1R - 1
世界は不運に満ちている。
日本に生まれた俺に不幸なんて暗黒大陸とか内戦まみれの中東あたりの人からしたら笑われるようなことかもしれない。
けどやっぱり、幸運なんて相対的なものでしかない。俺はこの週末それを酷に味わっているように感じる。
簡単な話、この大学一のゴミクズを自称する俺は競馬ですっからかんになって帰省できないのである。
先々週俺は妹になんといったのだったのだろうか、確か妹の誕生日だから誕生日プレゼント持っていくとか、ケーキ持って行くとかそんな景気のいいことを言っていた気がする。
事実、先々週は本当に金があったのだ。その後、飲み会やら先週の負け分やらであっという間に俺の金はJRA銀行に入金されてしまった。
あの銀行は振り込むのは土日いつでもできるが、中々引き出すことができない銀行である。
何を言っても金はないし、何を言ったって変わらないが、俺がゴミクズであることには変わりないだろう。
幸いにも今日は三連休の初日だ。なんか大学はそれに合わして文化祭を行っているらしい。
確か、研究室の友人が出店を出すのでバイトをしないかとか言っていた気がするから土曜はそのバイト、日曜に倍に増やす。
そんでその金でプレゼントとケーキを勝って帰省。完璧である。一部の隙もないように感じる。妹の誕生日が月曜日というのもこの日程を俺に組めと言わんばかりだ。
とりあえず、友人にLINEでバイトをする旨を伝えてパスタでも茹でることにする。
パスタに塩だけかけて食べるという、ペペロンチーノもビックリの絶望のパスタをすすっていると友人から返信が合った。
『おっけー、うちらの出店図書館の前あたりだから来てくれる?』
速攻で向かうと返信をする。
よし、バイトはどうにかなりそうだ。これで人もういっぱいだから無理~とか言われてたら俺の完璧な計画が崩れるところだった。
こいつには日頃から過去問だので世話になってるからな、今回のことと言い足を向けて寝られなくなってきた気がする。
絶望のパスタ(真)を食い終わった俺は水道水をがぶ飲みしてから図書館に向かうことにした。
うちの大学は結構広い、寮生である俺は大学に住んでいるようなもんだが大学は知らん場所ばかりである。
だが図書館は別である。理系学生の俺はレポートや論文、課題と言ったモノから逃れることができない宿命を背負っているのだ。
それになんといっても図書館には新聞コーナーがある。新聞コーナーにはスポーツ新聞がある。スポーツ新聞には競馬予想が載っている。
つまるところ俺にとって図書館は自宅、研究室につぐ第三の居場所と言っていいだろう。第三の場所……、税金が安そうな名前である。
図書館行くまでの道程にはテントを立てている集団やら、ダンスの練習?みたいな謎の集団行動を行っている奴。
なんか腕章みたいなのを付けて忙しそうに動きまわってる実行委員らしき人たちと、まさに文化祭の準備日という雰囲気をかもし出している。
こう文化祭を肌に感じる?ような気分になると気持ちが沈んでくる。ホントなら今頃は帰省の電車に乗っているはずだったのだ。
文化祭なんてイベントより、家族をとる俺かっこ良すぎやろみたいなこと先週は友人に言ってた気がしたのでますます俺の気分は沈んでいく。
そんなこんなでアホなことを考えてる間にも図書館前についてしまった。
「おっす大平助かったわ。テントやらボンベやらうち一人で運べへんしどうしよかと思っててん」
「ホントは来ない予定だったんだけどな、帰省する金がなかった」
図書館の前に友人こと滝川はつったっていた。大学に入って4年目なのにこいつは関西弁が抜けていない。
むしろ俺に関西弁が移っている疑惑まである。俺は生粋の共通語使いを自負している以上関西弁に負けるわけにはいかへんのである。
とりあえず、バラバラパーツになっているテントを立てることにする。
「テントのパーツも滝川が一人でここまで運んできたのか?」
「そんなわけあらへん、あのな女一人でこれ運べるわけないやろ。実行委員が先にテントの位置に持ってきてくれてたんや」
「そうか、おお軍手もあるじゃん用意いいな実行委員」
「その軍手は研究室からパクって来たやつや、てかあんた妹の誕生日は良かったんか? 先週学校はのイベントより家族を選ぶ俺カッコイイとか言うてたやろ」
「きくな、今の俺はバイト戦士だ」
滝川との会話を強制終了し、俺は黙々とテントのパーツを並べて組み立てて行く。組み立てて行くうちに分かったがこのテントどう見ても二人では持ちあげれないので立てることができないだろう。
「おい滝川、これ二人で立てるの無理だろ。他の奴は来ないのか?」
「残念ながら、研究室の面々はスキーやら他のサークルやらでドタキャンしてもうた」
「分かった。実行委員様に頼み込むしかないってことだな」
「そやね」
どうも滝川には俺以外の人間を集める人望が無かったらしい、とりあえず実行委員が物品の貸出やらをしているテントの方へ俺たちは行くことにした。