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第一話 生誕

どうも、パオパオです。

連載の息抜きがてら、久々に手を出してみました。

前作、Bug's HEROとしてFalioが――したあとの話になります。

まさか前作読まずにこれを読んでいるとは思いませんが、一応ネタバレになるので伏せ字で。


異世界モノ。懲りてません。

ふたば☆ちゃんねるのエルフスレ読んでて書きたくなったネタを突っ込んでいくつもりです。

えと、スレ内の発言を参考に話作っても問題ありませんよね?

駄目なら厳しいんですけど……。

 痛い。


 痛い、痛い、痛い!

 体中が押し潰されるような痛み。

 手を、足を、頭を、胴を、圧迫するような激痛が苛む。


 痛みなんて、何時振りだろうか?

 いや、そもそも、何だ?

 何が、何で、何だ?


 痛い。痛い。痛い。

 思考を遮ろうとする痛みの嵐。

 このままショック死したとしても、何らおかしくない。 痛みが熱を帯び、蒸し上がるのではないかと錯覚する。


 分からない。分からない。

 何もかもが分からない。

 今が、過去が、そして自分が――。


 頭への圧力が更に強くなる。

 何かを拒むように、頭がギリギリと締め付けられる。

 硬いはずの頭殻は、肉のような柔さになっている。


 突如、頭を掴まれて――握られて――抜け出した。


 頭への痛みが終わる。

 燃えるような熱気が首から上を逸れる。

 閉じている事にさえ気づいていなかった瞳を開け、漆黒だった世界に色が付く。


 一瞬見えたのは、緑色の巨体。

 至近にあったそれを認識する間もなく、首から下にかかる圧迫が増して瞼を閉ざす。

 ギリギリと歯を食い縛り、体を強張らせて痛みに耐える。


 徐々に、肩が外気に晒されていく。

 腕が動くようになり、胴回りが風に冷やされ、足が滑らかに抜け出す。

 頭を出すのが一番の苦行だったらしく、それを乗り越えた時点でショック死はないらしい。


 精神的に疲れきった体で周辺を確認しようと、薄らと目を開ける。

 どうやら、俺は何かに埋まっていたらしい。

 ……"俺"という呼び名が自称するものだという理解が浮かぶ。

 どうでもいいと、即座に思考を切って捨てた。


 俺の姿を見て、朗らかに笑う緑色の巨体。

 人とも豚とも見える醜悪な肉塊に、抑えきれない敵愾心を抱く。

 何故か憔悴した様子の今を除けば、次に倒せる日がいつ来るか分かったものではない。

 人に痛痒を与えておいて、そんな表情をする存在――殺してしまって、何がいけないのだろうか?


 這うようにその緑色の肉塊に近付くと、不意に両脇が掴まれた。

 逃れようと藻掻くが、敵わない。

 自分の無様さに吐き気がするが、気が付けば俺の体は緑色の体に包まれていた。


 理由は分からないが、どうやら天は――空は俺を見放していないようだ。

 胸元に抱え上げられている体を、より高くに密着する。

 のしかかるような体勢になっているが、残念ながら相手の力の方が数段も上のようだ。


 耳障りな笑い声が聞こえた。

 決断する。

 ……だが、手段は?


 腕力が劣っている事は、今までで十分に分かっている。

 反撃を許さずに彼の存在を弑逆するには、この体は非力に過ぎる。

 武器らしきものはなく、どうすれば殺せるのか――。


 ふと、背中に回されていた手が、俺の何かに触れた。

 小さく、自分では何なのかは知り得ないが、それはとても大切なもの。

 それが摘まれるような感触が、俺の直後の行動を決定づけた。


 ――触るな。

 ――貴様如きが、気軽に触れて良いものではない!


 意図せずして、顔を緑の肉塊の喉元に近付けていた。

 噛み千切る? 否。この脆弱な体では、あの厚い肉の層を破れまい。

 ならば何を? 自分でも分からないままに、内からの衝動に身を任せる。


「ゴガ――――ッ!?」


 上げようとしたであろう絶叫は、中途で失敗した。

 何故か細長く丸まり、先端が鋭利に尖る舌が、緑の肉塊の喉を貫き通す。

 ぱくぱくと口を開閉させながら、緑の肉塊は俺を見下ろしていた。


(ざまぁみろ)


 喜悦に唇を歪めながら、突き刺さった舌は何かを吸い取り始める。

 濃密な金属っぽい味が口一杯に広がり、瞬間、噎せて吐き出す。

 刺さった舌が肉塊から離れると同時、その緑を鮮血が染めた。


(血……?)


