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Rainbow Heart

 

 とても遠い昔か遥か未来か、とにかく現在ではない何処かの時代の何処かの荒野を、二人の旅人が歩いていました。

 一人の旅人が、砂よけのマントの口元をどかして言いました。


「ねぇ、雨男君。次の村までどれくらいかな?」


 女の人の声です。

 相棒は答えます。


「さあ? 地図もコンパスもバギーに置いてきちゃったし」


「役立たず」


 女の人の一言に、雨男のピュアなハートは傷つきました。


「グ……、そんなの晴れ女だって一緒じゃないか。仕方ないじゃん」


 雨男は同行者の晴れ女に聞こえないようブツブツ文句を垂れます。


「うっさい。文句垂れるな。誰のためだと思ってんの」


 晴れ女は近くにあった石を雨男の頭で割りました。アラアラ、残虐ですね。




 ある所に男の子と女の子が住んでいました。

 二人は幼馴染でした。

 男の子は少し根暗で、外に出ると何故か必ず雨が降りました。

 女の子は明るく活発で、外に出ると必ず晴れました。

 男の子はそんな自分が嫌で、ある日女の子に言いました。


「あのさ、この性格直したいんだけど」


 すると、女の子は、アメリカ海兵隊の様に、


「よし、十五秒で支度しろ」


 と言い、その日の内に、二人は生まれた街を飛び出しました。

 女の子は無駄に行動的でした。


 女の子と、旅費に郵便貯金を解約されて半泣きの男の子は、魔女の所に行きました。

 女の子は言います。


「ねぇ、こいつ自分の性格直したいらしいんだけど、どうすりゃいいの?」 


 魔女は答えます。


「その坊や、雨の相を持ってるね。外出して雨が降るのもそのせいだね。おや、アンタは日の相かい。それで空が曇りな訳だね」


「で、どうすりゃいいの?」


「さあ、分からないね。東の魔法使いなら何か知っているかもしれない」


「東の魔法使い?」


「そう。ハリー・ポッターを読んで、魔法使いになった変な奴だよ。東の果てに住んでるらしい」


「なれんの!? ハリー・ポッター読んだら魔法使いになれんの!?」


 男の子はビックリです。


「東の果てに行くにはどうしたらいいの?」


 しっかり者の女の子は聞きました。


「難しいよ」


「どれくらい?」


「『ボーイズ・ビー』をファーストシーズンからLコープまで全巻揃えるぐらい」


「難しいんだか、簡単なんだか……」



 

 晴れ女と雨男はやっとの事で小さな村にたどり着きました。

 村は人気が少なく、寂れた感じがしました。

 宿屋もなく、二人は、近くの民家の人に頼む事にしました。


「すいません。旅の途中でこの村に寄ったのですが、一夜の宿を貸していただけませんか?」


 晴れ女の頼みを、少し表情に影がある家主は


「なんのお持て成しも出来ませんが、それでもいいのなら……」


 割と快く聞いてくれました。

 二人は二階の部屋を貸してもらいました。

 その夜、晴れ女と雨男の所に、家の女の子が遊びに来ました。その子はユメと名乗りました。


「オネェちゃん達はどうして旅をしているの?」


 ユメは興味深げに聞いてきます。


「こいつがだらしないから」


「わーい。お兄ちゃん、甲斐性なしー」 


 晴れ女もユメも容赦無しでした。

 雨男の頬がピクピクと引きつります。


「そうだ。ユメちゃん。ここら辺に魔法使いって住んでない?」

 

 晴れ女の声にユメは大きく頷きました。


「うん。村の外、少し歩いた所に魔法使いのオジサンが住んでるよ。でも、危ないから近寄っちゃ駄目なんだって」


 晴れ女と雨男は顔を見合わせます。

 その後、ユメが眠気を催すまで、三人は旅の話等のお喋りをして過ごしました。




「雨男君、まだ起きてる?」

 

 深夜、晴れ女は隣の布団で眠っている雨男に言いました。 


「起きてる」


 雨男は晴れ女に背を向けたまま答えました。晴れ女は雨男の背中に言います。


「ついにここまで来たんだね」


「ああ……」


「緊張してる?」


「少し」


「良かったね。明日、願い事が叶うんだよ」


「……」


「雨男君が、雨男君じゃなくなったら、私はどうしようか?」


「……」


「この旅が終わったらどうする? みんなの所に帰る? とりあえず南にでも行ってみる?」


 雨男は答えませんでした。



 

