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コケコッコー

 その後、詠治は再び鶏に変身し、卵を産卵中。予定通り四つ、残すところあと一つだ。もうユリアに鶏姿を見られても恥ずかしいとは思わないけれど、いったいどんな顔をしていいのかわからず彼はさっきから黙りこくっている。喋ったところで変身中は人語は介せないわけなのだが。

 ――それに、迂闊に鳴くわけにもいかない。鳴き方によっては〝取り返しのつかないこと〟になっちまう……。

「エイジ、できれば毎朝鶏になって鳴いてほしいのですが。コケコッコー、と」

「ココッ!?(何だって!?)」

 思わず鶏言葉を発してしまった詠治。幸い彼が危惧する〝取り返しのつかないこと〟を誘発する鳴き声ではなかったようだ。

 鶏語を理解しているのかいないのかは不明だが、ユリアは続ける。

「私は幼い頃、生まれ故郷でいつも鶏の鳴き声で目覚めていました。今日までそれを忘れていたのですが、エイジのその姿を見たら記憶が戻ったのです。そうしたら、無性に鶏の鳴き声で起床したくなりまして」

「コケッケッココッコケッコッ(そんなこと知るか。朝目覚めるだけなら目覚まし時計でいいだろっ)」

「よかった、エイジが了承してくれて」

「ココッコケッ(人の話を聞け!)」

 鶏語でまくし立てていることにすら詠治は気付いていなかった。冷静ではいられないことが立て続けに起きて混乱している。

「何せ今の私は太陽の姿を拝めない身ですから――」

 ユリアはそうつぶやくと、空を仰ぎ見た。まだ暗いが、あと二時間もすれば明るくなってくるだろう。

「……せめて、せめて鶏の鳴き声を聞いて、太陽と朝の到来を感じたいのです。太陽は我々に恵みと祝福をもたらしてくれる――朝日は生きる力を、夕日は郷愁感じさせる心を。あの光りほど優しさと強さに満ちたものはありません。どんな魔法を駆使しても、太陽に勝る力を呼び出すことはできないでしょう」

 語るユリアの顔に、詠治は憂いを読み取らないわけにはいかなかった。彼の耳には言外にこう伝わってくる。

 恵みを受けることを許されず、

 祝福されることもなく、

 生きる力から見放され、

 郷愁を感じさせる心も与えられない。

 優しさも強さも窓の向こう。

 それが今のユリアだ。

 陽光を浴びることを許されない彼女の太陽への渇望は、実にシンプルに結ばれる。

「……私はそんな強い光が、好きなのです」

「…………コケ」

 ころり、と地面に卵が転がった。四つ目。

 今のは、鶏語で肯定の返事を意味する。

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