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「んじゃ大平はここらでまっててくれ」
「はいよ」
滝川に連れられて実行委員のテントに着いた俺は早速手持ち無沙汰になってしまった。他のサークルよりも目立つ大掛かりなそれは、ステージに一体化するように併設されていて、テントなんて呼ぶにはちょっと適さないかもしれないが。滝川は実行委員長に話を通してくるだなんだで実行委員の波をかき分けて行ってしまった。
「ふう」
やっぱり慣れない場所ってのは、いるだけで疲れるな。祭りごとなんてどれくらいぶりだ。いや、天皇賞とかも人によっては祭りといってもいいのかもしれんな。ならそんなに長い期間でもないな。
少しテントから離れて全体像を見渡してみる。
「この実行委員のテント初めて見たけどクッソでかいな。どっから予算が出てるんだ」
――なにを隠そうこの俺は学園祭とやらに一度も参加したことはない。 まぁ夏祭り、クリスマス、バレンタインことあるイベントごとにたいして縁がないのだから、仕方がない。この学園祭だって例に漏れず、きゃっきゃうふふするような相手なんかいるわけもないので、毎年新聞を見ながらラジオでレースを観戦するのである。しかもこういう他の奴が浮かれてる時は俺の脳が活性化するのか知らんがすこぶる予想の調子がいい。去年もお世話になりました、ああ、浮かれてる奴らに感謝、感謝。
近くの木陰へと腰掛ける。汗を撫でる風が気持ちいい。今日は季節柄そんなに暑くないはずなのだが、学生たちのやる気が乗り移ったのか太陽もやる気十分である。今からテントを立てる俺の身にもなって欲しいものだ。
んー。実行委員ってこんなにいるのか。200、300、いやもっとかね。この祭り――大学が何校か、高校が何校か、中学小学まで、総勢4,50の学校とその他が密集したこの場所で全体が一同に会するこの祭りは、流石このあたりじゃ知らない人がいない学園祭だわ。空にはバルーン――デパートの広告を揚げたりする――が飛んでいて、でかでかと「参加した誰もが幸せになるフェスティバル! 」なんて文字が書いてある。あれだけでかいバルーンならこの都市のすべての人が見えるんじゃないか。なんて考えても、結局行き着くところは金であって。
「あんなでかいバルーン飛ばすだけでいくらかかるんだろうな。この祭り自体知らない奴がいないだろうし流石に無駄なんじゃないか?だったら恵まれない学生のためにだな――」
おーい、大平ー、どこやー。
滝川の声に呼ばれて現実に戻る。やっと帰ってきたのか。というか大きな声で呼ぶな、迷子の子供を捜してるみたいで恥ずかしいだろ。木を支え代わりにして立ち上がる。
「ああ、こっちだこっち」
滝川がこっちを振り向く。なんで少しびっくりしてんだ、さてはこいつ――
「おお、大平帰ってなかったんか、姿が見えんからてっきり。まぁそれはええわ、手伝ってくれるこ連れてきたでー」
やはり帰ったと思ってたのか。確かに日ごろの行い的に心当たりがないわけではないが腹が立つな。金が絡んだ俺の心の強さをなめてもらっちゃ困るぜ。
滝川の後ろには実行委員思しき人が二人いた。
俺はどうも、と軽く会釈すると組み立てるテントの方へと歩き出そうとした。
まぁ皆まで言わなくてもわかると思うが、実行委員の二人が学園で1,2を争う美少女とかそんなわけもなく、これぞ体育会系って言うマッチョな兄ちゃん二人組みでした。
せやな、テント立てるんだもんな。
「どうした大平。あ、もしかして可愛い女の子でも来ると思ったか。なわけないやろ、テント立てるんやで、テント。もしかしたらやけど、なんか知らんが当たったとか当たらんかったとかで、」
「おい、当たったってなんだ。もしや昨日の万馬券でも当てて実行委員会にも来ずに遊び呆けてるクソ野郎がいるのか。かぁー、学生の本分がわかってねえな。学生って言うのはな、汗水流して働くもんだろ。違うか滝沢。」
だんだん熱くなる俺の言葉尻を捉えたのか滝川はどーどーと言いながらなだめてくる。あとどーどーってなんだ、俺は動物か何かか。
「ちゃうちゃう。馬券とかそういういいもんちゃうって。通学中に車に当てられただかなんだかで来れんくなったやつがおるんやってよ。 それで委員会はてんてこまいになとってな、俺は流れる人の波をかいくぐってだなぁ」
なんだ、馬券じゃないか。焦ったぜ。あの馬の流れが読める奴はなかなかいないだろうしな。なーに俺だってあと少しあの馬が伸びていればだな。
「聞いてるか、大平。あと、汗水流して働くのには賛成やけど、お前それめっちゃブーメランやで」
せやな。
俺と滝沢そしてものゴッツイにーちゃん2人はテントを建てに行くために歩き出す。
木陰から出た後のグランドはさっきよりもずっと暑苦しかった。
さて、テントを立てようと思ったらテントが立っていた。
いや、テント立てるんだよ、テント。力いるだろうなって思うじゃん?力むから、先お手洗いすましとこうと思うじゃん?にーちゃん達も、ういっすって笑顔で送り出してくれるのよ。で、トイレに寄ろうとして、そしたら急いでるっぽい奴にぶつかって、すいませんって言われたからまあいいかってなったんだけど、そいつがペンダント?みたいなの落としたから声かけようとしたんだけどめっちゃはえーのよ、そいつ。まぁ後で落し物に届けるかってなって、 本題済ませて設置場所に行ったわけよ、ここまでは問題ないだろ。この間60秒ぐらいかね。そして、トイレから出たら、わーお。テントが立ってるわけ。なんだこれ。
「おい滝川。テント立ってるじゃねえか」
「そうみたいやな」
「そうみたいやな、じゃねーよ!どうやって立てたんだよ」
「いやなぁ、話せば長くなるんやけど…」
話せば長くなるなにも60秒ぐらいの出来事なんですけど。
「それがな、にーちゃん達がいけるかな、みたいな話してな、でもちょっときついかって俯いたあとな、試しにやってみるかって、いっせーのってやったらな、できた」
「終わりかよ!短けーよ!いや、俺のいなかった60秒ぴったり相応くらいだよ!」
どうやらテントは上手くやれば二人でも立つ らしい。ちっちゃい子とフツメンは絶対真似しちゃダメだぞ。
「まあそういうことや滝川。次の仕事に移るでなー、次はやなぁ…」
「はいよ」
まぁそんなこんなで俺の一日目は幕を閉じた。財布があったかいぜ