実戦剣術1
夜道をチャリで急いでいると。
いきなり目の前に飛び出してくる人物。
黒い影。
キキッー!
俺は急ブレーキをする。
だ、誰だいったいっ!
この忙しい時に。
まったく危ない人だ。
ふぅー。
もう少しで轢いちゃうところだった。
自転車ライトの先を見ると。
そこには一人の男。
つい先日見た男だ。
そう。
剣道、都大会の会場で見た男。
去年の都大会優勝高。
壬生高校の狂犬。
土方がいたのだ。
「よぉー沖田。急いでどうしたんだ?」
土方は自転車の前に立ち。
竹刀で地面をバンバン叩いている。
稽古の帰りだろうか。
「今はお前に構ってる暇はない。どけっ!」
「あーん。そうかい。急ぎのようだな。でもなー、俺はお前に用があってな」
「邪魔だ、どけっ!」
俺は焦りのあまり叫んでしまう。
一刻も早く彩の元に向いたかったのだ。
自転車のハンドルをキュルキュル回して、進路を変えようとするが。
土方がササッと動いて進路を妨害する。
「おいおい、そんなに焦るなって」
俺は土方を無視して急ごうとするが・・・
奴は鞄から自転車ロックを取り出し。
ガチャ
あろうことか。
俺のチャリにカチャっとはめたのだった。
「なっ、き、貴様ー」
「さっ、これで静かになったなー」
俺はチャリを動かすが。
自転車ロックが車輪にからまって動かない。
車輪が回転しないのだ。
ガチャガチャ音が鳴る。
「沖田、少し付き合えやー。そうすれば、ロックの鍵やる」
ちっ。
しょうがない。
今はチャリを再稼動させることが大事だ。
それには目の前の土方をどうにかし、自転車ロックの鍵を入手しなければならない。
「いいだろう、後悔するなよ」
「ほらっ、こっちだ。お前も竹刀もってるみたいだしな。こっちで勝負しろ」
「分かった」
「あーん、ついてきなっ」
俺はチャリを降り。
土方に連れられて近くの公園に入った。
彼の後をついていきながらも。
俺はとても焦っていた。
時間がないのだ。
彩に刻一刻と危機が迫っているのだ。
今すぐ武道場に向いたいのだ。
こんなところで時間を消費してはいられないのだ。
胸が焦る。
心を急かすのだ。
悠長に歩いている場合ではない。
じっとしていられない。
一分一秒が惜しい。
少しも無駄には出来ない。
俺の目に映るのは、前を歩く土方の姿。
彼の右手にみえる自転車ロックの鍵。
あれさえあれば・・・
あれされあれば・・・
今すぐに彩の元に行けるのにっ!
んん?
まてよ。
もしかしたら・・・・
今なら。
今なら後ろから土方を襲って鍵を奪えるのではないだろうか?
後ろからなら、簡単に勝てるのではないだろうか?
「・・・・・」
よしっ!
決めたっ!
時間がないのだ。
手段を選んではいられない。
彩を救うためには、手段を選んではいられないのだ。
それに。
いきなりチャリに鍵をかける奇行を行ってきたのは奴だ。
相手が先に手を出してきたんだ。
なら、手加減する必要もないだろう。
考え方を変えれば、もうすでに勝負が始まっているともいえる。
奴は公園で勝負しようと行っていたからな。
もう十分園内だ。
ならっ。
思いっきりやろう。
サクッと決めよう。
躊躇する必要はない。
奴を後ろから襲って。
自転車ロックの鍵を奪うのだ。
俺は竹刀を握り締めた。
土方の後姿を見ながら。
息を殺して気配を消しながら。
一撃の準備をしたのだった。
今こそ。
敵を滅ぼす時だったのだ。