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魔王ができる3つの方法  作者: かずあ
聖域の森浅層編
6/8

魔王のマ!その6


―――

――



 「あんた――たんだ」



 「そりゃ俺の夢だからな」



 「夢?―――ないかもね!」



 「お前がその第一歩でも俺は構わないけど」



 「―――――!!」



 「まぁまぁ、冗談だろ?」



 「――もっ、そんなんだから―――」



 「………」


 「あはっ、――――!」



 「…わかったから、わかった」



 「―――――――!」




――

―――




 <う…どうしたの?>


 少し強めにゼリーを握ってしまったようだ。出来れば夢は見たくないんだけどな。


 「いや、なんでもないよ。おはようジル」


 <…ん!おはようコータ!>


 ジルと軽く挨拶を交わして、毛布を退かす。まだ身体はだるいけど、気にするほどでもない。



 毒草の類が欲しいから、今日は採取依頼でもやってみようかな。幸い鑑定もあることだし、間違えることもないだろう。



 「今日は採取依頼をしようと思うんだけど、どう?」


 <どうって、いいんじゃない?別に>



 ジルの了承も得たことだし、さっそくギルドへ向かうとしよう。


 ポーチを装備すると、ジルを右肩へ。軋む扉を開けて外へと出る。

 途中屋台で、美味しそうな肉串を売っていたので、朝飯代わりに5つ。3つが俺で、2つがジルだ。仲良く分けながら食べていると、昨日見ていた武器屋が目に入った。



 (そういえば武器らしい武器持ってないんだよな。コレは形だけみたいなもんだしな)


 そろそろ剣とか買ってもいいとは思うけど、剣術なんて知らないし剣道でだって成績は下の上。そんな俺がうまく扱えるとは思わない。ゲンツの時は、足をかけて隙だらけの背中に一撃入れただけだ、あれなら誰にでも出来る。


 スローイングナイフとか買っておくか、遠距離用に。練習しないとなぁ。


 目に入った使い捨て用のスローイングナイフを5本、ホルダーはおまけしてもらった。


 「毎度ありぃ!またの御越しを!」


 店主の声を尻目に太ももに付いてるホルダーを見る。


 これ中々様になってるんじゃね?スッと取り出してビュッ!みたいな。



 俺が頭の中で敵を想定して、ポーズを決めていると、周りの人に見向きすらされなくなった。バケモノを通り越して無ですか。


 <コータが変なことしてるからよ>


 ついにはジルにまでこんなことを言われる始末。どうやら俺に癒しはないようだ。


 人目を避けながら走ること数分、ギルドの看板が見えてきた。このまま入ろうかと思った矢先、入口近くにゲンツ等が居るのを確認した。



 (面倒な事にならなければいいけど…)


 斧の奴が気づいたようだ。ゲンツの肩を叩きこちらに指をさしてくる。人に指をさしちゃいけません、って教わらなかったのか。


 が、どうやら違うようだ。向きは俺だが俺の後ろ、絶世のイケメンに注がれている。


 なんだこの神々しさ…後ろに居たのに気付かなかっただと…。


 <ほわぁ…かっこいいねー>


 …俺の癒しは完璧に潰えた。目的が俺じゃないのなら話は早い、脇をサササッと通りギルドへ入る。とんだ面食いスライムだな。イケメンがなんだっつーの。



 適当に青銅の掲示板から採取の依頼を剥がす。バラカとゼルーを東の森から10株づつ採ってきてとお手頃だ。



 行くか。

 悔しくはあるが生涯付き合っていく顔だ、こんなの今に始まった事じゃない。受付の人にお金を握らせ、東の森の場所を聞くと、気づかれない様にギルドから出る。


 どうやら東の森は俺がサバイバルしていた所らしい。あの時くぐった門が見えてくると、あの事を思い出した。


 (ホモなお兄さんがいる…!)



 堂々と出て行くべきか、こそこそと出て行くべきか。モタモタしていたら気づかれてしまうかもしれない。ここは堂々とだ!


