【田中】宝探し
時は戻って現代。
2016年。冬。
東京都。
八王子市 (東京の西側にある街)のもっと西。
大自然領域。
高尾山。
試衛館高校二年。
図書委員。
田中寅蔵は森の中を歩いていた。
整備された人の道を外れ、道なき道を歩いていく。
僕はある物を探していた。
探し物は・・・・
新撰組隊士、田中寅蔵の刀。
その刀を手に入れるために、今山の奥を歩いている。
田中寅蔵の刀については、まずネットで調べた。
いくつかの新撰組隊士の剣は、現代でも残っている。
一番有名なのが、先日盗まれた土方歳三の刀。
―――和泉守兼定。
東京都日野市の「土方歳三資料館」に展示されていた。
万願駅から徒歩5分。
高校生以上は入場料500円。小中学生は300円。
だが多くの隊士の剣は行方不明だ。
沖田総司の刀「菊一文字」は神社に奉納されたが。
今は行方不明になっている。
だから僕はネットを探り。
郷土資料館、博物館、様々な図書館を回った。
田中寅蔵の足跡を辿った。
すると・・・
ある話を耳にしたのだ。
田中寅蔵の刀は、彼が死んだ後、沖田総司が管理した。
沖田は複数の刀を集めていたらしい。
その沖田の死後は。
沖田の姉が神社に刀を奉納した。
しかし、姉が奉納した神社は、有名な所だけではなかったようだ。
自然の中にある。
宮氏もいないような山深くにある神社にも奉納されたと噂されている。
沖田の生まれは、江戸の白河藩屋敷 (今の東京都港区西麻布)。
僕は地図を元に調べた。
沖田は江戸、東京から京都に行き、新撰組として活躍。
最後には病気が悪化し、再び東京に戻ってきて人生を終えている。
享年、24歳。
新撰組最強の剣士は病死だった。
沖田だけでなく、新撰組には早死にする人が多い。
常に戦闘、死線に身をおいていたため、多くの剣士は30歳を迎えない。
当時の平均寿命と比べても短く。
現代日本の平均寿命と比べると圧倒的に短い。
武士とはそういうものかもしれない。
命の長さにではなく、密度に意味があるのだろう。
僕を願わくは、太く短く生きたいものだ。
刀を探すために。
沖田が立ち寄ったであろう場所を探した。
当時の江戸~京都間の通り道を調べたのだ。
すると。
僕は見つけた。
見つけ出したのだ。
それは東京都、高尾山内にあるとされる、とある寺院だった。
知る人ぞ知る秘密の寺院。
洞窟の中にあるといわれる幻の寺院。
ネットにもほとんど情報はなく。
市販の地図にも載っていない。
情報を得られたのは運が良かった。
僕は週末になると毎日高尾山を訪れた。
表向きは登山にはまったと周りには説明した。
調査のために、高校の登山部に籍を置いた程だ。
一般登山者を装いながら、寺院を探した。
他の登山者に見つからないように、慎重に道をはずれた。
遭難届けを出されたり、下手な注目を集めたくなかったからだ。
冬に差し掛かる山の中。
道なき道を探索した。
山の奥に入ると、スマホは圏外になる。
だからスマホのGPSや地図機能は使えない。
紙の地図とコンパスで大まかに位置を把握する。
頭の中で、位置を想像しながら歩く。
通った木々に印をつけて、遭難しないようにする。
草がボーボーに生えているので。
常に鎌で木々を切り開いて進んでいく。
クマなど、危険な野生動物と出会った時のために。
最低限の武装をしていく。
草や枝、蛇に噛まれたり、蜂に刺されても大丈夫なように。
分厚い服を着込む。
僕は汗をかきながらも。
山の中を進んだ。
そうして10日。
高尾山を散策すること10日。
全身筋肉中でギシギシになること10日。
腰が砕けるほど疲れること10日。
ついに見つけたのだった。
山道を大きく外れた場所に、確かに洞窟があった。
入り口は陰になっており。
