衝撃の学校3
放課後。
俺が武道場に向う。
週末に試合があったことにより、今日は部活が休みだけど。
俺は自主練に向ったのだ。
今週の土日にも、都大会の決勝トーナメントがあるから。
武道場で竹刀を振るっていると。
んん?
首の裏に走る電撃。
俺に向けられる野獣の様な視線。
野獣のオーラ?
まるでアフリカのサバンナで、猛獣にでも睨まれているような気配。
すぐに振り返って視線を辿ると。
そこには図書委員の田中君の姿。
おかしいな。
かなり強者の視線を感じたと思ったけど。
田中君しかない。
どういうことだ?
勘違いだろうか?
田中君が近づいてくる。
「沖田君、今日は部活休みなの?」
「あぁ、そうだよ、自主練のみ」
田中君は興味深そうに竹刀を見つめている。
彼の視線の意味が分かったので。
俺は。
「竹刀を振ってみるかい?」
「いいの?」
「あぁ、別に構わない」
「ありがとう」
田中君に余っている竹刀を渡す。
彼は竹刀を持って構えるが・・・・
その姿は初心者とは思えない。
剣と体が一体化しているように思えるのだ。
まるで剣が体の一部のよう・・・・
おかしい。
素人のはずの田中君に、俺は何を感じているのか。
疲れているのかもしれないな。
目をゴシゴシこする。
「田中君、剣道やったことあるの?」
「ううん。体育の授業で少し触れたぐらいだよ」
「そうかい。それじゃー、中々筋がいいのかもしれないね」
「そうなんだー。ねぇ、沖田君」
「何?」
「竹刀を持って向き合いたいんだけど、いいかな?
フリだけでいいんだけど、雰囲気を味わいたくて」
「いいよ」
素人はよくそういう事をしたがるからな。
彩ともやったことがある。
竹刀を持った女の子は凛とした雰囲気が加わり、かわいさが20%増す。
強さと弱さのバランスがちょうどよく合わさり。
つい、押し倒したくなるのだ。
今度、部屋で彩に竹刀を持たせてみよう。
っと。
いかんいかん。
俺は雑念を捨て。
竹刀を持ち、武道場の中心で田中君と向き合う。
だが・・・
おかしい。
明らかにおかしい。
竹刀を構える田中君に隙がないのだ。
完全に初心者の構えではない。
これまで俺が戦った誰とも似つかわない雰囲気。
まるで勝てる気がしない。
圧倒的強者のオーラを感じる。
相手は・・・
本当に田中君なのか?
これが田中君なのか?
歴戦の猛者の間違いではないのか?
ひやりと汗が垂れる。
張り詰めた緊張感。
まるで真剣を持った相手と対峙しているかのような感覚。
少しでも動けば、本当に斬られるのではないかという感覚。
体の奥底。
本能がアラームを鳴らしている。
危険だ、直ぐに逃げろと告げている。
殺されると。
額から汗が落ち。
唾を飲み込む。
刀から手を離せず、一歩も動けなかった。
「ありがとう、沖田君」
田中君が竹刀を下げる。
「あっ、うん」
俺は金縛りからとけたように脱力する。
いつもの日常が戻ってきたのだ。
張り詰めた緊張感は完全に消えた。
「やっぱり沖田君は凄いね。他の人とは全然違う。それに・・・剣道も面白そうだね」
「よかったら、見学しに来ると良いよ」
「考えてみるね。はい、竹刀ありがとう」
「うん」
俺は竹刀を受け取る。
田中君が武道場から出て行こうとすると。
途中で何かを思い出したように振り返る。
「あぁ、そうだ。沖田君、一つ聞いて良いかな?」
「なんなりと」
「沖田君は人を斬った経験はあるのかな?
実際に、人を斬った経験は?」
「んん?」
俺はポカンとしてしまう。
まさかそんな質問をされるとは思ってみなかったのだ。
でも、先ほどの尋常ならざる気配から。
この質問が完全に的外れなものではないかもしれないと思った。
あの緊張感。
あれは殺し合い。
実際に刀を持って殺しあう時の雰囲気だと感じたから。
もしかしたら・・・
田中君は既に誰かを斬っているのかもしれない。
そんな考えすら浮かんでくる。
いつもなら、ばかばかしい考えだと否定できるが。
先ほどの対峙した経験から、完全には否定できなかった。
田中君は俺の表情を見て、場違いな質問をしたと思ったのか。
「嘘。冗談だよ。ほらっ、今日の授業で新撰組の話があったから。
つい気になったんだ。沖田君だから」
「そ、そうか・・・」
「じゃあね。楽しかったよ」
「おう」
田中君は武道場を後にした。
俺は彼の後姿を最後まで目で追っていた。
気づくと。
手のひらに汗をかいていた。
田中君と何時間も対峙していたと思ったが。
時計を見ると、数分も経っていなかった。
本当に濃密な時間だった。
まるで数試合した後のようだ。
それぐらい体力、精神力を消費した。
体の芯にあるものをごっそりと持っていかれた。
おかしいな・・・
まさかな・・・
俺は田中君に緊張していたのか。
素人のはずの田中君に。
本当に今日はおかしな日だ。
こういう時は・・・アレに限るな。
その後。
俺は竹刀を握り、素振りを繰り返した。
雑念を追い払ったのだ。
もやもやした時は、体を動かすに限る。
雑念が消える程、めいっぱい竹刀を振りまくった。
そうせずにはいられなかったのだ。
心に湧いた焦燥感、不安を打ち消すには。
バシュ バシュ バシュ
竹刀をひたすら振りまくった。