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綺麗な妖精にはトゲがある  作者: 水無月夜行
第二章 「百鬼」
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どういたしまして


第二章「百鬼」






「あっ。夜行おはよう」

 そう言って朝の挨拶をしたのはヘヴンだった。しかしそのあいさつを聞いたのは夜行ではなかった。

「……? 百鬼?」

「あぁ」

 気怠い声が響く。百鬼は起きると長い髪をかきあげてメガネをかける。

「どうして百鬼なのよ?」

 ヘヴンは不機嫌丸出しで呟いた。

「俺も反対したんだがな。今日一日俺が表に出ることになった。困ったやつだ。俺は外の世界に興味はないんだが」

 ため息をつき起き上がる。

「学校行くの?」

「行く」

「行ったことあるの?」

「……何回か」

「大丈夫なの?」

「何が?」

「他の人にバレないの?」

「まぁ大丈夫だろ。『何があっても構わない。自由にしてよ』と夜行が言っていたし。まぁ言っても別に何をするわけでもないんだがな」

 そう言い百鬼はぐっと伸びをした。

 いつもの夜行とはまるで違う。身体は夜行なのに人格が変わると、こうまで顔つきや雰囲気が変わるものなのかと思うほどに。

「じゃあ夜行に会えるのは明日~? えぇぇぇえええええ。長いいいいいいいい」

 ヘヴンはがっくりとうなだれた。

「明日お前からも夜行に言ってやれ。こんなことするなってな」

「……言える訳ないじゃない。夜行の気持ちをないがしろになんて出来ない」

「同意する」

 二人は夜行の事を思いため息をつく。

「あいついつからこんな頑固になったのやら。おそらくお前の影響だな」

「アタシ?」

「そうだ。夜行はお前と出会ってから随分と明るくなったし、ものをハッキリ言う様になった。それは嬉しいことなんだが……いかんせん方向が悪いな」

「それでも夜行のこと大切に思ってるんでしょ?」

「当たり前だ」

 百鬼は即答した。

 自分を創ってくれた夜行。自分の為にこうして表に出させてくれる夜行。どれもありがたい。でも自分の幸せは夜行の幸せであり、自分の幸せではないのだ。そこも夜行自身は理解してくれている。それでも夜行は二人で一人だと言ってくれる。なら自分はそれに応えるしかない。全力で。全身全霊を賭けて。それが二人の幸せに繋がると信じて。

 百鬼は制服を着て家を出た。

 いつも夜行が歩く道。そして青井公園に入る。ここで夜行はヘヴンと出会い変わった。全てここから始まったのだ。そんな事を思いながら百鬼は公園を歩く。

 そしてあるものが目に飛び込んできた。

 それはいつしかヘヴンの本体の薔薇を切ろうとしたあの子供だった。その子供はまた手にハサミを握りしめている。そして目の前にあるのは【アサガオ】だった。

 鮮やかな赤い【アサガオ】だった。朝露に濡れ、太陽の光に照らされて輝いている。

「あの糞ガキ……また」

 百鬼は呆れ、子供に近づいて行った。子供の手のハサミが伸びる。その瞬間。

「おい。止めろ」

 百鬼が止めた。子供はびくりと身体をすくませた。

「今日は説教してやる。逃げんなよ」

 子供は【アサガオ】からハサミを退け今にも泣き出しそうな顔だった。

「いいか? むやみに植物を切るんじゃない。そいつらだって生きているんだ。それを人間の勝手な都合でその芽を摘むな。わかったか?」

 少し強い口調で言うと子供は頷き、百鬼が説教は終わりだと手を振ると逃げる様に走って行った。

「まったく」

 今日は朝から呆れる事ばかりだと思い、今日何度目か分からないため息をつく。チラリと【アサガオ】に視線をやった。

「……無事で良かったな」

 そして百鬼は再び歩きだす。

 そんな【アサガオ】を背にした時「ありがとう」と聞こえた気がした。百鬼は振り返らずに「どういたしまして」と微笑を浮かべたのだった。


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