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「――定めですから」

「お前が住んでたとこには、こういう街はなかったのか?」

 詠治は財布の中を気にしつつ、何気なく訊ねた。ケーキ屋を出た二人は、街道をどこへ行くともなく歩いている。ユリアはケーキが入った箱を手に提げて、街道に立ち並ぶビルを見上げながら答える。  

「街はありました。もちろんこのようなエネルギーに満ち満ちたものではありませんでしたが。ただ、私には無縁でしたね。何せ私は戦士でしたから」

「それもそうか。どんなところに住んでたんだ?」

「城の敷地内に併設された寄宿舎です。そこで私は年中寝起きをしていました。毎日剣の稽古に明け暮れ、王の命があれば出陣するという生活でしたね」

 ユリアは淡々と語っている。詠治にとっては違う時代の、あまりにも日常とはかけ離れた話だから、お夏婆さんの『真夏の雪』の話を聞いているような気分だ。

「そんな生活を送る羽目になることぐらい、戦士になる前にわかってただろ。なのにどうして戦士を職業に選んだんだんだよ。お前は……その、女だし」

 隣を歩むユリアをちらりと一瞥し、詠治は慌てて目を逸らした。ネオンの明かりに照らされるユリアの姿に、見とれそうになったからだ。

「いえ、そもそも私には職業を選ぶ自由などありませんでしたし、戦士を職業だとも認識していませんでした。私には兄がいました。ユグルズ・トラドットという」

「兄!?」

 初耳だった。教科書はもちろん、どの文献にも載っていない新事実である。

「はい。けれど、彼は戦で戦死してしまった。私の家系は神暦の頃より続く戦士の家系でしたので、跡継ぎが必要でした。それが私です。トラドット家にはもう私しか子はいませんでしたから。名前もユリアでは戦士として力強さに欠けるということで、兄の名を継いだのです」

「……お前は、それでよかったのかよ」

 憮然とした態度で詠治は訊いた。なぜ自分が苛立っているのか、彼にはよくわからなかった。 自分のことを自分で決めなかったユリアに対してなのか。

 他人のことでここまで憤る己自身になのか。

 いずれにせよ――無駄なこと、のはず。

 ――なのに、僕はどうして……。

「――定めですから」

 ユリアの答えに、詠治は我に返る。

「私の友人で占い師をやっている者がいたのですが、彼女が言っていたのです。この世に起こり得る全てが定めだと。私もそう想うのです。故に、エイジの質問には答えかねます。良い悪いでは、言い表せるものではない」

「僕には理解できない考え方だな。定めなんて突きつけられたら、僕だったらそれをいかに粉砕するかに尽力する」

「ふふふ、それはそれで貴方らしくていいですね、エイジ」

 まるで鼻歌を口ずさむようにユリアは言った。いったい何が楽しいのか詠治にはわからず、彼は不機嫌にそっぽを向いた。

 遊ぶこととは無縁だった、という点についてだけ、詠治は共感した。詠治も勉強に明け暮れる毎日で、遊ぶどころではない。ユリアの言を肯定するようで癪だが、たしかにこの散策はいい気分転換になって、なんだか肩が軽くなったような心地ではある。財布も軽くなってしまったけれど。

「戦士としての日々を送っていたからでしょうか。この街の光が、私にはやけに眩しい」

 ユリアは手をかざし、まるで太陽でも見るかのようにネオンを眺めていた。

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