第十一話 その後で
どうも、パオパオです。
地味に難産。てか、時間がない。
テスト始まりますんで、投稿ペース落ち込みそうです。
いい加減、やらないと補修コース……かも。
短めかつ、何も起きない回。
ほぼ蛇足。
次からは、話が動くといいな、と思います。
ぎこちないやり取り。
『えっとね、その、あー……』
「……ああ、えっと。いや、何でもない。」
童女の隠していた姿を見てしまった翌日。
いつも通りに寝床へとやって来た童女は、いつもみたく翼に手をかけようとはせず、代わりに近くに生えている雑草を手慰みに弄っていた。
殆ど無意識の行動なのだろう。視線は中空を彷徨い、手元には一度たりとも向けられていない。
ならば俺はどうかと言えば、童女とさして変わらない。
ぼんやりと鉛色の空を見上げて、雲の動きを追っていた。
今日はそこそこ風があるので、短時間見ているだけでも変化が分かる。
その行為に、時間潰し以外の意味なんてないが。
『…………その、ね』
「…………?」
『ううん、ごめん。何でもない』
どちらかが何かを言おうと口を開くも、視線を向けられるだけで口を噤んでしまう。
そんな無為な時間が過ぎていく。
体感では一日位は優に過ぎているように感じるが、まだ昼食の時間にすらなっていない。
いや、もしかしたら昼は過ぎているのかもしれないが、何もしていない体はエネルギーを欲している訳でもない。
勿論、気のせいという事も考えられる。
何にせよ、俺も童女も何も出来なかった。
『あ、蟻だ。えい』
童女の呟きに反応して視線を下げると、少しだけ後悔した。
色を失った瞳。それでいて、酷く嬉しそうな表情。
艶っぽささえ感じさせる笑みを浮かべる童女が、小さな蟻を一匹一匹念入りに指で潰している。
三々五々、散らばって逃げた蟻達が見えなくなった所で、童女は正気を取り戻した。
同時に、纏っていた妖艶な雰囲気も霧散する。
『あー……え、と。やっちゃったー……』
掌に付いた少量の虫の体液を眺めた後、屈んで頭を抱え出した。
薄い草色の髪に、濃紺の粘液が塗られていく。
けれど自分では気付いていないらしく、よし! と決意をした童女の髪には、ぺったりと汚れが付着していた。
『<ファリオ>!』
名前を呼ばれ、童女の顔を凝視する。
一瞬仰け反るように後退るも、直ぐに胸を張って近寄ってくる。
何をするのかと訝しんでいると、童女は俺の背後に回った。
『えい、やっ!』
と、た、たん、と背中を蹴り上がる。
翼を支えに最後の一歩を跳躍し、 体勢を崩さず左肩に着地する。
そして何をするのかと思えば、首に巻かれた拘束具に手がかかった。
『ん、やっ!』
ぐい、と思い切り引っ張られる。
絞められた首が息苦しい。
遊びではない本気の絞めに、童女の意図が分からなくなる。
元より、童女が何をしたいのかも分かっていないのだが。
それにしても、力が強い。
昨日、小さいとは言え木槌を悠々と振り回していたから、実は弱くはないのだろうと予測はしていた。
だが、現状はその予測を越えている。
絞められて即座に苦しくなる喉は、今までの首輪を引っ張る行為が、所詮はじゃれあいに過ぎなかったと雄弁に語っている。
いや、力と言うより、特筆すべきはその技巧だ。
如何にすれば上手く力を込められるか、上手く首を絞められるか、童女は分かっているのだろう。
細腕から繰り出される力は、高く見積もっても豚人の戦士を越える事はないだろう。
だが、その力を発揮する能力は、結果として下手をしなくても豚人の戦士に匹敵するかもしれない。
それにしても、本格的に何がしたいのだろうか。
ぐいぐいと首輪が引っ張られるが、この程度で窒息する程に柔ではない。
かと言って、放置しておけば鬱陶しい事この上ない。
どう対処しようかと考えて、取りあえず退ける事にした。
『きゃっ! ちょっと、何するのよ?』
むんず、と脇腹を掴んで、顔の前に持っていく。
バタバタと暴れる童女をジト目で睨むと、抵抗が弱まっていく。
童女は「てへ」とでも言いそうな感じで、舌を出して首を傾げた。
無駄に様になっていて、ほんの少しだけイラっときた。
『あうぅっ!』
デコピンを一つ。
限りなく手加減して打ったが、それでも童女の頭が弾かれるように後ろへ反った。
直ぐに両手で額を覆い、擦り始める。
翡翠の瞳が涙に濡れ、流石に罪悪感を覚える。
頬を伝う滴を拭うために手が退けられると、赤みを帯びた額が見えた。
『むぅー、もう! 痛いじゃない!』
分かりやすく怒った童女の頭を指の腹で軽く叩きつつ、ゆっくりと下ろしていく。
半ば程で軽快に飛び降り、危なげなく着地する。
拍手でもしてやると、自慢気に鼻を鳴らした。
「何してんだか、ホント」
『……そうだね。まあ、いいんじゃないかな。元通りだし』
言葉を漏らせば、童女が同意するように頷く。
……そう言えば、童女は俺の言葉を理解しているのだろうか。
色々な驚きに忘れかけていたが、何度か完全に把握していたような節があった、気がする。
うろ覚え過ぎて自信がないが。
「なあ、俺の言葉が理解出来てたり、するか?」
『うん? 勿論してるけど、どうかしたの?』
「……いや、何でもない。悪かった」
心底不思議そうな顔を向けられ、気のせいだったのだろうと決めつける。
そうだとも。俺が未だに同族の言葉も理解出来ない(しようとしない)のに、俺だけの言葉を誰かが理解出来る筈がない。
うんうんと首を振る俺に向けられる、童女の疑うような視線は、より色濃くなっていった。
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