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【幕末:京都】とある武士の最期2

 田中寅蔵は、三人に囲まれて息を呑む。

 三人の剣豪から放たれる覇気に押されたのだ。

 だが。

 ぐっと飲み込む、平常心を保つ。


「新撰組最強のお3方が相手をしてくれるのですか。僕も随分出世したものですね」

「田中さん、あなたもその一角でしょうに」

「どうですかね・・・」


 田中を囲みながらも。

 斉藤は沖田と吉村よりも、一歩間合いをとる。

 

「沖田君、吉村さん、先を頼みます。私は仕留める事に専念します。

 手を抜いて勝てる相手ではありませんから」


「斉藤君、分かりました。ではっ、私が先にいきましょうか。

 報酬は一番多く貰う予定ですし、沖田君は病み上がりですからね。

 お2人は隙を見て頼みます」

「はい、吉村さん」


 沖田の返事を受けると。

 吉村が剣をかまえ、田中と対峙する。


「吉村、この守銭奴がっ!

 それだけの剣の腕がありながら、お前に武士の誇りはないのか!?」

「田中君、何をいわれようと結構です。あなたに恨みはありません。

 未来ある若者を殺すのは好きではありませんが・・・いきますよ」



 シューン シューン

 先ほどまでとは違う剣速。

 空間が切り裂かれる音。

 剣筋が目で追えない程だ。

 

 ひょうひょうとした表情の吉村。

 だが、剣速は尋常ではない速さだった。

 田中もそれに応戦する。

 だが疲れもあるのか、田中の方が押されている。


「沖田君」

「分かっています。斉藤さん」


 吉村と戦っている田中の横から。

 沖田が刀を構え。

 深呼吸する。


 そして。

 

 沖田の必殺技。

 三段突きを放つ。

 空間を切り裂く高速の剣。


 シューン 

 ドスッ ドスッ ドスッ

 カキン カキン カキン


「なっ、受け止めたっ!」


 三段突きを防がれ。

 沖田が驚く中。

 

「沖田君、よくやりました。十分です」


 キーン

 ズバッ


「ぐはっ!」


 田中の胸部を貫く一本の剣。

 体を貫いた剣は、背中から大きく出ている。 

 剣で突かれた田中は宙に浮いている。

 それ程までの威力。


 隊内最速と呼ばれ。

 突きを極めた最速の一撃。

 空間を切り裂く神速の一撃。

 斉藤が放った突きが田中をとらえたのだ。






 ズバッ

 田中の体から、刀を抜く斉藤。

 血の筋が地面に出来る。


「沖田君、吉村さん。ありがとうございます。

 お2人が作り出した隙、上手く使うことができたようです」


 全く息を乱していない斉藤。

 剣をふると、刀から血が吹き飛ぶ。


「斉藤君の突きはいつ見ても見事ですね。では、これで仕事は終わりですかな」

「終わり・・・ですね」


 三人の目の前。

 田中寅蔵は膝をついている。

 もう先は長くないだろう。

 息は荒く、表情もきつそうだ。

 突かれた胸からは溢れんばかりの血が出ている。

 

 新撰組最強の一角といわれた田中寅蔵。

 だが、3人の最強の前では無力だった。


「貴様ら・・・三対一で。武士としての誇りはないのか!?」

「田中さん、我ら新撰組に必要なのは勝利のみです。

 相手に勝てる剣技です。他のモノはさして必要ではありませんよ」


「くっ・・・がはっがはっ」


 口から血を吐き出す田中。

 地面に血だまりが出来る。


「しかし武士の情けです。抵抗しないのであれば。

 最後は切腹で迎えることもできます。これまでの田中さんの業績に称えましょう。

 武士は死に方が大事ですから」


 斉藤の提案に。

 田中は・・・


「ふざけるなっ!貴様らの温情などうけんっ!

 最後は自分で決めるっ!

