第十三話 起こり
どうも、パオパオです。
三人称? やっぱり一人称のが楽。
そんな感じで、連日投稿……失敗。投稿する前に寝落ちました。
いや、本来なら一昨日の分は一昨々日上げる予定立ったんですけどね。
テストが終わって、致命的なまでに崩れた勉強週間を戻すために奮闘……する筈がこれを書いていました。
こんな事だから、今日の模試であぼんするんだってばさ……。
始まりを告げる号砲は、比類なき効果を発揮しながらも、この上なく静かだった。
気が付くには時間がかかりながら、気が付いた頃には全てが手遅れになっているという状況。
しかし、潜伏期間のうちに見つけ出せば、どうとでも対処は出来るものでもあった。
もし見つかっていたとしても、対処のためには幾らかの被害は覚悟する必要があるのだが。
エルフとは森に生きる者である。
細身の彼らが、爪先から脳まで筋肉のオークよりも強いのは、森という環境が彼らの力を底上げするからだ。
清浄な自然を色濃く残す程、その補正は大きくなる。
そしてオークとエルフの領域は、その外と比べて異常なまでに緑に溢れている。
その補正たるや、人よりも膂力に劣るエルフが、自前の拳で殴るだけで巨大な虫の甲殻を破る程だ。
逆に言えば、森さえ何とかしてしまえば、エルフはただの美貌の家畜に成り下がる。
元々、エルフとは精霊に近い生物であり、周辺環境の変化に影響を受けやすい。
森を出たエルフが、ダークエルフと呼称される褐色の肌に変化する、というのは周知の事実である。
ダークエルフは人工物に囲まれる程、その身体能力を増幅する希有な生き物だ。
と言っても、自然というものは生きている限り避けようがないものなので、精々オークに匹敵するのが限界なのだが。
また、そのダークエルフの美貌はエルフを妖艶に変化させたようなものであり、奴隷としての価値は頗る高い。
たとえば、ダークエルフが一人旅でもしようものならば、一月と経たず奴隷と化すだろう。
たとえば、ダークエルフの一家が町に住んでいることを知られたら、その日の内に大人数の襲撃を受けて、一家は散り散りに売られていくだろう。
それ故に、ダークエルフ達は本来生きるべき都市に生きられず、荒廃した自然環境にその身を置かなければ、安息は得られない。
そして、エルフがダークエルフに変化するは年単位での時間がかかり、その大半は変化の最中に捕縛され、隷属させられるのだ。
故にこそ、この領域のエルフ達は、過剰とも言える警戒を常に敷いていた。
策謀を以て門番たるオークを傘下に収め、常に外敵であり続ける害虫には見敵必殺の心得で挑みかかる。
領域への侵入者は一匹たりとも許さず、あらゆる手段を講じて退け続けていた。
それでもまだ足りないと、里に篭もって研鑽を続ける者が多い。
エルフという種族の勤勉さは、集落の命運に直結していることもあってか、他種族に比べて異常な程だった。
けれど領域の守りは"外敵の排除"、その一点に集約されている。
それは内に入り込んだ敵を、豊か過ぎる自然が後押ししてしまうからであり、虫達の興起もそのためである。
いくらエルフが恩恵を得られるとしても、少なからず文明を持っている彼らは、野生に生きるものと比べてしまうと一段劣る。
エルフは森で生きているとはいえ、森だけでは生きられない生き物なのだ。
結局、エルフ達にとっての最悪の手段とは、自明である。
――内部腐敗。
味方の裏切りや、贈賄ではなく、物理的な腐食。
豊かすぎる環境に触れた毒は、止める間もなく拡散する。
栄養を奪い、仲間を増やし、敵を密かに弱らせていく。 人間によって開発された、"森喰らい"と呼称される薬品は、僅か半月で広大な森を死滅させていった。
知性なき侵略者は、こうして、誰にも知られぬまま、エルフの領域を衰退せしめたのだった。
それをエルフが知覚した瞬間、彼らは漸く危機を知る。
遅過ぎる、あまりにも遅過ぎる事態の把握。
約束された滅びの時は、刻一刻と迫っていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――何かが始まろうとしている。
最近、頻繁にそう考えるようになった。
「はぁ……」
理由は自明だった。
変化の兆候らしきものを見かけて、それを不気味だと思いつつも、避けるだけに留めていた。
何一つとして、対処は行っていない。
何を行えばいいのかも、分かっていないのだ。
「やっぱり、おかしいよな」
対処しないからと言って、無視出来るような事でもない。
端的に言えば、ここ数日で、森の植生が異常に変化を遂げてしまっている。
道端に生えた草花は、毒々しい腐臭を放つラフレシアに。
打ち捨てられた倒木からは、極彩色の茸が散見する。
果実を生やしていた樹木からは、奇形の食虫植物が顔を覗かせている。
歪。
数日前まで、俗世の楽園の如き様相を呈していた領域が、見るも無惨に朽ち果てていた。
花々が吹き出す花粉は生物を麻痺させ、虫の餌に変えていく。
茸の胞子を被っていた豚人が、後日頭から小さな茸を生やして同族を手に掛ける。
通りがかった蚊の集団が、美しき華を装う草木に纏めて捕食される。
珍しくない光景だった。
当然ながら、俺以外の生物は誰も彼もが対処に奔走している。
たとえば豚人。彼らは元凶たる茸を片端から細切れにして回り、撲滅を図っている。
たとえばエルフ。彼らは異変の原因を調査するために、普段は里に篭もりきりの老人達まで出張っている。
たとえば昆虫。彼らは新たな敵の登場に歓喜し、逆に食虫植物を食らう昆虫の姿も見え始めている。
しかして、成果は上がらない。
茸の排除のために胞子を被って、かつてない速さで同族を減らしている豚人。
調査開始から一週間。未だに分かっている事が少ないのか、エルフ達は常には見せぬ苛立ちを露わに荒んでいる。
昆虫に食べられるだけだった食虫植物も、またその昆虫を食らう食虫植物を生み出して鼬ごっこを続けている。
領域は、未曾有の混乱の中にいた。
そんな中では食糧の配給も覚束ず、仕方なく虫を絞って飢えを凌いでいる。
口慰みに木の根を齧ってみたりもするが、襲い来る切なさに負けて直ぐに止めてしまう。
「手が必要なら声がかかるかと思ってたけど、誰も来ないしなぁ……」
ここ数日、俺だけが何もしていない。
童女も忙しいのか姿を見せず、虫達も生存競争に必死で訪れる余裕がないらしい。
時折やって来る小型の虫を摘むだけの日々を、駄目だと思いつつも漫然と過ごしていた。
「本当に、どうするかなぁ……」
愚痴を零して、嘆息する。
曇天の空模様は、未だ晴れていない。
ふと、太陽をいつから見ていないか、疑問に思った。
考えてみても、答えは出なかった。
読んでくれてありがとうございました。
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