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綺麗な妖精にはトゲがある  作者: 水無月夜行
第二章 「百鬼」
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そうか

 という訳でお引越し。

 家から鉢を持って来てアサガオの本体を移す。全ては上手くいき家に戻る。そこでまた喧嘩が始まる。

「その場所、譲ってもらえますか?」

「何言ってんのよ。ここはアタシの特等席なのよ」

 言いながらヘヴンはくるくると回りながらジョウロで高い位置から自分の本体である【ブルーヘヴン】に水をやっている。

「でもワタクシの方が日光が必要ですし、日光もヘヴンさんよりワタクシにあたった方が幸せかと思うんです」

「はぁ? 日光が幸せ? あんたどんだけ自分が好きなのよ」

「あら? 日光の妖精もいるかもしれませんわよ? それにワタクシの方がプロポーションもいいですし、これを維持するのには日光が必要なんですの。あなたは……必要ありませんわね」

 アサガオは腕を組み胸を上に持ち上げ強調し、ヘヴンの胸を見て勝ち誇った顔をした。

「こ……この……言わせておけば……」

 確かに二人の差は明らかである。ヘヴンはぺったんこと言う訳ではない。アサガオが大きすぎるのだ。浴衣を着ていても分かるほどの良いものを持っている。ヘヴンにとっては面白くないだろう。そしてそれはヘヴンの逆鱗だった。

 爆発する瞬間。

「そこまで」

 百鬼が間に割って入った。

「二人とも止めろ」

「はいな」

 アサガオは直ぐに返事をし、今までの毒はどこへやら。ニコニコ顔に戻っていた。

 一方ヘヴンは拳を握り締めプルプルと震えている。これは自分では手に負えないと思った百鬼は夜行へとかわる。夜行はヘヴンをなだめ、ようやくその怒りがおさまった。これはなんとかしないといけないと夜行は強く思った瞬間だった。




 夏休みのある日、突然ヘヴンが言い出した。

「遊園地に行ってみたい」

「無理だろ」

 それにすかさず反論したのは百鬼だった。

「そもそも考えてみろよ。お前の姿は他人には見えないんだぞ?」

 ヘヴンとアサガオの姿は夜行と百鬼にしか認識できない。

「だってこれ楽しそうなんだもんー」

 そう言って雑誌の一ページを見せてきた。それは隣の市にある遊園地だった。そこにはジェットコースターの写真が載っていた。

「あら? なんですの?」

 そんなテンションの高いヘヴンに気がついたアサガオが首をかしげ聞いてきた。

「ここに行ってこれに乗りたいんだとよ」

 百鬼はアサガオにも雑誌を見せる。

「あら? いいですわね。ワタクシも行きたいですぅ」

 甘える様な声。

「……お前ら自分の存在がどういうものかわかっているのか?」

 半ば呆れ気味でため息をつきながら言った。

「えぇーいいじゃん。いいじゃん」

「百鬼さん。ワタクシと二人っきりでデートしましょう?」

「ちょっと待ちなさいよ。アタシは?」

「ヘヴンさんはお留守番ですかねぇ?」

 また喧嘩が始まる瞬間だった。

「アタシが最初に言い出したのよ? アタシが夜行と二人で行くんだから」

「おい。喧嘩するな。そもそも誰も行くとは言ってないぞ」

「え~」

 妖精二人は不満の声を上げた。

「大体だな、傍から見たら鉢植えを持った男一人が遊園地で一人言を言いながら遊んでるんだぞ? それをどう思う?」

「……言われてみれば」

「…それはちょっと……ですわね」

 想像すれば直ぐにその異様さに気がついてしまった。

「さすがに夜行にそんな恥をさせるわけにはいかないか……」

「たしかに百鬼さんに恥をかかせる訳には……それでもワタクシは百鬼さんが好きですわよ」

「あんた何さらっと言ってんのよ」

アサガオはそんなヘヴンの言葉は無視した。

「とにかくこの話しは終わりですわね。残念」




「っと言う事があったんだが」

「ふ~ん。遊園地か~。僕も久しぶりに行ってみたいなぁ」

 ここは身体の中。夜行が唯一しゃべれる場所だ。そこはもっぱら二人の相談の場所となっている。

「しかしさすがに無理があるだろ」

「確かにちょっと難しいし恥ずかしいけど……」

「……お前が大丈夫なら俺は構わない」

「仕方ないよね? あの二人の願いだし」

「でもどうするんだ? 一人一人連れて行くのか?」

「いや四人一緒に行こう」

「しかしそれだと……」

「うん……。多分あの二人は喧嘩するだろうね。それをなだめつつ楽しむしかないよ」

「そうだな」

「四人で思い出を作るんだ。たぶん僕の予想だと……いや、なんでもない」

「なんだよ? 最後まで言えよ」

 夜行はこの事を百鬼に告げるか悩んだ。しかし二人は一人なのだ。夜行は悩んだ挙句、自分の予想を百鬼に伝える。

「あのね百鬼……」

 それを聞いた百鬼は無表情で『そうか』とだけ呟いた。

 そして二人の決心は固まった。例え自分たちが恥ずかしくても相手が喜ぶならと思い遊園地に行くことを決意したのだった。



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