かなり近づくまで気づかなかった。
運良く見つけられたのかもしれない。
僕は洞窟の中に入り。
懐中電灯をつけて進んでいく。
地下水が漏れ出ているのか、中はひんやりと冷たい。
チョロチョロと水が流れている音がする。
バタバタバタ
「な、なんだっ!」
懐中電灯を音源に向けると。
コウモリだった。
なんだ・・・びっくりした。
僕は怖くなったが。
足を進めることにした。
ここまで来て引き返すことは出来ない。
歩くこと1時間ほど。
かなり洞窟の奥深くに来ると。
目の前には祠があった。
ちょこんと洞窟の壁に設置された小さな祠。
僕は一瞬で理解した。
これ。
ヤバイ奴だ・・・・
マジな奴だ・・・・・
絶対に関わっちゃいけない奴だ・・・
祠には圧倒的なオーラがあったのだ。
この場にいるだけで背筋が凍り。
ぞくっとする。
心が凍るのだ。
何も見えないのに、何かがいると感じた。
何か大きな存在が僕に触れていた。
体中の神経が、「逃げろ」と僕に伝えていた。
だが僕は体の防衛反応に対抗し。
懐中電灯を祠に向ける。
すると・・・
目的のものを見つけた。
「あった、刀だっ!」
僕はリュックから写真を取り出す。
田中寅蔵の刀の写真だ。
郷土資料館でコピーしてきたのだ。
写真の中の刀と、目の前の刀を比べる。
間違いない。
本物だ。
これは田中寅蔵の刀で間違いないのだ。
ふふふっ。
くくくくくっ。
ふははははっ!
疲れと興奮が合わさり。
僕はとんでもない高揚感に包まれる。
僕はとうとう見つけてしまったのだ。
伝説の刀を見つけてしまったのだ。
ここまでは・・・・実に長い道のりだった。
調査の開始から、1ッ月以上はかかっている。
僕の自由時間を全て捧げたといっても過言ではない。
高校二年の冬を捧げたのだ。
だが、その成果はあったのだ。
新撰組隊士、田中寅蔵の愛刀。
―――妖刀、零式虎鉄―――
剣は祠の中にある。
古くなっているのか。
木で出来た祠の扉を開ける事はできない。
僕はリュックからハンマーを取り出し。
思いっきりふりかぶって祠を破壊する。
少しでも早く刀を手に入れたかったのだ。
ドン ドン ドン
グシャ グシャ グシャ
古くなっていた木が破壊され。
中の妖刀が。
懐中電灯の光に照らされて怪しく光る。
祠を壊し、右手をつっこんで妖刀を取り出す。
右手の中にある田中寅蔵の刀。
ずっしりと重い。
こ、これが・・・本物の刀の重さか。
質量以外の重さを感じる。
魂の重さを感じる。
何かが宿っているのかもしれない。
「これが・・・妖刀、零式虎鉄っ!」
本物の刀のオーラに圧倒され。
刀を鞘から抜こうとした瞬間。
―――ブォオオオオーーーッン!
「な、なんだっ!」
突風が吹き。
洞窟内を風が吹き抜ける。
轟音が響く。
「うわああああああっー!ぐぅっ、なっ、なんなんだ!」
突風が吹き抜けると。
僕は一瞬発光した気がした。
ふわふわとした霧に包まれているかのような感覚。
それに何故だか。
体中から力がわいてくる。
体中から湧き出るエネルギー。
まさか・・・
「こ、これが・・・・・これが妖刀、零式虎鉄の力なのか・・・・」
体中に流れてくる力。
溢れそうな程のエネルギー。
爆発しそうな程の熱量。
「すさまじいっ!」
俺は今、無敵だと感じた。
誰にも負けないと思ったし。
何でもできると思った。
神にすらなったと思ったのだ。
だが同時に。
ある想いが。
ある考えが頭の中に浮かんでくる。
考えが心の中に浸透し。
心を支配する。
僕は溢れそうになる想い。
心を満たす想いを口に出す。
心が爆発しないように、想いを言葉にするのだ。
「新撰組への復讐、今果たさん!」
妖刀、零式虎鉄を持ち。
田中寅蔵は怪しく微笑んだ。




