悪魔のささやき2
文化部部室棟。
俺は何気なく廊下でスマホを弄っていると。
来た!
一人の女子生徒が通りかかった。
校則違反ギリギリまで茶髪に染めた少女。
ふわっとゆるふわな髪型がゆれている。
着崩ずした制服がちょっとおしゃれで、そこそこの美人。
幸い彼女は一人のようだ。
群れる女子は苦手なのでよかった。
それに、普段群れている彼女にしては珍しい。
彼女は俺と視線が合うと、ニコッと笑う。
日頃の行いの成果だ。
俺は優等生の良い人で通っているからか。
女子受けはそこそこいい。
彩と付き合っているせいかもしれない。
何故か彼女がいる男子に対して、女子は柔らかい対応をとる場合が多い気がする。
「有村さん、ちょっといいかな」
「何?沖田君」
「実は有村さんに話しがあるんだけど、人には聞かれたくないから。この空き教室でいいかな」
「あやしい~。いいの?彼女の掘北さんいるのに」
「変な話じゃないし、彩は気にしないよ」
「何々、まさか、あたしに告白するの?沖田君、あたしのこと好きなの?」
「有村さんは魅力的だけど、それは違うかな」
「そこは嘘でも好きっていってよ~」
「友達としては好きだよ」
「それでいいよ~」
俺は有村さんと空き教室に入る。
「それで沖田君、話しって何?」
「実は、俺の友達の一条のことなんだ。知ってるだろ、一条のことは?」
「えっ・・・うん。それは知ってるよ。同じクラスだもん」
ちょっと動揺する有村さん。
田中君よりは分かりにくいが、俺は瞬時に察知した。
やはり有村さんは一条に惚れているな。
「これ、秘密にしてほしいんだけど・・・」
「何々?もったいぶらずに教えてよ~」
「一条なんだけど、実は有村さんのことが好きみたいなんだ」
「・・・・・・・・」
顔を赤くして固まる有村さん。
口をポカンとあけている。
「一条なんだけど、実は有村さんのことが好きみたいなんだ」
「き、聞こえてるよ~」
「そうかい、よかった。それで、有村さんはどうかな?」
「えっ、私?なんでなんで?どうって何が?」
彼女は自分が一条を好きなことを隠したいようだ。
意外と乙女だな。
「いや、ほらっ、俺は一条と仲が良いし。俺には彩がいるだろ。
一条にも早く彼女をつくってもらいたいんだ」
(まぁ、一条の彼女も彩かもしれないけど)
「ふ~ん・・・・」
「有村さんと一条は上手く行くと思うんだ。
それにもし望みがないのなら、一条にも伝えてやりたいし。
それで、どうかな?」
「・・・う~ん」
黙る有村さん。
何か迷っているのかもしれない。
もう一押しだな。
「やっぱり、一条は無理か。奴は能天気だからな。
有村さんにつりあわないか。はぁ~残念、ダメだって伝えとくよ」
俺が空き教室から出ようとすると。
「待って。別に・・・その・・・嫌いじゃないから」
有村さんがさっと告げる。
慌てたように俺を止める。
ふふっ。
かかった。
焦ったな、有村さん。
「分かったよ」
「えっ?」
「有村さんの気持ちはよく分かったから。俺もそこまで鈍くないよ。
できる事があるなら、二人を応援させてもらうよ」
「・・・・え、うん」
「それじゃ、有村さん。今日はそれだけだから」
「・・・・うん」
俺はさっそうと空き教室を出た。
ふふふっ。
これで二つ目のエサも撒いた。
一条はアレでもてるからな。
勉強は怪しいが、運動は出来る。
それに背が高くて顔が良く、とっつきやすい。
一条を好きそうな女子は多かったが。
俺は有村さんを選んだ。
幾つかの条件に見合ったからだ。
一つ、彼女は俺とそれなりに面識があること。普通に会話するぐらいの間柄。
二つ、彩とはそれ程親しくなく、同じグループにいないこと。
有村さんはどちらかという、彩を嫌っている気配があるし。
クラスでは多くの取り巻きをつれ、有村グループを形成している。
強気なギャルグループなので、あまり敵にはしたくないグループだ。
三つ、有村さんは直情的というか、何かを信じやすい。
思ったことを口に出しやすいタイプで、血液型占いの話も良くしている。
操るにはちょうどいい。
ふふふっ。
順調に計画は進んでいく。
これで。
彩と一条の破滅も近いかな。
二人の楽しい学園ライフも、もう少しで終わるだろう。
まぁ。
今の内に十分楽しんでもらえるといいんだけど。