第五話 豚人の生態
どうも、パオパオです。
という訳で、連投です。
前半が説明会になってしまっているのが悔やまれます。
文章力が足りない……。
そして、相変わらず過ぎる戦闘描写(笑)……。
ラストは個人的に好みですけど。
豚人。
基本的には、豚面をした緑色の人間である。
人間に比べて、明らかに知性が劣るが、その分戦闘能力は高い……のだろう。
後者は果たして、疑問に思う。
この辺り一帯に分かれて棲むんでいる豚人は、総じて強さを感じさせない。
直接の理由は、やはりその首に巻かれた黒い首輪だろう。
失態を演じるか、はたまた気まぐれによって、失神する程度に首を締め付けてくる。
エルフという、本来は敵対している種族の采配によって。
そもそも、本来群れて行動する筈の豚人が、小規模の集団となって散らばっている時点でおかしいのだ。
豚人は仲間意識が強い。
であればこそ、豚人は大きな集落を作り、そこを守るように戦士団を配置する。
けれど、現状は大きく違う。
豚人は戦士階級の者を広く浅く展開し、中心に位置するエルフの里を守らさせられている。
そうする理由は単純極まりない。
豚人達は皆、命を握る黒い首輪から逃れられないのだ。
昔の出来事だ。
俺が生まれた日から数日後、戦士階級の豚人が軒並み狩りへ出かけざるを得なくなった。
理由は、俺が食物庫にあった蓄えを食べ尽くしてしまったからである。
戦えない女、子供を今はなき集落へ残し、彼らは大規模な狩りに出かけていった。
その翌日。
早過ぎる帰還を迎えた戦えない豚人が見たのは、長耳の亜人――エルフ。
陣頭に立っていたのは、現在もエルフの里の長を務めている、他よりももっと耳の長いエルフだった。
長耳の戦士達の行動は早かった。
立ち向かおうとした豚人だけを狙って殺し、一方的に被害を出すことで厭戦感情を高めていった。
いくら豚人が戦闘種族だと言っても、戦うための用意一つしていない女子供では、抵抗も敵わない。
降伏を余儀なくされた豚人達を待っていたのは、エルフへの隷属だった。
一体、また一体と首輪を付けられていく同族達。
当時の俺は何が起きているかは理解していたが、それが自分にまで及ぶものとは考えず、無抵抗に首輪を受け入れた。
そうして、エルフ達は戦利品を俺たちに運ばせて、里へと戻っていった。
その数日後、誰も居ない集落へと戻ってきた戦士階級の豚人達は、即日中にエルフの里へと殴り込みをかけた。
けれど、彼らには何も出来なかった。
何故なら、女子供の豚人が矢面に出されていたからだ。
豚人に豚人は傷つけられない。
肉壁の後ろから斉射を繰り返したエルフ達に、断腸の思いで戦士階級の豚人達は降伏した。
こうして、豚人はエルフの傘下に収まった。
戦士達は外敵の排除を仕事に課せられ、失敗すれば非戦士階級の豚人が代償に殺される。
反抗しようにも、エルフの気分一つで締まる首輪は、エルフへの攻撃を許さない。
優秀な戦士である豚人達は、ただのエルフの雑用係りに成り下がった。
豚人は着実にその数を減らしている。
戦闘で死に、任務の失敗で殺され、生殖行為を禁じられていれば、増えようがない。
不満は募っても、吐き出す先は外敵にしかない。
しかしながら、昔程に満足な食事も得られず、そもそも豚人より格上の生物も棲む森の中では、今の豚人で完勝出来る相手は少ない。
つまるところ、エルフはそれなりに、豚人という脳筋種族を上手く扱っているのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
結局、昼飯用に取っておいた林檎にも虫食いを発見し、中に居た芋虫を排除。
注意深く調べて虫の不在を確認した後、失ったエネルギーの補充に、朝食代わりに一飲みする。
ほんのりとした甘みが口内に残り、ピリピリと荒れた痛みを緩和する。