 不思議だと、どうしてか思う。

 大きく空いた空洞と、吐き出した分が加わり、赤く塗れる肉塊を呆然と見る。

 よく分からないままに、それは瀕死の状態にあった。


(……止めを)


 体が汚れるのも厭わず、再び肉塊に近付いていく。

 既に満足に体も動かせないらしく、緩慢な動作で払い除けようとする手を容易に掻い潜る。

 左胸へと顔を近付けた時、視界の端に肉塊の頭が見えた。

 悲しみと、憎しみと、愛しさの混ざったような、そんな表情を。


(何だ、それは。殺される時にする表情ではないだろう)


 乳房に口を付け、舌を突き出した。

 微かな抵抗を破り、心の臓を破壊する。

 ぬるりとした感触と、急速に失われる温もり。

 嫌悪に顔を顰めていると、頭の上に何かが載せられた。


(まずい、このまま捻じ切られるか!?)


 頭に感じるのは、おそらくこの肉塊の手だと理解する。

 慄く俺の予感は、しかし外れた。


「あ……?」


 ゆっくりと。

 愛おしげに。

 二度三度と、後頭部を愛撫される。


 現状への理解が追いつかない。

 訝しんでいると、その動きは更に緩慢になっていく。

 手の動きが完全に止まった瞬間、肉塊の死が訪れた事を実感した。


「…………」


 何も言えなかった。

 何もかもが分からなくとも、分からないなりに理解した事はある。

 ――それは、俺がどうやら赤子らしい事であるとか。

 ――それは、この赤と緑の肉塊が、俺の母親らしい存在であった事とか。


 そして、その命が、二度と戻っては来ないのだと、不思議と確信していた。


「ぁ……」


 声が漏れる。

 嗚咽か、慟哭か、それとも――愉悦?

 理解できない感情は、何れをも是と認識する。

 分からない、分からない、分からない――。


 ――くぅ。


 ふと、体が空腹を訴えた。

 しかし、食べられそうな物体は近くに見当たらない。

 いや、一つだけ。

 大きな肉の塊が、眼前に鎮座している。


「……ッ」


 それは最早、ただの物である。肉である。

 けれど、どうしようもなく、躊躇を覚えてしまう。

 おそらくは母であった存在。食らう事に、後一歩が踏み出せない。


「……違う」


 慚愧も呵責もない。

 既にして、犯してしまった過去なのだ。

 反省ではなく、後悔するのは無為に過ぎる。


 温い血の跡を指でなぞり、その先端を口の前まで運んで舐める。

 先ほどと同じような、金属の味。

 美味しいとは間違っても思えないが、食べられなくもない。


 膨らんだ腹辺りの肉を、まだ脆い歯で慎重に噛み千切る。

 紅色のソースに彩られた肉は、得も言えぬ充足感を与えてくれた。

 一切の調理を行っていない肉が美味である訳もないが、それでも、満足には至る。


 一心不乱に肉を貪る。

 いくら食べても満腹にならず、徐々に体が成長していくような感覚があった。

 錯覚にしか思えなかったが、事実として鋭利に伸びる爪を見れば、錯覚と断ずる事も出来ない。


 残った骨をどうするか悩み、無造作に口に入れた。

 噛もうとして、やはり強度が足らなかったのだろう、骨とぶつかった歯がボロリと欠けた。

 歯が抜け落ちる痛みに眉を顰め、直後に新たな歯――いや、牙が生えている事を理解した。

 理解して、順に全ての歯を生え変わらせた。


「ふぅ……」


 新たな牙は骨をも容易く噛み砕き、その場には血溜まりだけが残った。

 血も、肉も、骨も――況や、皮に、臓器等。

 この体を構成する全ての因子を、母らしき存在(モノ)から受け継いでいる。

 それだけを理解し、それ以外に何も理解していない。


 ここが何処か。

 今が何時か。

 自分は誰か。

 すべき事は、何か。


 全てを知らぬ己は、ただ空を見上げる。

 宝石のような紅玉の月と、宝石を彩る極小の星団。

 届かない。届く訳がない。

 背中に付いた突起物が、吹き込んだ風に揺れた。

読んでくれてありがとうございました。

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