第十四話 承諾
どうも、パオパオです。
短い、ですかね。
一日で一話を書き上げる毎日。
上手くすれば、今月中には終われるかな……?
寝落ちェ……。
意識を無にして黄昏れていた時、足音を知覚する。
動いていなかった頭が稼働を始め、状況の認識を進めていく。
周囲は腐っていた。
「うわ」
打ち捨てられていた倒木では、かつて童女の寝床で見たような、俺でも座れそうな巨大茸が存在を主張している。
ひっそりと目を楽しませていた小さな花々は、おどろおどろしい姿で捕まえた虫達を消化している。
罅割れた寝床代わりの岩には、びっしりと紫色の苔が生えている。
どこからか、瘴気のような霧も漂ってきている。
有り体に言って、気味が悪くて仕様がなかった。
反射的に飛び退こうとして、軽過ぎる体に驚いて体勢を崩す。
体の内側に意識を向けてみれば、灯火程度のエネルギーしか残っていないように感じる。
受け身も取れず地面に打ち伏して、何かを口の中に飲み込んだ。
「ごふっ」
エネルギーを欲していた体は、それを何か確認する間もなく飲み下した。
一気に熱を取り戻す体。同時に、思い出したように重力が仕事を始める。
未だ全快には程遠いが、動く分には素早く動ける現状がベストだろう。
寝そべった体を起こし、近付いてくる足音に顔を向ける。
見えたのは、翻る若草色の髪。しかし、赤銅色のどろりとした粘液をこびり付かせている。
必死の形相で駆け寄ってくる、十歳にも満たない容姿をした童女、チロル。
ある意味で予想通りの相手であり、だからこそ何が起きていてもおかしくはない。
これがたとえば豚人であったなら、間違いなく苦戦中だと分かるのだが。
とりあえず、何が起きても対応出来るように、愛用の石柱を探す。
「…………」
見つけた。
見つけた、が。
いや、今の環境を鑑みれば、あり得る事ではあったか。
(正直、触りたくない)
管理の杜撰さがいけなかったのか。
何かが違っていれば防げたのか。
無為の思考が頭を占め、現実逃避している場合ではないと頭を振る。
寝床代わりの岩の側に、それはあった。
一目見ただけでは分からないような変貌を遂げて。
ぷしゅぷしゅ、と情けない音を発しながら。
名状し難い卑猥な物体をその先端から伸ばした、無骨な石柱だった物が転がっていた。
「処分、するか……?」
弱々しい発射音とともに、卑猥な物体は紫の霧を途切れなく噴出している。
それが肉体に悪影響を与える事は明白だ。
幸い俺はまだ影響を受けていないようだが、これを放置しておくという考えはなかった。
今まで何もしてこなかったというプライド(笑)が、そのまま放置しておけと囁きかけてくる。
だが、流石に害を被りそうな物を見てまで貫き通す矜持など持ち合わせていない。
今までにも処分しておいた方が良かっただろうに、と若干の後悔をしつつ、卑猥なそれを踏み潰した。
花を手折る程度の脆い抵抗の後に、濃厚な粘液が足の裏にグチャリと広がる。
悪寒が背筋を駆け上がるも、努めて気にせずに、石柱に残る滓をこそぎ落としていった。
その間に、地面に塗り込むように足の裏を押しつけていた。
『<ファリオ>! 大丈夫、みたいね。良かった……』
到着した童女が、息も絶え絶えに声をかけてくる。余程急いで来たらしい。
決して貧弱ではない童女の体力は、森からの補正も相まって平均的な豚人を凌駕している。
エルフとしては平均よりも劣るだろうが、その分童女は体の運用が巧い。
一体どれだけの運動をすればこんな状態になるのだろうか。訊ねられない事が酷くもどかしい。
『この辺りも汚染されてるのね……。<ファリオ>、直ぐに戦って貰う事になるけど、大丈夫?』
何かを問いかけられたような気がしたので、頷いておく。
経験上、頷いておいて間違っていた事はないのだ。
すると、童女は安堵の息を漏らし、腰砕けになった。
『あはは……足がガクガク言ってる。暫く立てないかなぁ……。<ファリオ>、<私を>肩に乗らせて貰える?』
童女はプルプルと体を小刻みに――いや、足の震えが体にまで伝わってきていた。
億劫そうにしながらも、震える手で俺の肩を指差して、頼むような仕草を見せる。
いつものように肩に乗せれば良いのだろうと判断し、割れ物を扱うが如く、丁重に肩に乗せた。
触れる肌から、痺れにも似た振動が伝わってくる。
疲労の度合いは凄まじいだろうに、童女の翠眼は熱に燃えていた。
やはり何かしら、危急の事態が起きているのだろう。
汚れを落とした石柱を掴み、立ち上がる。
『まずは、あっちによろしく』
確りと首輪にしがみつきながら、向かうべき方を指示される。
体を解すまでもなく、先程得たエネルギーで体は暖まっている。
一歩目から全力で地面を蹴り、ぐんと体が引っ張られるような感覚を覚える。
二歩目、三歩目を踏み出す頃には、景色は流れるように過ぎていった。
『今日は存分にこき使うから、覚悟しておきなさいよ?』
耳元にかかる吐息に、心地よいくすぐったさを感じる。
首輪に籠もる力が強まる。
横目で確認した童女の表情は、見たことが無い程の焦燥に彩られていた。
「……急がないとな」
自分に言い聞かせるように、呟きが漏れた。
そして、更なるエネルギーを消費して、加速する。
余計に強まる首への圧迫が、童女の無事を知らせ、安心させる。
目的地は遠く、しかし、それ程時間はかからない。
石柱を掴む手に、一層の力が込められた。
読んでくれてありがとうございました。
意見、評価、感想、指摘などを頂けると嬉しく思います。