


「ねぇ、掘北さんは沖田君と付き合っていると思ったんだけど。

 いつの間に乗り換えたの?」

「そうだよー。堀北さん、どういうこと?」

「沖田君、別れたの?」


 有村さんのとりまきがピーチクパーチク話し出す。

 有村さんに続けといわんばかりに声を上げる。

 

 俺にまで質問が飛んできた。

 だから俺は答える。


「別れてないよ」


 有村さんは満足したように微笑む。


「へぇー。なら、あの動画はどういうことなんだろうね~?

 掘北さん。良い子ぶってるけど、裏では凄い事してるんだ~。ふ~ん」

「私もビックリだな~」

「良い声してたよね~堀北さん」


 教室の前で口をつぐんだまま、顔を下げる彩。

 隣の一条は、自分に火の粉が飛んでこないようにか。

 彩から少し距離を取って離れている。

 皆の視線を集めないようにしているのかもしれない。


「ねぇ、ねぇ、堀北さん。どういうこと?あの動画の子、掘北さんだよね?」

「絶対そうだよ~」

「私もそう思うな~」

「ねぇ、ならもう一度確認してみない?」

「いいね」

「そうしよ。そうしよーよ」

「人違いだったら大変だもんね~」

「私達、やさしいね~」




 有村さん達はスマホを取り出して、動画を再生する。

 皆に聞こえるように音量MAXだ。


『あっ、あーん、あっ』

 

 お馴染みのフレーズが繰り返される。

 彩の喘ぎ声が教室に響く。


「やっぱり、堀北さんだね~この子」

「あたしもそう思う」


「うわぁー。でもでも、掘北さん。乳輪大きいのね」

「良い表情してるわ~」

「気持ちよさそう」


「すっごい、接合部見えてるよーこれ」

「かなり使いこまれてるんじゃない、掘北さんの」

「確かに、堀北さん慣れてるみたい。まるでプロみたいだね。さっすが優等生」


 動画を見て実況を開始する有村さんグループ。

 笑いながらはやし立てる。 

 心底楽しそうに動画を見ている。


 「そこまでやるのかよ」と、男子達は彼女達を見て恐怖するが。

 好奇心には勝てない。

 スマホを取り出して動画を見始める。

 

 彩は教室の前でポツンとたったまま動かない。

 彼女の周りだけ空気が凍ったようだ。

 時が止まっているように思える。




 一条はキョロキョロとしながらも。

 はっと我にかえったのか。

 皆をとめようとする。


「おい、やめろって、スマホはしまえよっ!」

「うっさいっ!一条君は黙っててっ!」


 ピシャリと有村さんに告げられ。


「そうそう、間男君」

「一条君、良い体してるね~」


 有村取り巻きーズに追撃を受ける。

 一条は罰が悪いのか、口をつぐむ。


「あれ、一条君のアレ・・・すっごく黒くない」

「血管浮き出てるみたいだよ~、元気いっぱいだね」

「うわぁー、ビクビクしてる~。きしょっ!」


 さらなる有村ーズの追撃を受けて。

 意気消沈する一条。

 小さくなり丸まる。

 完全に一条の心は折れたようだ。

 気配が消えた。


 哀れなり、一条。

 有村グループには勝てなかった模様。




 そんな中。

 クラスメイトの大半は。

 どうすればいいか分からないようだ。

 彩と一条に気まづさを感じているのだろう。

 だが、思春期の少年少女。

 動画に興味がないわけでもないので、ついつい見てしまう。


 一部の男子は。

 動画と彩を見比べて、明らかに彩の体を怪しげな目で見ていた。

 彼らは太ももを閉じ、前かがみになりながらも。

 制服を透かして見るように、彩の体をジロジロを嘗め回すように観察する。

 彼らが何を想像しているかは明らかだった。

 まさにこの場は、公開レイプといっていい状況だった。


 


 彩は無言で涙を流し始めた。

 下を向いているが、頬をつたって涙が床に落ちる。

 彼女はプルプル震えていた。


「うわぁー、浮気女が泣いてるよー。泣けば許してもらえると思ってるんじゃないの~」

「甘いよね~掘北さん。少し美人だからって」

「調子乗りすぎ。何様のつもりっ!」


 だが。

 有村グループの追撃はやまない。

 彩にとって拷問の様な時間は続く。


「あっ。アレが何度も出たり入ったりしてる~」

「堀北さん、凄いねー。とっても丈夫~。尊敬するわ~」

「お胸も揺れてるね~」


 彼女達の実況は続く。

 他の生徒はほぼ無言だ。

 

 なので教室の音は。


 動画から流れる彩の喘ぎ声と。

 声を上げる有村グループの実況。

 彩のすすりなく声だけだった。




 時折。 

 彩が助けを求めるように俺の方を見ているようだったけど。

 俺は全て無視した。

 彼女をこの場で助けるつもりもないし、慰めもしない。

 そもそも、俺がこの状況を作り上げたのだから。 

 もっと苦しめばいいと思っていた。 



 異様な教室で。

 彩は一人泣いていた。 






 30分程すぎた頃だっただろうか。


「あっ、動画終わったね。掘北さん、女優だね。プロみたい」

「再生数すごいよ。もう、1万再生いってる」

「コメントもたくさんはいってるね。皆、誰か知りたがってるみたいだよー」


「あっ、良いこと思いついた!私、ネットの皆に、この子が誰か教えてあげよーっと」

「そうだね。掘北彩って書いてあげようよ~」

「後、今の写真を撮っておこう」


 パシャリ

 

 泣いている彩の写真を撮る有村グループ。

 スマホを操作している。


「これで掘北さん。ネットの有名人だね」

「もしかして、スカウトとかきちゃうんじゃない」

「まぁ、AVだけどね」

「でもさー、私達有名人と同じクラスか。運が良いねー。一生の思い出になるよ」

「そうだよそうだよ~」

「サインとか貰った方がいいんじゃない」


 盛り上がっている有村グループ。

 

 ついに耐え切れなくなったのか。

 ザザッ ガチャ

 彩は教室を出て行った。


「あっ、逃げたー。浮気女が」


 有村さんがポツリと告げた。


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