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襲い掛かる閃光

 詠治がドアを開けると、外の風がひゅるりと室内に吹き込んできた。もう夏も間近で、最近は夜になってもあまり涼しさは感じないのだが、その風は冷たく、背筋をゾクッとさせるものがあった。

 詠治に続いてユリアも外に出る。二人は洗面器を抱え、これから銭湯に向かおうとしている。外階段を降りて、アパートの敷地の外に出ると、近所はしんと静まり返っていた。

「エイジ、前々から気なっていることがあるのですが」

「何だよ」

「銭湯で目にするコーヒー牛乳という飲み物です。たしか他にフルーツ牛乳という物もあったのですが、あれが気になって仕方ありません。いったいどんな味がするのかと」

「そうか。でも安心しろ、どっちも大したものじゃないから」

 何かを誤魔化すように詠治は早口でまくし立て、そそくさと歩き出した。――そんなもん買う余裕はないぞ。

「エイジ、たしか今日はナズナに夕餉をご馳走になったから、懐に少し余裕があるのではないでしょうか」

「一度奢ってもらった程度じゃ、僕の懐事情には何ら影響は――」

「エイジ、危ない!」

「ぇ――――――」

 詠治が言い終わるより前に、ユリアは動き出していた。詠治は呆気に取られたまま、固まってしまう。

 そのとき、遥か遠くの空が一瞬、光ったような気がした。それは星の瞬きのように一瞬だった。

 だが次の瞬間には、眼前がカメラのフラッシュでも焚かれたかのように真っ白に輝いた。嵐のように風が吹き荒れ、周囲の木々をざわめかせる。

 詠治は目を半開きにして、どうにか目の前で起こっていることを認識しようとする。彼の前にはユリアが右腕を前に突き出し、その掌を広げ、迫りくる閃光を受け止め続けている。

「ユリアっっっ!」

 彼の叫びに、ユリアは平然と答える。「大丈夫ですか、エイジ」

「僕は問題ないっ。それよりお前――」

「よかった。私のことはご心配なく。この程度の魔法で、私の身は砕かれなどしませんから。薄いとはいえ、私の竜の血で十分対処可能です。かなり眩しいとは思いますが、もうしばらく辛抱してください。じきに敵も無駄な行為だと悟り、この無為なる魔法の詠唱をやめるでしょう」

「…………敵」

 詠治はぽつりとそうつぶやいた。

 そして思い出した。ユリアが最近感じているという怪しい気配に。

 ――敵が、いる。僕を狙う敵が。でもいったいどこの馬鹿が僕を狙うっていうんだ。知識特待生というだけで、魔女の血が薄い僕を狙っても何の益にもならないはずなのに……。

 ユリアの予想通り、攻撃はそれから十秒も経たないうちにプツリと途切れた。

 周囲は何一つ壊れたものも傷ついたものもなく、家々は軒を連ね、電信柱は無言で立ち並んでいる。アスファルトにも焦げ目一つついていない。

 あれほどまで激しい攻撃であったにも関わらず、痕跡を全く残していなかった。

「なかなか腕に覚えのある魔導士のようですね。まるで暗殺者です。もし私たちが今の攻撃でやられていたとしたら、肉体は消滅し、攻撃があった証拠すらなかったでしょう」

 ユリアは落ち着いた様子で述べた。

 けれど詠治は彼女の掌を見て、思わず大きな声をあげてしまう。

「ぉ……お前っ! その手っ……!」

 攻撃の痕跡はあった。ユリアの掌である。

 ユリアは今初めて気付いたようにその掌を見る。うっすらと白い煙をあげ、掌全体が赤くはれあがり、火傷を負っている。

「こっちに来い!」

「え、エイジ!?」

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