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盆栽同好会へようこそ

 翌朝、登校しようとする詠治をユリアが引き止めた。案の定だな、と詠治は思いながらも靴を履く。

「正気ですかっ、エイジ」

「『いついかなる時も正気』が僕の売りだ」

「はぁ、まあそれはともかくですね」

「オイ」

 詠治はユリアの反応に不機嫌になる。とはいえ、実際詠治は昨晩取り乱したし、それ以外にも幾度か冷静さを失っているわけだから『いついかなる時も正気』とは言い難い。

 ユリアは彼の不機嫌さなど気にせず続ける。

「あまりにも危険です。あの宮上有人という男子学生がまた魔法による攻撃をしかけてくるかもしれないのですよ」

「それはない。いくらなんでも明るい人通りのあるうちに、人殺しなんてやるとは思えない。昨日のやり口を見ただろ。あれはどう考えても隠密にことを済ませようって手口だ。明るいうちなら問題あるまい。

 そもそも、昨日の襲撃は宮上によるものじゃない。確かにあいつは宮上の血を引いてはいるが、あそこまで強力な魔法を放てるほどの技量をまだ学んでいない。ヤツは潜在能力はあるのにそれを生かせていない馬鹿だからな。勉強が足りないんだよ」

「たしかにそうかもしれませんが……」

「そうなんだよ。じゃ、行ってくる」

 詠治は爪先を何度か三和土でトントンとやって靴をしっかりと履き、ドアを開ける。途端、日の光が入ってくる。本来ならば梅雨真っ盛りだが、ここ最近はずっとこんな調子で晴れの日が続いている。

 ユリアは仕方ないといった様子で「お気をつけて」とだけ声をかけ、奥の四畳半に引っ込んでガラスの引き戸を閉めた。


       *


「やほほーっ、詠治っ」

「呼び捨てにするな。馴れ馴れしい」

 登校して教室に入った途端にナズナに声をかけられ、詠治はあからさまに憮然とした。クラスの連中がちらちらと詠治とナズナを観察しているのを肌で感じる。不愉快である。

「えー、ユリアには呼び捨てにさせてるくせにぃ」

「それは……あいつは外人だからいいんだ。敬称を付ける習慣がないのだから仕方ない」

 歯切れ悪く答える詠治。ナズナはそんな彼をからかうようにニヤつく。

「ふーん、まあどうでもいいけど。それよりさぁ、今日も一緒にお昼食べようよぉ」

「断る」

「ぶー、じゃあ放課後一緒に帰ろうよっ。詠治って部活入ってないんでしょ。あたしもなんだー。だからさ、どっかで待ち合わせして――」

「断る。それに僕は部活に入ってる」

「うそーっ、聞いた話とちがーう。何部に入ってるの?」

「盆栽同好会」

「シブ! へぇ、そんなのあったんだー。あたしも入ろうかなぁ」

「勝手にしろ」

 もちろん盆栽同好会など存在しない。放課後にナズナを撒くための嘘である。図書室で勉強せずに真っ直ぐ帰らなければならなくなるが、どうせ謎の襲撃者の一件があるから今日は図書室へは行かないつもりだった。

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