花言葉
これが最後になります。
今まで必死になって追っていたものが一瞬で興味がなくなる。そんな経験は誰にだってあると思う。僕も実際に経験している。
前はあれほど必死になって物語を追っていたのに今ではまったく食指が動かない。その理由は明確に分かっている。
そもそもなぜ、あんなにも物語を追っていたのか。
それは自分が自分を認めてなかったんだろうと僕は思う。自分に自信がない。自分よりも他人が羨ましい。そんな暗いことばかりを考えている毎日だった。だから少しでも他人が感じた事や思った事を聞いて自分にもそれが伝わり、少しでも悦に浸りたかっただけなのかもしれない。
人間は自分にないものを妬み求める。それは深く歪でありながら簡単な答えが用意されている。自分からは難問に見えたとしても他人からは凄く簡単な問題だったりする。視点を変えて違う角度から見れば、自ずと答えは見えてくるなんて良く言うけれど僕はそうは思わなかった。視点を変えても、見ているのは自分自身なのだ。たかだが視点を変えたぐらいでは何も変わらない。それよりも他の人から見た同じ視点は全く違って見えるのだろう。
つまり人は常に自分にないものを探す。それが僕の場合は自分では経験出来ないであろう他人の物語だったのだ。
そしてそれを追いかけなくなった理由。それは今、自分が他の人に絶対に負けないぐらいの素晴らしい物語を体験しているからだ。
僕は胸を張って言える。自分だけが特別だと思うのは浅はかだと言うけれど、これだけは譲れない。実際に他にも妖精がいて僕と同じような体験をしている人がいるかもしれない。それでもと僕は思う。それでも今現在、僕が体験している物語は誰もが羨む様な物語だ。
ヘヴンと出会ったのは偶然だと思う。たまたま目に入った小さな蕾が気になっただけだ。それでもこの出会いは必然だったと僕は思いたい。いつしかヘヴンが言った様に出会うべくして出会ったのだと。
それは百鬼とアサガオも同じ事だと思う。
百鬼には昔から助けられた。辛い事があるたびに百鬼は自分を犠牲にしてまで僕を助けてくれた。そんな百鬼にも好きな人が出来た。アサガオと一緒にいると幸せそうな雰囲気が僕にも伝わってきた。ずっと続けばいいと思っていたがそれは叶わなかった。また百鬼は心に傷を負った。小さい頃から僕を助け、嫌な事は全て引き受けてくれた百鬼。感謝してもしきれないほどだ。百鬼には百鬼の物語があり僕には僕の物語がある。それはこの先ずっと忘れる事はないだろう。僕たちは二人で一人なのだから。
「なにしてるの?」
ヘブンは僕の手元のプリントをのぞき込んだ。僕はそのプリントをヘヴンに見せた。
「進路相談?それこの前、百鬼も見てたよ?そう言えば百鬼が言ってたけど夜行、何かしたいこととかあるの?」
そう聞かれ僕はホワイトボードにペンを走らせた。
『笑わない?』
「笑わない」
『僕ね……小説家になりたいんだ』
「小説家?」
ヘヴンは呟くように聞き返した。
『うん。僕ってほら、喋れないし。小説家なら喋らなくてもいいし、書ける気がするんだよね。おもしろいかどうかは別としてだけど』
「いいんじゃない? なろうよ小説家。でも物語とか考えるの難しそう……」
そう言って腕を組み顔はしかめっ面になっていった。それを見た僕は笑いをこらえて続ける。
『実は物語はもうあるんだ』
「どんなの? 聞かせてよ」
少し間を開けた。
『……それはね、青い薔薇の妖精の物語』
それを聞いたヘヴンは固まり僕を見た。それに僕は笑顔で答えた。
『僕たちが主人公だよヘヴン。僕たちの事を書くんだ。そうすれば……」
僕は少しためらいながらも意を決して文字を書いた。
