1/6
序章 語り手の挨拶
俺の名は蔵橋正孝。ある地方に存在する警察署『紗霧井町紺戸署』に勤める、一介の刑事だ。
四十半ばにして、階級は巡査部長止まり。ノンキャリアで出世コースとは縁遠い人生を送ってきた。だが、検挙率は署内でナンバーワンという非常に名誉ある功績を持っており、周囲からは一目置かれていたりする。
……ただしそれは、俺だけの手柄ではなく、ある男と組んでいるからこそ得られたものなのだが。
「蔵橋、蔵橋、蔵橋」
ああ今日も、俺の名を呼ぶ声がする。俺の相方……じゃなかった。俺とコンビを組む、相棒であり名探偵でもある彼の声が。
今日は一体、色々な意味で何をやらかしてくれるのだろうか……。