襲われる者2
鬼仮面が倒れた掘北彩を見下ろす。
刀を鞘に戻し。
地面に転がっている新品のブレスレットを拾う。
数秒眺めてから、品物の意味を悟ったのか。
仮面の人物はポケットにブレスレットをしまう。
それから。
倒れた彼女を担ごうとすると。
「お、おい、お前、何やってるんだよっ!堀北さんから離れろっ!」
仮面の者が声の主を見ると。
そこには一条貴一郎。
堀北のクラスメイトであり。
彼女の元浮気相手。
「おい、聞いてるのか!俺は本気だぞ。彼女を置いてけっ!
この仮面野郎っ!」
一条は必死の表情だった。
キョロキョロ辺りを見回し。
地面に転がっている刀を拾う。
「俺は本気だぞっ!今すぐ離れろっ!」
一条は仮面の者に向って吠える。
拾った刀を構えて威嚇する。
切っ先を相手に向ける。
仮面の者は一条を見つめる。
そこには驚きも恐怖もない。
ただ悠然としている。
「ちょうどいい。捕まえに行く手間が省けた。
わざわざ獲物から来てくれるとは・・・運が良い」
仮面の者の声。
正体がばれないようにガスで声を変えているのだろうか。
地声ではないことは分かる。
仮面の者は鞘から刀を抜き、一条と対峙する。
隙のない構え。
夜の闇に溶け込むかのような姿。
一条も負けじと構える。
意識を集中する。
今は剣道をやっていないが、昔はやっていたのだ。
覚えがないわけでもない。
昔の感覚を思い出して剣を構えるのだ。
全身の神経を集中させる。
(こいつは多分、剣道部を襲った奴だろう。
なんで掘北さんを襲っているか知らないが、話しではかなりの実力者はず。
少しも油断できない。少しでも隙を見せればやられるかもしれない)
一条は相手の出方を伺う。
目線の隅に掘北さんを捉え、仮面の者の動きに注意する。
「一条、お前は大事な人を傷つけたからな。少し痛めにあってもらおう」
「なにっ?」
一条が仮面の者の言葉に動揺した瞬間。
ザザッ
目の前から仮面の者が消えた。
(き、消えた!そんな・・・ばかな。消えただと・・・・どこだ!?)
次の瞬間。
一条に向って斬撃が放たれる。
バシュ
「ここかっ!」
勘で刀を動かす一条。
己の体の中に奔る感覚に従う。
頭で考えたのではない、咄嗟の反応だった。
カキンッ!
刀と刀がぶつかり合う。
金属がぶつかりあう音が響く。
「ほーう。これを防ぐか」
仮面の男が驚いたように呟く。
本当に驚嘆しているようだ。
「あったりめーよ」
「だが遅い。まぐれあたりだっ!」
シューン
バシュ
再び放たれる斬撃。
「うぐあっ!」
一条は斬撃を後頭部に食らう。
全く反応できなかったのだ。
勘は二度は働かなかった。
(まずい・・・次は、どこだ?どこからくる?)
意識がとぎれそうになったところに。
体がぐらついたところに、さらに追撃が放たれる。
だが、一条には斬撃を察知できなかった。
バシュ
(何っ!?)
「ぐはっ!」
一条は完全に意識を失った。
彼が守ろうとした掘北彩と同様、アスファルトの上に倒れたのだった。
敗者は地面に倒れるのみ。
最後に立っているのが勝者。
ここに勝負がついたのだった。
仮面の者は刀を鞘に収める。
そして倒れた一条を眺める。
(まさか・・・初撃を防ぐとは・・・予想もしていなかった。
剣の修練を積んでいるようには思えないが・・・・一体何故?
素人でどうこうなるような剣ではないはずだ・・・
この剣はそれ程軽くないはず。
だが、ニ撃目は簡単にあたった・・・・どういうことだ?
やはり、素人のまぐれあたりか?)
仮面の者は一瞬考え込むが。
すぐに周囲を確認する。
ここに長居は出来ない。
他の者にばれてはいけない。
直ぐに撤収しなければならない。
目的を忘れてはいけない。
それに。
今回は体を放置しないのだ。
これからが大事だ。
これら体を有効活用しなければならない。
本当の戦いはこれからだから。
仮面の者は一条と掘北を担ぎ、夜の闇に消えた。
これからが祭りが始まるのだった。