『……ほっ。よかった、そっちも吐き出さないで』
俺の体に背中を預けて、しゃくしゃくと蜜柑っぽい果実を齧る童女。
声音から察するに、安心したのだろう。
上目遣いに見上げる瞳は、幼いながらも慈愛に満ちていた。
大人びたその表情に、童女の苦労が忍ばれる。
舌で果実を持っていた手を舐め、考える。
これでもう、今日の食事はなくなった。
夜には童女が差し入れてくれるだろうが、その前に昼食の時間がある。
一食抜く、というのは、俺にとっては死活問題だ。
何せこの体は、燃費が良い分、消耗も著しく早い。
何か体内に取り込めばそれで十分なのだが、出来るならば美味い物を食べたい。
血肉、野草、魚介……滅多に食べる機会は得られないが、その美味さは知悉している。
木の根だってエネルギー吸収という面では問題ないが、あんなものをまた食べようとは思えない。
だから、探しに行かなければならない。
普段ならば睡眠に費やす時間を、食料採集に向けるべきだ。
……どうせ、偶には見回りに出た方が鬱陶しい視線も減るのだから、丁度良い。
最後の一粒を口に入れ、至福の表情を見せる童女を持ち上げる。
慌てる童女をそっと脇に退け、代わりに地面に刺さっている石柱を掴む。
戸惑う童女を放置して、森の外周部へと足を向けた。
チロルを連れていくつもりはない。
少しばかり――見せたくはない光景が広がるかもしれないから。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
豚人が守護する森の範囲は、実際かなり豊かだ。
それはエルフが居るからかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
事実がどうであろうと関係ないが、つまり何が言いたいかと言えば――
「荒れてるな、やっぱ」
外周部。
豚人が守護する領域の、ギリギリの位置。
踏み越えれば豚人達が撃退にやってくる境界線を、俺は訪れていた。
視線を巡らせば、森の遺骸が視界に入らざるを得ない。
倒れた樹木。焦げた大地。禿げた並木。
色を失った風景は、酷く寒々しい。
空を見上げる。
地表に感化されてか、黒ずんだ灰色の雲が棚引いている。
いつ雨が降り出してもおかしくない空模様に、気分も落ち込んでくる。
溜め息を吐くと、足下を這う百足を見つけた。
カサカサと地面を這って、俺に近寄ってきているらしい。
殆ど無意識に踏みつけ、その甲殻を粉砕した。
「何やってんだか」
嘆息し、もう一度視線を巡らせる。
生命の鼓動の感じられない、死んだ森林。
小人の一部隊や二部隊は居るかと期待していたが、早々思い通りにはならないようだ。
「予想外だよ、良い意味で」
【出たな、豚の親玉!】
【一体で出てくるなんざ、危機意識が足りてねーぜ!】
【テメーを殺せば、後は好き放題ヤれるってモンだ!】
「ゲッ、ゴゲッ!」
十体、二十体ではきかない、小人の群衆。
あからさまな敵意をこちらに向けて、醜悪な容貌を一層歪めている。
これからまた侵攻してくるつもりだったのだろう、そのどれもが粗末ながらも武器を身につけていた。
騒がしい小人の群。
だが、これ程丁度良い相手も居ない。
いくら小人が群れようとも、俺が負けようがない相手なのだ。
【かかれぇ!】
【ブッ殺す!】
「ギャッギャァッ!」
愚かにも真正面から向かってくる小人が四体。
その排除はいかようにも出来るが、後方に控える弓持ちは対処が面倒だ。
無造作に石柱を薙ぎ、三体の小人がどこかへ転がっていった。
一体は辛うじて攻撃を避けたが、風の余波を受けて腰を抜かしている。
残った小人を気にする余裕もなく、降ってきた矢を石柱で受ける。
元々の腕が悪いのか、武器の質が低いのか、狙いは曖昧で真っ直ぐさえ飛んでこない。
