刀剣演舞8
「君が・・・田中君が犯人だったのか・・・」
額から血を流す田中君。
眼光鋭い彼。
これまでの印象とはまるで違う。
のほほんとした表情ではなく、狂犬のような顔をしている。
「沖田君。僕は田中であって、田中ではないよ」
「!?」
「図書委員の田中は、既に心の奥深くに押しこんだ。もう彼はいない。
今の僕は、新撰組の田中寅蔵だ」
「な、なんだってっ!?」
「でも・・・僕も直に彼と同じになる。もう・・・この体が持たないのは分かる」
「寅蔵?何故こんなことを・・・こんな無意味な事を」
「僕はただ、武士として死にたかっただけだ。
前回は裏切られて惨めに死んだが、今度こそまともな死を望んでいた。
そのために強者を探していたんだ」
「ならっ、なんで・・・・?俺を・・・」
「昨日、武道場で竹刀を持って立ち会った時。
沖田君、僕は気づいたんだよ、君に切られて死ぬとね。君の才能の片鱗を直感した」
「武道場・・・あの時かっ」
「僕はね、感じたんだ。幕末の昔、沖田君と立ち会った時と同じ感覚を。
だから、君に本気を出させるために彩を浚ったんだ。
一番隊隊長であった君と戦って死ねれば本望だった」
「何故?彩を殺そうと・・・」
「それは、この体の田中との約束だ。掘北と一条に復讐をしたがっていたからね。
ただ望みをかなえてやっただけだ。この体をのっとる礼に。僕にはどうでもいいことだ」
「一条だと?奴も襲ったのか?」
「あぁ、掘北さんがいる部屋、その奥の倉庫に転がしてある。
このままだと、焼け死ぬだろうな」
俺が彩と一条を救いに行くために。
瀕死の田中君から離れようとする。
「沖田君、せめて、僕に止めを刺してくれないか。
今度は自分で死ぬのではなく、相手の剣で死にたい」
「断る!俺はそんなことはしない」
「・・・そうか」
ザザッ
田中君が縮地で移動し、刀を拾う。
こちらに刀を向けている。
殺気をぶつけてきている。
「沖田君。最後の一撃。刀の勝負はどちらかが死ぬまで続く」
相手。
田中君は本気だろう。
最早、説得など通じないだろう。
心を完全に決めているようだ。
それに、瀕死状態だが油断など出来ない。
「いいだろう。俺の一撃は、ちょっとばかし重いぞ。お前の全てを斬り裂いてやる」
「よろしく頼むよ。行くよっ」
「こいっ」
ザザッ
田中君が消える。
縮地で襲いかかって来る。
空間を跳躍してくる。
高速を接近してくる。
瀕死とは思えない。
これまでで最速の一撃。
だがっ・・・・
バシュ
「ぐはっ!」
俺は刀を振りぬいた。
田中君の胸を斬りさいた。
躊躇なく刀を振りぬき。
胸を大きく斬り裂いたのだ。
俺の速度が相手を上回った。
ドバッ
時間差で盛大に血が吹き飛ぶ。
鮮血が雨の様にふりそそぐ。
田中君の胸から血が弾け飛ぶ。
「俺の勝ちだっ!」
「あぁ、君の勝ちだ」
バタンッ
田中君がその場に倒れた。
それと同時だった。
ガチャン
武道場の扉が開き。
一人の少女が入ってくる。
「沖田君っ!な、なにこれ?大丈夫?」
現れたのは女子グループのリーダ。
有村さんだった。
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有村果歩。
試衛館高校2年。
彼女は同じクラスの掘北彩に良い感情を抱いていなかった。
自分より奇麗な上に、多くの生徒から好かれていた彼女に劣等感を抱いていた。
それに何より。
彼氏がいる身でありながら、自分の想い人を奪った事が許せなかった。
ここ数ヶ月。
私は堀北さんにいじわるをしてきた。
彼女を見ると、心がジリジリと動いたのだ。
何故か感情が揺れ、彼女に関わりたくなった。
でも、友好的には接する事などできなかった。
彼女と仲良くする事は、自分の中のプライドが許さなかった。
自分の想い人を浮気という形で奪った女を、許す事など出来なかった。
最高に馬鹿にされた気分だったから。
いつでも誰でも奪えると挑発しているようにも思えたから。
でも。
心のどこかでは・・・
自分が悪い事をしているのと感じていた。
私が悪いと思っていた。
いくら想い人を取られたからといって・・・
こんなことはしたくなかった。
今すぐにでもやめたかった。
でも、そのきっかけが訪れなかった。
そんな時。
とある映像を見たのだ。
ネットに写されている少女。
内の高校の制服を着て、椅子に縛り付けられ、猿轡をされている女の子。
あたしは瞬時に分かった。
映像の子はどうみても掘北さんだった。
番組名は「やってみたシリーズ~美少女を監禁してみたっ!(*゜▽゜)ノ 」
放送者の名前は。
新撰組隊士:沖田宗司
説明欄には、協力を得て放送をしていると書いているが。
絶対に嘘だと思った。
堀北さんがこんな事をするはずがないと直感で分かったし。
同じクラスの沖田君がこんな事をするはずないとも思った。
彼女は何かの事件に巻き込まれたんだと悟った。
だから。
すぐに動く事にした。
彼女を助けるために。
堀北さんを助けるために。
警察には電話したけど、多くの連絡がきているとのことで、パニックになっているようだった。
正直、あまり頼りにはならないと思った。
ならっ。
自分で助けに行くしかないと思った。
映像をよく見ると。
あたしは背景を見て、どこに堀北さんが監禁されているか分かった。
後ろに移っているのは白い壁。
これだけだと普通は分からないと思う。
でも、壁の一部に見慣れた落書きがあった。
それは・・・あたしは遊びで落書きした絵だった。
それで確信した。
堀北さんは高校の武道場。
その控え室に捉えられていると。
あたしは直ぐに現場に向った。
堀北さんを助けたかったから。
これまでいじわるしてきた負い目があったから。
それに何より。
あたしは気づいてしまったから。
堀北さんの事が大切だと。
彼女にちょっかいをかけてきたのは。
それ程までに。
彼女に好意を抱いていたからだと気づいてしまったから。
もう、自分の気持ちを偽れなかった。
明日、複数話投降で完結です。




