第四話 衝動的行動
どうも、パオパオです。
予想以上に難産。
これ以上書きようがないので、ここまで。
明日の分も書き溜めたので、明日も投稿します。
しかし、明日の分は今日の倍近いという……。
――不意に。
時折、自分でもどうしようもなく。
酷く、あっさりと、死にたくなる。
原因は様々だ。
たとえば、空が暗い荒れ模様である時に。
たとえば、水溜まりに映った自分の醜悪な容姿を目にした時に。
たとえば、耳の長い童女が楽しそうに話している時に。
何でもないようなそんな時に、ふと首を引き千切りたくなる。
理由は分からない。
無知である俺には、そんな衝動がどういう理由から起こるものかを知る事が出来ない。
ただ、ただ、死にたくなる。
頭を空っぽにして、額を勢いよく岩に叩きつけたこともある。
水浴びの最中に、頭を数分もの間水に浸けたままにしたこともある。
戦闘の最中に、振り回してた石柱を側頭部にぶつけようとしたこともある。
自殺願望なんてない、筈だ。
無為であっても過ぎ行く日々は嫌いじゃない。
代わり映えのしないつまらない日常が、物足りなくとも充実していて。
けれど、突発的に。
抗いがたい衝動が。
慣れ親しんだあの感覚に――身を委ねたくさせる。
今も、また。
起き抜けの回らない頭で。
視界に入った自分の手を見て、それを首へと伸ばし――
『――駄目ッ!』
ぶつかってきた小さな薄緑の塊が、首にかけていた手を弾いた。
その軽い衝撃で、意識を取り戻す。
死にたがりの衝動は霧散し、上げた顔には地面を転がる童女の姿が見えた。
――嗚呼、また。
俺は助けられたのだろう。
目前とした死を振り払ったのは、あの非力な童女だ。
幾度と無く、死にかけの俺を救って見せた、強い童女。
『何で、そんな、何でもないように死んじゃおうとするの! <あなた>は<私の>ものって、いつも言ってるでしょ!』
体に付いた土埃も払わず、童女が詰め寄ってくる。
普段に増して早口で語られる言葉は、その殆どが理解出来ない。
それでも理解出来るのは、童女が俺を叱っているという事。
『いつもいつも、どうしてそんな馬鹿なことをするのよ! オークっていうのは、そんなに馬鹿な生き物なの? ねえ、何でそんなに馬鹿なの? 馬鹿なんだったら馬鹿なりに、自分が馬鹿だって理解しなさいよ! ねえ、ねえ、お馬鹿さん、聞いてるの? ねえってば!』
似た発音の単語が繰り返される。
それが何を意味しているか、流石に、表情を見れば推察は出来た。
『もう! 何笑ってるのよ、この馬鹿豚!』
苦笑を隠せない俺に、童女の怒りは悪化する一方だった。
くだらないやり取りが、酷く心地いい。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
朝食に林檎(らしき果物)を食べて、吐き出した。
「――ゲホッ!? ガッ、ゴホッ!」
『<ファリオ>!? 大丈夫!?』
心配する童女の声も気にかけられず、只管に飲み込んだものを吐き戻し続ける。
胃酸が食道を焼き、灼熱の痛みが舌を苛む。
鈍痛とは違う、慣れようのない種類の痛みに涙が浮かぶ。
雄の矜持として、流すような事態はどうにか避けたが。
「あ、っがぁ、ぐ……っ?」
戻したものを見れば、うねうねと動く芋虫の姿。
林檎に巣くっていたのだろうと容易に推測出来た。
殆ど噛まずに一口で飲み込んだせいで、この芋虫はまだ生きているのだろう。
沸々と怒りが込み上げ、持ち上げた足を振り下ろす。
『<ファリオ>……?』
足の裏に、どろりとした液体の感触。
プチュっと何かが潰れる触感。
汚れた足の裏をその辺りの土砂で拭って、少しだけ気が晴れた。
『だ、大丈夫なの……?』
心配してか、背中を擦る童女の心遣いに痛み入る。
伝わりはしなくとも礼を言い、噎せる体の調子を整えていく。
深呼吸。吸って吐く。吐いて吸う。
原因が既に取り除かれているからか、然程経たずに苦しさは消えていった。
『もう大丈夫そうだね。よかった……』
ほっと安堵する童女を見て、心が温まる。
自らの事のように心配してくれていたのだろう。
礼をしたくとも、何も返せるものがない。
周囲を見回して、珍しいものを発見した。
手を伸ばし、抜く。
『……これ』
差し出した物を、童女が両手で抱える。
それをじっくり観察した後、困惑気にぼつりと零した。
『……キノコ?』
巨大な茸。
焦げ茶色の大きな笠と、白い柄。
全長で五十センチ近くはありそうな、驚く程大きな茸だった。
『あ、ありが、とう……?』
俺は満足げに胸を張った。
エルフという種族が菜食主義だと、俺は知っている。
であれば、この見るからに無毒っぽい茸を喜んで食べてくれると確信している。
『……どうしよう。私、キノコ食べられないのに』
壊れ物に触れるように、童女は慎重に茸を取り扱っている。
ぽんぽんと、微かに笑っている童女の頭を叩いた。
それが引き攣った苦笑だとも、気付かずに。
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