 お前ら、必ず復讐してやるからなっ!・・・近藤に土方もだっ!」


「田中さん・・・」


 沖田が呟くも。

 田中は目の前で刀を首に持っていく。


 彼は自分の刀に、血に願いを込める。

 願わくは、誰かが復讐を果たしてくれる事を祈り。

 願わくは、この想いが誰かに届く事を祈りながら。

 願わくは、自分の想いが引き継がれるように。

 



 ズバッ

 田中は自分で首を斬ったのであった。


 ドサッ コロリッ

 胴体と首が分かれ。

 田中だった体は力なく倒れる。




「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」




 田中の死体を見つめる三人。


「さすが田中さん、最後まで異端でしたね。

 自分の刀で自分の首を斬るなど、普通の者ならできません。

 驚嘆する精神です」

「なんで・・・」

「無常なものよのう」


 微笑んでいる斉藤。

 悲しそうな顔の沖田。

 疲れた表情の吉村。


「沖田君。裏切り者を粛清したまでです。

 この国のために良い事をしたのです。あまり気になさらない方が良いでしょう」

「・・・・はい。分かっています。斉藤さん。僕はこれでも一番隊隊長です」


「良かった。では、彼の死体を運びましょうか。

 元隊士で、撃剣師範にまでなった男です。ともらうぐらいの事はしましょう」






 斉藤が田中の死体を探ると。


「んん?これはなんでしょうか?」


 胸ポケットから出てきたのは、赤い髪飾り。

 どう見ても女物だ。

 

 斉藤は髪飾りを見て得心がいったようだ。


「田中さんがなぜ倒幕派に流れたのかと思いましたが・・・・

 やはり原因は女でしたか」


 吉村は、髪飾りを見て目を背ける。

 故郷の妻子のために新撰組に入り。

 人を殺して稼ぎを得ている自分の境遇に、何か思うところがあったのかもしれない。


 吉村とは対照的に。

 沖田は髪飾りをよく見る。

 惹かれたように目線を合わせる。


「斉藤さん、その髪飾りをいただけますか?」

「いいですよ。沖田君。

 しかし、この髪飾り・・・・

 討幕派の者を捕らえる手がかりになるかもしれませんね。 

 田中さんの女を見つけて、斬り捨てましょうか」


「斉藤さん、それはダメですっ!」

「斉藤君っ!」


 沖田と吉村の声が重なる。

 斉藤は髪飾りを沖田に渡し、微笑む。


「分かっていますよ。沖田君、吉村さん。そう、睨まないで下さい。

 隊内の者以外には、隊のルールは適応されませんから。

 ですが沖田君。髪飾りをどうするのですか?」


「持ち主がいれば返します」

「女に伝えるのですか?あなたのせいで田中さんが死んだと。

 まぁ、男を死に走らせる女には、気を使う必要もないでしょうが」


「斉藤さん、違います。田中さんが胸の中にいれていたのです。

 肌身は出さず持っていたのです。

 きっと大事な物のはずで。ですから、ちゃんと持ち主に返すのです」


「まったく、沖田君は優しいですね」

「斉藤さんが無神経なんです」


「ですが沖田君。これは真面目な忠告です。

 あまり優しすぎるのはどうかと思いますよ。

 その証拠に、ほほ、斬られていますよ」


 沖田はほほを触る。

 すると、彼の手には血が付着する。

 自分の手を見て呆然とする沖田。


「沖田君。気づかなかったようですね。

 それは油断です。

 知らないうちに手加減したのでしょう。

 相手の剣撃を紙一重で交わしたと思ったが、交わしきれなかった。

 いつかそれが原因で死ぬかもしれません。注意した方が良いですよ。

 いくら剣の腕があろうと、実際の死闘での強さと同じではないのですから」



 沖田の胸には。

 斉藤の言葉が深く響いたのであった。

 彼の武士としての心を揺らしたのであった。



 







 慶応3年。

 1867年、4月15日。

 京都、本満寺。


 新撰組。

 7人の撃剣師範の内の1人。

 妖剣使い、田中寅蔵。26歳。


 短い生涯を終え。 

 一人の武士が死んだ日だった。



 幕末の京都で。

 また一つの若い命が消えていったのだった。

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