『そうすれば僕たちはずっと物語の中で一緒にいられる。書物としてこの世に残るんだ。どちらかが先にいなくなっても僕たちは消えない。未来永劫ずっと一緒だよ』
もちろん百鬼とアサガオも。と書いた紙を見せるとヘヴンはとても嫌そうな顔をした。
「そこは二人っきりでいいのに」
『ダメだよ。僕たちは二人で一人なんだから』
それにそれが僕の考えた百鬼への恩返しだ。アサガオとの思い出を本の中に封じ込め、それもまたこの世に残す。決して忘れる事の出来ない思い出として。それが僕に出来る唯一の恩返しだ。
「でもさ、これ読んだ人はこの物語を信じてくれるかな?」
『ん~どうだろうね? 別に信じてくれなくていいんじゃないかな? 僕たちはここにいる訳だし。それにこの物語で小説家にはなれないと思う』
「なんで?」
『これは今の僕が書く物語だからね』
意味がわかっていないらしくヘヴンは首をかしげるだけだった。
『つまり時間が経てばきっといいものが出来ると思うよ。でも今は、今の僕の知識やら表現力で書く訳で、それはきっと未熟もいいところだと思う。そして何年後かには成長できて今よりもいいものに書き直せると思うけど、僕はそれをしたくない。この物語は今の未熟な僕の作品だ。この物語はこのままでいいと思う。何年後かにこの続きを書くことがあればそれはそれでいいと思うし、でもこれは今のままでいいんだよ。未熟な僕が書くことに意味がある、とは思わないけど、この物語は確実に今の感覚であってそれを未来で付け足すことはしたくない。と思ってみたりして』
「ふ~ん。まぁ夜行がいいんならいいんだけど。未来の夜行がどう考えるのかわからないけど」
『まぁそうだね。僕たちがこの物語を忘れなければ僕はそれでいい気もするし、誰かがこれを読んで信じても信じなくて別にどっちでもいいよ。僕たちがわかっていればいい』
ヘヴンは「ま、夜行がいいならいっか」と答え、百鬼が心の中で笑った気がした。
「頑張って小説家になってね」
『大丈夫だよ。だってヘヴンがいるんだし」
その言葉にヘヴンは頷いた。
「だってアタシの花言葉は―――――」
『だってヘヴンの花言葉は―――――」
そしてヘヴンは声を、僕は文字を同時に。
「『《夢かなう》だから』」
終わり
DNAには本能が組み込まれているそうです。人間が蛇を見て恐怖するのは本能だからです。蛇は毒をもっていて噛まれれば死にます。そして過去、蛇に恐怖し近寄らなかった人間だけが生き残ったのです。だからその子孫である今現在の我々のDNAの本能に蛇は怖いという感覚があるわけです。
そして私は前にも言いましたがいつの時代も金髪が大好きです。このDNAはどこからうまれたんでしょうか?例え「金髪?ふーん・・・・・ブルーヘヴンの様な青い髪は好きじゃなんだ」とかどっかの薔薇さんに言われたって仕方がないじゃん本能なんだもん水無月夜行ですこんばんわ。
完結でございます。ここまで読んでくださってありがとうございますの極みです。
少しでも楽しんでもらえたなら嬉しいですねぇ。
この小説は一応ここで終わりですけど、その内「綺麗な妖精にはトゲがある2」を書く予定です。たぶん短いと思いますが。
ちなみに私の一押しの人はやっぱりアサガオさんですね。いやヘヴンもいいですよ?好きですよ?元気いっぱいの可愛い子もいいですけど、男はどうしても儚い感じの子に惹かれますよね?はたして「2」にはアサガオさんは登場するんでしょか。
あコメントもお待ちしてますよ。お気軽にどうぞ。それではここまでありがとうございました。
PS
これってどこからどこまでが本当で嘘だと思います?
綺麗な妖精にはトゲがある2、連載開始しました。