だが、その分乱雑であり、一本の矢を凌ぎきれずに通してしまった。
脇腹が小さく抉られ、耳障りな歓声が上がる。
「痛い」
そう思っていないような平坦な声音を漏らす。
外面に反して、内情は怒りで燃え上がらんばかりに昴っている。
とりあえず報いを受けさせようと、回転をかけて石柱を投げつけた。
【避けろっ!?】
「ギギャァアッ!」
「ゴギョッ!?」
反応出来なかった十体そこらの小人を巻き添えに、後方で喜んでいた弓持ちの小人を一掃する。
敵の残存兵力は約三分の二まで減った。
だが、武器を失ったのを好機と見たのだろう。
狂ったような叫声を上げて、残りの小人が三々五々向かってきた。
【死ネェッ!】
「ギャァッ!」
【仇を討つぞ、全員かかれぇ!】
棍棒を、ナイフを、短槍を持った小人達が、四方八方から武器を向けてくる。
全力で応戦するが、全ては捌ききれない。
攻撃の間隙を突いた一撃が積み重なっていく。
「ガアアアアアァァァッ!!」
【止めっ!?】
「ギギィ?」
至近距離に居た小人の頭を掴み、その体を武器代わりに周囲へぶつける。
肉と骨がぶつかり合い、折れ、砕ける。
もう片方の腕はただ振り回すだけで、多くの小人の体を吹き飛ばしていく。
【怯むんじゃねぇ! アイツももう死にかけだ! ここであの悪魔を殺せるぞ!】
【そうだ! これで豚共も終わりだ!】
体が重くなる。
激しい行動によってエネルギーが消費されていくが、そのに伴って向上する身体能力も限界らしい。
上昇率よりも、損耗率の方が上だというのは、厳しい。
「仕方ない」
正直に言えば、たとえ危機的状況であっても、自分から使いたい技ではない。
けれど、今は。
童女に、死なないようにと、叱られた今ならば。
「しなきゃいけないよな」
ボロボロの両手で、手近な小人を掴み上げる。
抵抗する片方の小人の首筋に、近付けた口から舌を伸ばす。
筒状に丸まった舌は、容易く皮と肉を突き破り、血を吸い出していく。
ゴク、ゴクゴクゴク。
鉄の苦みを嚥下するごとに、体の傷が癒されていく。
肉が見えていた皮膚は新たな皮に覆われる。
切り裂かれた筋肉は結合する。
落とされた足の指は新たに生えてくる。
【な、んだと?】
【そんな……】
【ここまでやったのに……!?】
驚愕に手が止まる小人達を余所に、掴んでいた小人から血を吸い出していく。
たったそれだけで、完全に治癒を完了する肉体。
あまりにも異常で、あまりにも反則過ぎる。
「ふぅ……」
治癒に伴うむず痒さに息を吐き、感覚を調整するように首を回す。
ゴキリゴキリと、小気味よい音が鳴った。
満足して、干からびた小人のなれの果てをポイ捨てする。
【ひぃっ】
漲る力……は残念ながらない。
体力の回復と反比例して、身体能力は最低まで落ち込んでいる。
だが、そもそもの豚人の肉体。
小人に負ける程、柔ではない。
「ギャィッ」
「グゲッ」
流れ作業の如く、残ったゴブリンを殺戮していく。
最早、小人達に満足な抵抗は出来なかった。
一体、また一体と数を減らしていき――残った一体と対峙する。
「最後だな。まあ、死――」
【死ねえええええぇぇぇっ!】
背後から聞こえてきた声に、首だけで咄嗟に振り向く。
そこには、今まで気にも留めていなかった、最初の生き残りの小人が跳躍する姿があった。
今から腕で振り払ったとしても、ギリギリで間に合わない。
だから――
「ギャッ!?」
ブン、と風切り音。
同時に、再び地に伏せる小人。
彼を叩き落としたのは――緑の翼。
「飛べはしなくとも――」
もう一体の小人の首をへし折りながら、地に伏せる小人に足を乗せる。
それでも生き足掻こうとする小人に、微かな尊敬すら抱きつつ――
「動かせるんだよ、ばーか」
踏み抜いた。
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