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鍋焼きうどん

作者: つちぐり

 高校時代の友人からメールが届いた、内容は格安でチケットが取れたから、受験のストレス解消もかねてスキー旅行に二泊三日で行こうという話だった。友人からは浪人の疲労を労ってやろうという思いがあったのだろう、少し悩んだがセンターもまずまずだったし、せっかくなら行こうと思い電話した。

 「もしもし、スキー旅行だけど行こうと思う。いくらぐらいかかる」

 「チケットだけなら二万ほどだが、板借りたり、リフト券もあるから最低でも四、五万ってとこか」

 確か高校の時に貯めていた金がまだあったはずだそれを使おう

 「わかった、それじゃあまたな」

 

 電話を終えた俺は母親に再来週からスキー旅行に行く旨を伝えたが、母がいきなり「試験が近いけど大丈夫なの、浪人生なんだから勉強したほうがいい」なんて言うもんだから、少し苛立ってしまい。

 「どうせ母さんには俺の苦労なんか分からないんだから、黙ってて、俺だってたまには息抜きがしたいんだ」

 と言ったすると母は、

 「人生は一度しかないから、後悔しないようにしたほうがいいわ」

 またそれか、いつも耳にタコができるぐらい聞かされている文句にうんざりして、

 「一度しかないんだったら、遊んだって俺の勝手だろ」

 少し強めに言った、そう言われた母はそう、とだけつぶやいて台所へ向かった。自分の部屋に戻ったが、妙に胸がつっかえてなかなか勉強がはかどらない。腹がすいていからかと思って台所に行こうと思ったら、

妹が鍋焼きうどんを持ってきてくれた。礼を言うと妹はただ母さんが作ったのよ、とだけ言って自室に入って行った。俺はただじっと湯気を上げる鍋焼きうどんを見ていた、ただの鍋焼きうどんなのにふと急に懐かしさを感じた。いつだったか今日みたいな寒い日に鍋焼きうどんを食べたような、そうあれは確か、、、


 我が家には父親がいない、俺がまだ十歳のころ病気で急に倒れてそれっきりだ。最後に家族そろっていった神社をまだ覚えている。父が死んでからの母は強かった、最初は泣き腫らす日も多く、いつも目の下はこすった後で腫れていたが。四十九日が終わるころにはいつもみたいに笑っていた、だけどたまに夜中に目が覚めて階下の台所に水でも飲みに行こうと思ったら、母が一人泣いていたりした。しかしそんな母の頑張りとは裏腹に、俺は小学校になかなかなじめず問題をよく起こしていた、そのたび母が学校まで来て謝っていた。自分はどうしても父がいないことをなじられることが嫌だったから、そのたびに手を出していた。今思えば苦労を掛けたと思う。


 鍋焼きうどんは熱そうなままだった。


 母はよく酔っぱらうと、自分は本当は大学に行きたかったのに、祖母が女に学歴はいらないと主張したため行きたい大学に行けなかったことを悔やんでいるということを言っていた。それもあったからか母は俺に中学受験を進めてきた、環境を変えたかったし、ろくに知識もなかった俺は二つ返事で受験することを決めた。

 しかし中学受験というものは想像より断然厳しいものだった、六年生の最後の追い込みの時、きちんとした食事をとっていなかったので俺は夜食を食べることが多かった、たいていはおにぎりやカップ麺だったが、たまに母が手の込んだ夜食を作ってくれることもあった。


 「勉強頑張ってるのね、夜食作ったから」

 「今夜は、うわぁ鍋焼きうどんだ嬉しいなぁ、ありがとう」

 「最近栄養が偏ってたからお野菜をしっかりとれるように作ったの」

 母は少し改まって、

 「母さんはあなたの勉強を教えてあげられないし、何をやってるかもわからないし、こんなことしかしてあげられない。ただね、どんな時もあなたのことを一番応援してる、それだけは間違いないのよ」

 鍋焼きうどんおいしかったなぁ。



 ―――少し寝てしまったようだ、時計はもう深夜二時を指している。昔を思い出すうちに居眠りしたのだろうか、それにしてもまたずいぶん懐かしい記憶だった。もう一度ドアのそばの鍋焼きうどんを見た、もうすっかり冷めてしまったのか湯気は立っていない。しかし俺はどんぶりの下に紙が挟まっているのを見つけた、開くとそこには。

 母さんの気持ちはいつまでも変わらないものよ

 とだけ書かれていたのだった。


 鍋焼きうどんを食べた、まだそれは温かった。しかし母さんは失敗したようだ、まったく塩が多すぎる。しょっぱいなぁ、風邪でも引いたかな鼻水が止まらない、目の前の景色が歪んで見えた。


 もはやびちょびちょになって文字も読めない紙を机の引き出しにしまった後、自然と参考書を開いていた。

 「まだ間に合うかな」

 ひとりでに呟くと

 「きっと大丈夫よ、応援してる」

 そう聞こえた気がした



 母の誕生日が近いことを思いだした、なぜ忘れていたんだろうか。それより誕生日プレゼントどうしようか。まぁ幸いにも四、五万余っていたからちょうどいいか、最近減ったと言っていたし口紅でも買おう。


 

ここまで読んでいただきありがとうございます。

この話は不器用な息子とそれを陰で見守る母親の話です。

主人公は母さんと母を混ぜていますが母のほうがよりきゃかん的視点のイメージです。

よろしければ悪かった点などご指摘ください。

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