「そこの奴、止まりなさい」


 はい、お兄さんにつかまりました。お、俺をどうする気なんですか…


 「なんですか?これから依頼なんですけど」



 大事なものも失いたくないので、話を早めに終わらそうとする。


 「それはすまなかったな、気を付けて行くんだぞ」


 あれ?案外いい人?チョロイ人?すんなり通してくれたことに違和感を覚えるのは、いけないことだろうか?いや、正常だ。また俺の尻を見ている。


 とりあえずと、森へと入っていく。


 やっぱし木の背が高いな。町の宿から余裕で見えてたもんな。ここでサバイバルをしていたとなると、感慨深いモノがこみ上げてくる。


 辺りに生えているバラカやゼルーを手当たり次第にぶっこ抜き、土を落としてポーチの中へと入れて行く。この様子じゃ思ったより時間かかりそうにないな。昼ちょっと過ぎくらいには帰れそうだ。


 <…なんか機嫌わるい?>


 そんな事はないと言いたいけど、事実ちょっと悪い。

 小さいことでこんなになるなんて情けないし、こういう所直さないとな。


 「んや、そんなこと無いぞ?」


 そう言って撫でてやる。ごめんな。


 <…ん、ならいい>


 すると撫でている腕にすりすりとしてきた。


 さて。


 (ちょっと時間つぶしていくか)



 途中生えていたセリリを非常食として取っておく。ノキアも忘れずにな。



 どんどん奥へと進んでいくと右手に洞窟が見えてきた。何かあるかと近づいてみると、手前にこんなものが落ちていた。


  名:バリ

 種族:鉱石

 状態:帯電68%

 説明:静電気などを溜めておける鉱石。その量は大きさに比例して上がる。砕けると帯電させていた電気が魔素を伝い、辺りに漏れ出す。



 ほえーこんなんがねー。見た目ただの拳より大きめの石。見る人からすると違いがわかるのだろうか?


 知らないアイテムがあるのは嬉しい情報だ。このまま中に入り探索を実行する!


 「こちらサイトーウ、応答願う」


 <なにやってるのよ…>


 ジルが呆れている。こういうのは気分が大切だ。先ほど拾ったバリをトランシーバーに見立て、喋っていると、奥の方で微かに音がした。


 さっと剣を構えバリを仕舞うと、足音を立てずに進んでいく。


 (なんだ…?)


 茶色い物体が見えてきたところで足を止め、鑑定を使う。


  名:バッフィー

 種族:獣

 状態:睡眠100%

 説明:よく食用として狩られるモンスター。その肉は癖が無く、どんな調理をしても大丈夫な為幅広く使われる。戦闘能力は低いが、そのツメから繰り出される引っ掻き攻撃は侮りがたし。



 あのくそったれな宿で食った料理の元か。まぁ金にはなるだろ。


 奥へ進もうと足を動かしそうになるが寸でで止めた。


 (まだ何かいる)


 よーく目を凝らすとその物体が姿を現した。眠ってはいるが野生の動物、音を立てようものならすぐに起きだすだろう。



 体長2~3m位狐と犬を足して2で割った見たいな顔に、犬歯がサーベルタイガーの様に飛び出している。


  名:シルファング

 種類:獣

 状態:睡眠50% 警戒

 説明:バッフィーと似た姿からは想像もできない早さで、そのツメ、キバの餌食となるだろう。光る物が好きでついつい咥えてしまうのが弱点。出遭ったら銀貨を投げろ、金で命は代えられる。毛皮が高級品として市に出される。バッフィーと似ているためよく托卵される。



 …逃げよう。俺はまだ死にたくない。


「逃げるぞジル」


 <そうね…流石に相手が悪いわ。この森でもカーストで言ったら上から数えた方が早いし>


 ソロリソロリとその場を後にする。いやーしかし危なかった。バッフィーだけだと思って走り出す所だった。もし目がよくなかったらあそこでお陀仏だったな。



 出口が見え気が緩んだ時、足元にあった石を蹴ってしまった。カキーンといい音を打ち鳴らし転がるそれを確認した途端、走り出す。



 (っべぇ!っべぇ!)


 洞窟の奥の方ではすでに何かが動き出している。出口までは残り5m程だが、もうすでに後ろ20mの所で音がする。


 <まずいよ!追いつかれる!>


 逃げ切れそうもない、剣を構えケルスを握って振り返るとシルファングがそこに居た。

 もう財布から金を取り出す時間などない、今はどうやって生き残るかだ。


 シルファングはぐるるる、と低いうなり声を出し、何時でも飛びかかれる体制だ。少し、ほんの少しでも動けばその鋭いキバで喉を…。


 (大丈夫、大丈夫、やらなきゃいけないことあるだろ!それが終わるまで死ねないだろ!)


 「っし」


 覚悟を決め、少し息を吐く。その時点でシルファングは飛んでおり、辛うじてケルスを持った手を前へ突き出す。


 すると、ボキッとなにか硬いものを折った感触が伝わって、その数秒後、シルファングの鳴き声とカローンという軽い音が洞窟内にこだまする。



 (牙が折れたのか!僥倖僥倖)



 シルファングの方を伺うと根元からポッキリ折れているようで、口内が丸見えだった。あの大きさなら腕一本入りそうだな。


 <やるじゃない!>


 偶然だったけど、これでいくらか楽になるか。

 

 意図しない攻撃に警戒を強めたのか、低い姿勢のまま円を描くように移動し始めるシルファング。


 俺はケルスを仕舞、先ほど手に入れたノキアを取り出す。


 隙を見せない様に、俺もシルファングにならって動いていく。どれほど経っただろうか、向うが痺れを切らし飛びかかってきた。


 (怖がるな、大丈夫。良く見ろよ、よーく、よーく見ろ。握った手は右か?左か?)


