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第八話 翼と空

どうも、パオパオです。


何か、書けました。

あれー。定期テストと、受験勉強の板挟みで時間なんてないはずなのに……。

気づいたらお気に入りが五件も増えていたので、折角だからと投下します。

 今日も今日とて、童女と遊んで一日を過ごす。

 ……何故だか字面に酷い違和感を感じなくもないが、きっと気のせいだろう。

 やっている事と言えば、それこそ話の合間に適当な反応を返したり、俺の体を遊具代わりにするのを許している程度でしかない。


 童女には、俺の翼が動かせるという事を教えていない。

 童女にとって、俺の翼は動かす事の出来ない観賞品だ。

 動かせる翼では、実用品(ゴミ)に成り下がる。


 飛べない翼。

 翼に似た何かと他者に伝えているからこそ、俺はまだ翼を折らずにいられる。

 そう、翼ではなく、翼に似た何かだと思われているからこそ、まだ大丈夫。

 もしも、動かせるのに、飛べはしない翼だと知られれば――きっと俺は、その相手を殺すのだろう。

 それはちっぽけながら、譲る事は決して出来ない、俺の拘りだから。


 空を飛びたい。

 それは、生まれた瞬間から抱き続けている、俺の願望である。

 当然、豚人(オーク)には過ぎた願いだ。

 人間ですら空を飛べない、空を支配している存在達が、地上生物が羽撃く事を許さない世界。


 ――嗚呼、どうして、こんなにも。

 いつだって、広大な天空を求めているのに。

 そのための手段だって、粗末ながらも持ち合わせているというのに。

 俺は、どうしてもう一度、飛べないのだろう。


『どうしたの?』


 翼を撫でていた手を止め、声をかけてくる童女。

 普段にも増して微動だにしない俺の様子が、何か気にでもなったのだろうか。

 ボリボリと毛のない頭皮を掻いて、小さく首を横に振った。


『なら、良いんだけど』


 再び羽繕いを始めた童女だったが、暫くしてまたその手を止めた。


『……まさか、またどこかへ私を置いて行くつもりじゃないでしょうね! どうなの!?』


 何か癇に障ってしまったのか、唐突に首輪を引っ張りながら詰め寄ってくる。

 心当たりが全くないのでとりあえず大きく首を横に振ると、納得してくれたらしく、首輪を持つ手の力が弱まる。

 それでも尚疑惑の目が向けられるが、毅然として見返していると、首輪から手を離してまた背中へ降りていった。

 翼が撫でられる。


 無言。

 言葉はなく、微かに羽を梳く音が聞こえてくるのみ。

 俺一人だと近寄ってくる虫達も、エルフや他の豚人(オーク)が居る時にはもう来ない。

 いや、昔は誰が近くに居ようとお構いなしにやって来たのだが、一度冗談半分に命令したところ、以降は人目がある場所で虫を目にすることはなくなった。


 不思議な事もあるものだ……と、流石に楽観は出来ない。

 けれど、現状として支障がある訳でもなく、寧ろ人が来たら散って逃げる彼らは、呼び鈴と嗜好品代わりに役立ってくれている。

 きっと、誰にも理解出来ないだろうし、されようとも思わないけれど。


 自分という者が何なのか、時折酷く疑問を覚える。

 自殺願望がないはずなのに、衝動的に死を望む行動を取る。

 豚人としてはあり得ない翼という器官を持つも、それは飛ぶためには使えない。

 異常な程昆虫に好かれ、命令すら可能である。

 そして、生物としてはどう考えても異常なエネルギー循環構造。いや、火事場の馬鹿力を無理矢理引き出していると考えればいくらかは納得出来る……かもしれない。


 生まれながらにして、この体には分からない事が多過ぎる。

 けれどどこか、自然と理解している自分が居る。

 力の使い方。戦闘の立ち振る舞い。肉体を動かす法則(ルール)。そして、高速飛行のための飛び方。

 特異な体がおかしいと理解するためには、普通の体を知っていなければならない。

 何せ、生来持っている力なのだ。

 比較対象がないのなら、特異だと理解出来る訳がない。


 ……その辺りに関して、知識という意味での異常は最早勘案するのも無駄だと投げ捨てているが。

 どこの世界に、誰に教わるともなく生き延びる方法を知悉した子供が居ると言うのか。

 奇妙にも程があるだろう。


 歪んだ生物。

 正に異端と呼ぶべき異常。

 そんなものが、自分達と似た姿をしていたら、排斥しないと言う考えがおかしい。


 元来仲間意識の強い豚人(オーク)達が、俺に関して無干渉と緩慢な殺害を貫いているのも当然だ。

 殆ど生きる事も難しいだけの食料を与え、激しい戦地には必ず投入し、誰一人として交流を持とうとしない。

 最低限の関係にも撫ぜれば手折れるしまいそうな、儚いエルフの童女を挟み、徹底的に関係を絶つ。

 ここまでやって、自殺もせず、戦死もせず、気も狂ったように見えない俺という生き物が、彼らは理解出来ないに違いない。

 然もありなん。当事者でさえ理解出来ないものを、何を以て第三者が理解出来ると言うのか。


 どうでもいい考えを破却する。

 いつの間にか、童女の帰宅の時間になっていたらしい。

 訳の分からない言葉でお決まりの台詞を俺に言い聞かせた後、くるりと反転して颯爽と去っていった。


 ……いつも思うんだが、童女は一体どこへ帰っているのだろうか。

 毎日微妙に向かう方向が違っているのが、少しばかり気にかかる。

 気のせいと切り捨てるには、付き合いが長過ぎた。

読んでくれてありがとうございました。

意見、評価、感想、指摘などを頂けると嬉しく思います。

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