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綺麗な妖精にはトゲがある  作者: 水無月夜行
第四章 「病」
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夜行、嘘をつかれる


 僕は学校が終わると学校の近くにあるホームセンターに向かった。そこにならヘヴンのほしいものが手に入るだろう。

 そこのホームセンターは隣に立派な園芸コーナーがあるのだ。その規模はとても大きく、ここは植物園かジャングルかと思ってしまうほどだ。

 その園芸コーナーに入る。中は冷房などない。暑苦しく時折り吹き抜ける風すらも生ぬるい。そんな中をメモを片手に歩いて行く。

 そしてお目当ての文字が飛び込んで来た。栄養剤の文字だ。僕はそこにある商品をしらみつぶしに端から一つずつ探して行く。そして数分後。

 ない。

 ものが置いてない。いやいやそんなはずはない。ここはかなり園芸に力を入れているお店だ。それなのに探している商品全てがないなどとはありえない事だ。

 僕は見落としたと思い、また初めから今度は念入りに一つ一つ確かめていった。

 そしてまた数分後。

 ない。

 一つもなかった。これはおかしい。ありえない。今度は見落としていないと自信を持てる。もしかして字が間違えているとか? いやヘヴンがそんな間違いをするはずもない。仮にそうだとしても全部間違えるなんてことはない。

 どうしたものかと僕は頭を悩ませる。あまり使いたくはなかったが最後の手段に出る他ない。その手段とは店員さんに聞くこと。喋れない者にとってはこれが何より難しい。

 大体の人は喋るということは当たり前だと思っている。だから紙に書いてそれを見せた時の相手の表情がなんとも言えない顔になる。

 おそらくは、何で紙なんだ? どんだけシャイなの? とか思っているに違いない。

 と思っている自分が嫌いだ。

 その後、自己嫌悪に陥ってしまうことが多い。だからなるべく店員さんに聞くという事はしたくはなかったが、これではラチがあかないしヘヴンもきっと今か今かと僕の帰りを犬の様に待ちわびているだろう。

 そんな事を思えば、どんな風に見られても思われても全然平気だと思えた。そして深呼吸をして覚悟を決める。

 どの店員さんに聞こうか。まずはそれからだ。平気だとは思えてもやはり怖い。ならなるべくいい人そうな人を選んで聞くのが好ましい。

 あの人だ。

 僕は意を決して近づく。僕が選んだのは二十代後半ぐらいだと思われる、いかにも爽やかという言葉が似合っている店員さんだった。

 後ろから近づき肩を叩く。それに気がついて振り向く店員さん。そして僕はヘヴンの書いた紙を見せる。それから読み終わる直前にもう一枚。

『これはどこにありますか?』

「あ~これですね~。こちらです」

 そう言い店員さんは歩き出した。

 僕の人選は間違っていなかったと確信した。嫌な顔を全くせずに爽やかな笑顔で対応してくれた。よもやこんな人間が存在するのかと思うほどの親切心を感じる。

 その店員さんの後ろに付いて行く。

 やはり僕が先程までいたところだ。と思っていると栄養剤のコーナーの前を通り過ぎて隣のコーナーへと入って行った。

 まさか二列あったとは。と思って看板を見上げると、それを見た僕は目を丸くした。

 そこに書かれていたのは薬剤の文字だった。

「この書かれている中でオススメはこれですね~」

 そう言って固まっている僕に一本の薬剤を渡してきた。それに僕は一礼をした。

「ごゆっくり」

 そう言い残して店員さんは消えた。僕は店員さんのその背中から自分の手に握り締められている薬剤に視線を落とす。

 栄養剤じゃない? 薬剤? なぜヘヴンがそんな物を?

 その瞬間に背筋に冷たいものを感じた。急いで走り出し家に帰りヘヴンにどう言う訳か聞きたい衝動にかられるが、それを何とか押しとどめた。

 そもそもあのヘヴンが僕に嘘をついたのだ。それには何かしら理由がある。そしてその理由は簡単に思いつくものだった。だから僕は黙っていよう。ヘヴンが話してくれるまで気づかないフリをしようと決めたのだった。

 しかしそれが最悪の事態を引き起こす事になるのを、その時の僕は知らなかった。


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