 周りの時間がスローになる。その中で俺は、ノキアを握った手でキバの無い口の中へ腕を突っ込む!


 (怖くない、大丈夫。噛まれないって)


 うまく入ったようで、ぬるりとした感触が腕を伝う。うかうかしてはいられない。握ったノキアをさらに強く握り、ノキアの汁を絞り出す。

 シルファングは口の中へ腕を入れられたことに対して、もう一度口を開き腕を噛みちぎろうとしてくる。が、遅い。すでに俺の腕は口の外だ。


 脳内麻薬がドバドバ出ているのか、今の俺はハイテンションでなんでも出来るような感覚がしてくる。


 バックステップで距離を取ると、向うもそれに合わせた様に後ろに下がる。よかったぁ…そのまままた飛びかかられなくて。


 ま、これでミッション完了だな。しばらくすれば毒にやられて動けなくなるだろう。



 少し様子を見てみたが一向に倒れる気配が無い。これは効いてないのか?と思い、剣を構え直した頃やっとシルファングの身体が傾き始めた。



 「っはーぁ…」


 <ふふ、コータって意外と度胸あるのね>


 「意外とってなんだ意外とって、それに少しくらいは手伝ってくれたっていいだろ?」


 <危なそうになったらそうするつもりだったわ>


 まったくもう…

 肺から重苦しい息を吐き出して一息つく。シルファングは床でぴくぴくしている。


 (殺すか殺さないかだなぁ)


 未だに生き物を手にかける事を躊躇っている。これではいけないんだろうけど…


 「まぁいいか…食べるわけでも無いんだし、向こうからしてみたら不法侵入者を襲っただけだしな」


 <…甘いのね。だけど、それがコータのいいところ。危なかったらフォローするわ>


 ありがたい。

 ジルを一撫ですると、痺れてビクビクしているシルファングを横目に洞窟を出る。折れた牙は何かに使えると思って拾っておいた。


 いい時間なのでもう帰ろう。日はすでに頂点より少し下、もう数時間もすれば暗闇になる。

 ポーチの中にゼルーとバラカが個数分あるのを確認して、来た道を引き返していく。


 途中少し迷ったが、基本真っ直ぐ歩いていたのですぐに門が見えてきた。くったくたなので一っ風呂浴びたいとこだが、あいにくこっちの風呂はまだ見たことが無い。無い…とは思いたくないので、いつか実現しようと心に誓う。


 「やぁ、大丈夫だったかね?」


 このお兄さんは何時もここにいるのだろうか?森に用があると、必ず出会わなければいけないみたいだ。


 「はい、大丈夫ですよ。これから完了の有無を伝えに行くところです」


 「それはよかった、では」



 行商人らしき人が向かってきたので、お兄さんの注意がそちらに逸れた。グッジョブ商人さん。


 ギルドを目指すために人通りの多い道をささーっと走り抜けると、途中あの神々しいイケメンが綺麗なお姉さんに囲まれていた。


 走るのをやめ、とぼとぼと歩く。格差を見せられた…。


 <やっぱりあんなにカッコいいと、モテモテね>


 へーへー、そうでやんすね。


 「羨ましい限りですよ」


 <もう、そんな卑屈にならないの。コータだってかっこいいわよ?>


 お世辞かそれは。

 神々しいやつの後に言われても慰めにならんわ。


 さくっと草を納品して、報酬を受け取る。


 「腹減ったなーなに食べたい?」


 <わたしは雑食だからなんでもいいわよ?>


 知っているが気分的なやつだ。


 結局昨日のサンドイッチを買ってしまった。

 美味。


 それからは公共で利用しているという井戸の近くに行き、服やら体やらを洗った。

 脇道にあり、人気がない時を狙ったので問題はない。




 そうして宿屋に戻ると、明日はなにをしようかと考える。


 目標はもうあるとして、他の具体的な案がないなぁ。

 …強くなるとか?うーん抽象的すぎるなぁ。


 ま、明日また考えるか。

 バフッとベットに横になると、枕元にジルが来た。


 <んふふ…>


 なんか機嫌いい。なんでだろう。


 「……?おやすみジル」


 <はーいおやすみっ>


 ホントこれからどうしようかなぁ。






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