彼女の手を握る
その場にいる誰もが耳を疑ったことだろう。それだけユリアが語る真実は、これまで語り継がれてきた歴史と大きく異なっていた。詠治も、お夏婆さんも、レキも、ユリアの話を聞いた者全てが言葉を失う。
その沈黙を、ユリアは変に勘違いした。
「……も、申し訳ない。慣れない歌など歌ってしまって。この聴衆の反応は、私の歌などもはや聴くに堪えないということでしょうか」
「馬鹿、そうじゃない。それと、歌ですらなかった」
詠治が一刀両断。「ただの朗読だったぞ」
「うっ」
「今の話は……本当なのか?」
「……はい。今まで黙っていて申し訳ありませんでした。今私が語ったことが真実です」
「嘘だ!」
怒声を吠えたのはレキだった。「そんなことがあるわけがないっ!」
「エイジ、先ほどから気になっていたのですが、あの態度の大きい男は何者なのです。風貌からしてこのジパングの者ではないようですが」
「あいつは公示結社アースガルズの日本史局長、レキ・アースガルだ。僕が憧れ、お前が嫌っていた公示結社の次期代表取締役さ。もっとも、僕はもう憧れちゃいないけど。とんだ下種だったな。ただ態度がでかいだけだ。大した男じゃない」
「なんだと!?」
レキは怒りに身を震わせ、金切り声でまくし立てる。「我々アースガルズが世界を動かしているんだっ。あらゆる情報を手にし、なければ作り出すっ! 人々を動かし、世を制御、統制していく。我々が知らないことなどない!!」
「その自惚れが、今回の敗北の原因だ、レキ・アースガル」
「エイジの言うとおりです」
エイジの言にユリアも続ける。「私とエーファの秘密のお話までもが、公示人の手になど渡るわけがない」
「………………そ、んな」
茫然自失の態でレキはガクリと大地に膝をつく。呪詛を唱えるかのようにぶつぶつと彼はつぶやく。「魔導士が増えなければ魔力はいつか枯渇し、この国は持たない……スウェイデンだって……」
詠治はその様子を見て、心底がっかりしていた。情報を握り人々を操ってきた者の、成れの果てがこれか、と。冷めた一瞥をレキにくれたあと、詠治はユリアの手を握る。
「行くぞ、もうここにいる意味はない。お前に魔女の血は流れてないんだからな」
「そ、それはそうですが……」
ユリアの視線が倒れ伏しているお夏婆さんに向けられる。魔力をほとんど使い果たしたお夏婆さんは、もう動くこともままならない。
「私は、夏の憎しみを引き受けなければ――」
「いいんだよ、そんなの。今の話聞いて、まだユリアを殺そうとするほど、お夏婆さんは馬鹿じゃない」
「……詠治の言う通りよ」
お夏婆さんがわずかに顔をあげ、かすれた声を発した。
「お夏婆さんっ」
詠治が駆け寄ろうとするのを、お夏婆さんは首を振って止める。「行って、ユグルズ」
「夏……」
「いいから行って。見当違いで人を殺めたくなんてないし」
「……夏、申し訳ない」
「……あんたは悪くないよ。悪いのはそこで情報を弄んで弄ばれた阿呆と、その阿呆の先祖どもが悪い。――それにしても詠治、あんた、凄い魔法使えるんだねぇ。まさか太陽とは。見直したよ」
「フンッ、太陽を呼び寄せただけじゃないか。あんな魔法、お夏婆さんなら余裕だろ」
「あたしが言ったのは発想のことさ。発想できなきゃ魔法は行使できないよ」
「褒められたって嬉しくない」
詠治はそっぽを向いて答えた。
ユリアはお夏婆さんに深々と一礼した。
「行こう、ユリア」
「はい」
詠治はユリアの手を強く握った。




