【幕末:京都】新撰組一番隊隊長:沖田総司
幕末。
慶応3年=1867年。
4月某日。
京都、夜。
田中寅蔵を粛清した数日後。
新撰組一番隊隊長、沖田総司は京都の夜を駆け回っていた。
倒幕派の剣士を追っていたのだ。
そして今。
行き止まりの路地に追い詰めていた。
沖田の隣には狐目の男。
三番隊隊長、斉藤一がいる。
「沖田君。焦りすぎですよ。一人で前に出すぎです」
「いいえ、斉藤さん。これでいいんです。
それに、ここは僕一人に任せてくれませんか?」
「沖田君、相手は5人ですよ?それに素人ではありません」
「分かっています」
「それなら・・・・」
「新撰組は多人数で一人を相手にする集団戦法を基本としている。
勝つためにそれが大事なのは分かります」
「ならっ」
「それでも、僕は一人で戦いたいのです。これでも一番隊隊長を務めさせてもらっています。
僕の腕を信用してくれませんか。一人でも勝ってみせます」
斉藤は沖田を数秒見つめる。
その後、納得したようにため息をつく。
「いいでしょう。しかし、危ないと思ったら躊躇なく援護します。いいですね」
「はいっ、ありがとうございます」
沖田は一人前に出る。
追い詰められていた倒幕派の剣士達は。
わずかに安堵する。
「おい、聞いたか。俺らを一人で相手にするんだとよ」
「いくら、最強と名高い沖田とはいえ、俺ら攘夷志士をなめているようだな」
「そうだ。ここで沖田を討ち取れば、俺らにとっては首級だ」
「お前ら、やるぞ。沖田を獲る」
「全員で囲んでやるぞ」
剣士たちは全員剣を抜く。
沖田に向って剣を構える。
命の掛け合い。
尋常ならざる緊張感が辺りを支配する。
だが沖田は。
ゆるりと歩みだす。
まるで緊張していないように、自然体で。
「斉藤さん、少々暴れさせてもらいます」
「見届けましょう」
トン トン トン
沖田がその場で軽くステップを踏む。
小さくジャンプする。
地面の感触でも確かめるように、ゆっくりとステップを踏む。
まるで子供の遊びの様に。
「な、なんだ、俺たちをバカにしやがって」
「沖田たぁあああー!」
「なめやがって」
倒幕派の剣士達が叫ぶが。
次の瞬間
ザザッ
「ど、どこだ?」
「沖田はどこに消えた?」
「おいっ!どこに逃げた?」
バシュ
首が一つ飛ぶ。
バシュ。
首がもう一つ飛ぶ。
バシュ。
首がさらにもう一つ飛ぶ。
瞬く間に三人の死体が出来上がる。
斉藤は、その様子を冷静に見つめる。
「久しぶりに見ましたね。
沖田君の古武術、縮地ですか。
体重移動を極限まで利用する事により、体にかかる重力を移動速度にかえる技術。
常人には、まるで相手が消えたように見えているでしょうね。
ですが・・・ここまでの縮地を使えるのは、沖田君。
それに・・・死んだ田中さんぐらいですかね」
冷静な斉藤とは反対に。
仲間が三人も斬り殺された倒幕派の剣士。
残りの二人はパニックに陥っている。
「どうなってるんだ?」
「お、おい、沖田はどこだ?」
「なんで仲間が切られてる?どうなってるんだよ?」
「この化け物めー!」
パニックになり。
むちゃくちゃに刀を振り回す剣士。
適当に振り回していれば、自分の周りだけは安全なのだと思ったかもしれない。
だが、そんな攻撃に意味は無い。
バシュ
首が一つ飛ぶ。
バシュ。
首がもう一つ飛ぶ。
全ての倒幕派の剣士が倒れた。
首が繋がっている体はなくなった。
あるのは五つの首と、五つの体。
人ではなくなったモノだけだ。
「・・・終わりました」
沖田は刀を振り、血をぬぐう。
鞘に刀を収めると、斉藤の隣にゆっくりと戻ってくる。
「沖田君、ご苦労様です。死体は内の隊で処理しましょう」
「そうして下さると助かります。手柄を奪うようなマネをしてすみません」
「いいですよ。誰が敵を倒そうと、私は気にしません。
それに・・・沖田君の剣にもキレが戻ったようですね」
「はい・・・前回の反省を活かしました」
「田中さん・・・ですか。ほほの傷、まだ消えていませんね」
「ええ。中々直りが遅いようです」
「念が入っている傷は消えにくいですからね。良い薬剤師を紹介しましょうか?」
「いいえ。僕はこの傷が消えなくても良いと思っていますから。
この傷を見るたびに、自分の不甲斐なさを思い出し、奮起できますので」
「それは良かった。沖田君の剣は天のモノ。
最優の剣、本気になった沖田君の剣には誰も適いません」
「斉藤さん、謙遜は良いですよ」
「いいえ。私は本気で思っていますよ。
内の隊で一番強いのは、私でも吉村さんでもなく。沖田君だと」
「斉藤さん、強さは、実際に戦って見なければ分かりませんよ」
「そうですね。いつか私も、沖田君と本気で戦ってみたいものです」
「それはいけませんよ。仲間で争うなど。本気の戦いは殺し合いですから」
「ただの冗談です。私も沖田君も。新撰組を裏切る事はないでしょうから」
「はい。僕は新撰組と心中するつもりです。新撰組がなくなる時が、僕が死ぬ時です」
「そうですね、私も隊が長く続けば良いと思っています。
ところで沖田君、一つ聞いても良いですか?」
「何ですか、斉藤さん?」
「何故、迷いが取れたのですか?」
「簡単ですよ。僕が刀を振るう理由を思い出したんです。
僕は大切な人を守るために刀を振るんです。
これからも、例え生まれ変わっても、それだけは変えません」
京都の闇の中。
沖田は軽く微笑んだ。
沖田の頬の傷は、月明かりに照らされ輝いていた。




