【幕末:京都】とある武士の最期1
全体的に加筆しました。
特に、「【田中】伝染する悪意2」については重要な情報増やしていますので。
宜しければご覧下さい。
又、2章についても1章同様。
勢い大事ですので、毎日複数話投降でさくっと完結までいきます。
エタリませんのでご安心下さい。
時は過去へと遡る。
幕末。
慶応3年=1867年。
京都、本満寺。
日蓮宗の本山であり。
江戸幕府8代将軍、徳川吉宗の病気治療のため、幕府祈願所になった寺。
現在は、数年前の火事により一部消失している。
時刻は夜。
月明かりが照らす中。
寺の敷地には、ぞろぞろと同じ羽織を纏った者達。
白と青のダンダラ模様の羽織。
手には刀を持っている。
そう。
彼らは新撰組。
倒幕派 、江戸幕府を倒そうとしている者達から、京都の治安を守る剣士集団。
新撰組は一人の男を囲み。
刀を握っている。
囲まれた男は、慎重に周りを伺っている。
膠着状態。
すると。
新撰組の中から、隊長服を着た狐目の男。
三番隊隊長、斉藤一が一歩前に出る。
「まさか、こんなところに隠れていますとは。
我ら新撰組を裏切り、正反対の倒幕派組織に鞍替えしたあなたが。
お上を倒すのが目的のあなたが、幕府祈願所、将軍の治癒を願う場所に・・・
おかしなことですね。
ですが、もう終わりですよ、田中寅蔵さん」
元新撰組、撃剣師範。
田中寅蔵は、剣を握りながら周りを伺う。
逃げ道を探る・・・
だがしかし。
完全に隊士に囲まれている。
ネズミ一匹逃げ出せる隙間はない。
「っち、完全に囲まれたか」
「田中さん、投降して下さりませんか。身内争いでは、犠牲者を最小限にしたいのです」
「なぜ、お前らがここに・・・」
「運が悪かったですね。あなたが入ろうとしていた倒幕派組織。
我が新撰組から脱走して作られた組織、御陵衛士とは、つい数日前に同盟を結んだのです」
田中寅蔵は唇を噛む。
彼は、新撰組を抜けて御陵衛士に参加する予定だったのだ。
事前の了解は取れていた。
十分な役職も用意されていた。
だが、直前になって御陵衛士に断られてしまい。
行くあてがなく隠れているところを、今新撰組に見つかってしまったのだ。
「くっ・・・・」
「御陵衛士には、かなりの隊士を引き抜かれましたからね。
お互いに隊士を引き抜かないことを条件に、一時休戦したのです。
あなたが御陵衛士に接触していると教えてくれたのも、彼らです。
あなたは手打ちの手土産にされたのですよ。田中さん」
田中は現状を認識した。
だが、それでは既に遅い。
もう、どうしようもない状況になっていたのだ。
「僕は・・・裏切られたのか」
「そうです。御陵衛士は、元々新撰組を裏切って作られた組織。
裏切り者達の組織など、信じられるわけがないでしょうに。
田中さん、判断を間違えましたね」
失意に陥りながら、田中は辺りを伺うが。
隙なく隊士が囲んでいる。
少しも隙を見せない。
「無駄ですよ。田中さん。我が三番隊は最も集団戦法に慣れています。
この方法で何人もの剣客を殺めてきました。あなたもご存知でしょう」
「やってみないと分からない」
「投降は・・・しないようですね」
「誰がするかっ!」
斉藤は、田中をみてため息をつく。
その後、隊士を見る。
「皆さん、一対一にならずに、必ず複数で相手するのです。
相手は田中さんです。前はめっぽう強い、必ず後ろから斬りかかるのです。
彼はどこの流派に属さない、不思議な剣を使います。十分に注意するように」
「「「はい、隊長」」」
ザザッ ザザッ
カキンッ カキンッ
隊士が切りかかる。
複数の方向からの同時斬撃。
だが、田中に傷はつかない。
彼は隊士からの攻撃をすべてしのいでいる。
新撰組一番隊隊長、沖田総司。
彼は目の前のようすを見て顔をしかめる。
「斉藤さん、これはさすがに卑怯ではないんですか?
一人に対して5人で斬りかかるのは」
「何を言っているのですか。沖田君。戦闘に美学は不要です。
剣の勝負は、死闘に他なりません。それに相手は田中さんです。
油断できる相手ではありません」
「ですが・・・あまりにも・・・」
「沖田君は優しいですね。しかし、現実は非情ですよ。
裏切り者はどうやっても粛清しなければ、隊の規律が失われます。
規律の欠如は隊の崩壊を意味します。
ですよね、吉村さん?」
吉村と呼ばれた男。
本名、吉村貴一郎。
ひょうひょうとした雰囲気。
隊長服を着た中で一番歳上の男。
沖田、斉藤、田中と同じく。
新撰組にいる7人の撃剣師範の一人で、新撰組最強と言われる男の一人。
「斉藤君。私には分かりません。ですが、このような事は好きではありませんな」
「吉村さん、約束の報酬は払います。私の報酬の一部をお譲りします」
「そうですか。斉藤君、ありがとうございます。
では、よろしくお願いします。お金がいりようですので」
「吉村さんは家族想いですね。故郷の妻子もさぞお喜びでしょう。
新撰組で得た収入を、毎月律儀に仕送りしているようですから」
「はははっ。夫の務めですよ。
若い斉藤君や沖田君には分からないかもしれませんが」
「斉藤さん、吉村さん・・・・今はそのような話をしている時では・・・」
世間話をする二人の雰囲気を。
沖田は戸惑った表情で見つめる。
今の状況に納得がいっていないようだ。
カキン カキン
話し合っている三人の前では。
複数の隊士が田中と剣を交えている。
隙をついては、田中の後ろから剣撃を与えているのだ。
しかし、傷一つ与えられていない。
田中の見えない剣が全ての斬撃を防ぐ。
隊士は交代で田中を追い詰めていくが。
「ぎゃあああっ!」
「うぐあああああっ!」
二人の隊士が田中に斬り捨てられる。
すぐに隊士が二人、犠牲者を後ろに運ぶが・・・
完全に事切れている。
二人死亡したのだ。
「おやおや、さすが田中さん。この人数差で隊士を屠るとは。
妖剣は健在ですね。
ですが、いつまで続けられますかな」
斉藤が指示を出すと。
代わりの隊士が田中を囲む。
臆することなく田中に向って剣を振るう。
カキン カキン
再び戦闘が続く。
暫く経った頃。
田中が息を荒くし始めた頃。
「ではっ、そろそろ仕留めますか。いくら人数差があっても、相手は田中さん。
隊士では荷が重いでしょう。田中さんの剣を突破はできません。
いたずらに被害者は増やしたくありませんし。
既に6人やられていますからね。
沖田君、勿論手伝ってくれますね?」
「・・・・はい。僕も新撰組の隊長です」
「吉村さんもお願いします」
「やれやれ、このようなことは好きではないのですがね」
「隊士の務めです。それに先程の報酬の件、お忘れなく。手を抜かないで下さいよ」
「分かっていますよ。では、報酬分は働きましょうか」
「隊士の皆さん。ご苦労様です。下がってください。後は私達が仕留めます」
斉藤の声に反応し、ザザッと隊士が後ろに下がる。
斉藤、沖田、吉村。
新撰組きっての剣客。
3人の撃剣師範が、3方から田中を囲んだ。
田中の死期は、刻一刻と近づいていた。