 次の日の朝、二人はけたたましい音で目を覚ましました。

 悲鳴と怒声、何かを蹴り壊す音が晴れ女の耳に飛び込んできます。


「止めて!お願い!ユメを!私のユメを返してっ!」


「嫌だー! ママ! ママ! ママ! 助けて! 嫌だよ! パパ! 助けてよ! パパ! パパ!」


 ユメとユメのお母さんの声です。

 晴れ女と雨男が階下に降りると、玄関はメチャクチャに荒らされ、見知らぬ男が土足で上がりこんでいました。

 ユメは泣き叫びながら、足をジタバタさせて男の脇に抱えられていました。

 ユメのお父さんは、拳を強く握り黙っていました。

 半狂乱のユメのお母さんは、何とかユメを取り戻そうと、必死の抵抗を続けますが、男の一人に取り押さえられてしまいました。

 呆然とする晴れ女と雨男に向かって男が言いました。その男の目は、とても人間とは思えない程の冷たい瞳でした。


「よそ者は口出し無用に願おうか」


 氷のように冷たく、そして、有無を言わさぬ一言でした。

 二人が何も言わずにいると、男達は、ユメを抱えて家を後にします。ユメの叫び声が如如に小さくなっていきます。

 我に返った晴れ女はユメのお父さんに詰め寄りました。


「どういう事! アレは何!」


 お父さんは晴れ女と目を合わさずに呟くように言います。


「生贄だよ……」


「!」


 晴れ女と雨男は衝撃を受けました。


「……この村はもう半年も雨が降っていないんだ。このままだと村はお終いだ。だから、人柱を立てて雨乞いの儀式を……」


 晴れ女は唇を噛んでお父さんの震える声を聞いていました。


「あいつ等の言うとおりだ。あなた達には関係ない。さっさとこの村を出て行きなさい」


 その瞬間、晴れ女は思い切り飛び出していました。

 昨夜の三人の楽しい語らいを思い出し、心の中で叫びます。


(関係ないって! もう思い切り関係してるじゃない!)


 通りに出て、走り続けると、すぐに男たちに追いつきました。ユメは気を失っていました。


「口出しするなと言った筈だが」


 さっきの男が再び冷たい口調で言いました。晴れ女は腰が引けそうになりましたが、何とか踏み止まります。


「あんた達! 本当にそれでいいと思ってるの! そんな小さい女の子犠牲にして! 本当に雨が降るなんて信じてるの!」


 晴れ女が叫ぶと、並び立つ民家の窓から、生卵や野菜が投げつけられ、彼女の頭に当たりました。


「なっ!」


 驚いている彼女を無視するように、次々と周りの家から物や罵声が飛んできます。


「帰れ!」


「よそ者が!」


「雨が降らないと、俺たちが死んじまうんだ!」


 男が、晴れ女に一歩近づきます。


「分かったか。これが私たち――この村の実情だ。貴様が迷信だと言う、そんな非科学的な事まで信じなければいけない我々の実情」


 零下の瞳が晴れ女を射抜きました。


「村全体を救うため、一人の命を犠牲にするか、全員で仲良くお陀仏か。そんな物、ハナっから決まっている」


「狂ってる……」


 晴れ女は精一杯の力を込めて睨み返しますが、男はびくともしません。


「あなた達は狂ってる!」


 男は静かに目を瞑ると、懐から黒い塊を取り出しました。

 拳銃です。

 照準はピッタリ、晴れ女の眉間に合っています。

 男が言いました。


「なんなら、お前が生贄になるか?」


――その時です。



――ザァッ――



 小豆が床を走るのに似た音とともに、大粒の雨が降り出しました。

 夕立のような土砂降りです。


「生贄で雨は降ったのか?」


 晴れ女の後ろから、彼女の聞き覚えのある声がしました。

 彼女が後ろを振り向いたところ、滝のように降る雨の向こう側に、晴れ女の見た事がない、知らない顔をした雨男が立っていました。


「生贄で雨は降ったのかと聞いているんだ」


 男は答えません。

 雨男は続けます。


「雨は降るんだ。そんな事をしなくたって……」


 晴れ女は見ました。彼の頬を伝っていく雫は決して雨水なんかじゃないと。

 


 


 男の子と女の子は、東の果てに住む魔法使いの家にやってきました。

 とてもとても長い旅でした。

 女の子は男の子を指差し言います。


「こいつの性格直して欲しいんだけど」


 魔法使いは男の子の顔を無遠慮にジロジロ見やると、明瞭簡潔に一言。


「無理」

  



 

 落ち込む雨男を必死に晴れ女がフォローします。


「ほ、ほら、あんなハリー・ポッター読んだくらいで魔法使いになったと勘違いしてる奴に言われた事なんて気にしない! 気にしない!」


 ですが、雨男の心には届きません。


「へっ、どうせ僕なんて……一生雨男さ……どうせ、どうせ……」


 この金メダル級のウジウジ振りには流石の晴れ女も頭に来ました。

 パアンッ!

 景気のいい音とともに、雨男の頬が鳴りました。いや、鳴っただけではまだ足りず、雨男は錐揉み三回半ひねりで頭から地面に落ちます。

 頬を押さえる雨男に晴れ女は言いました。


「バカっ!いくら雨男だからって心の中まで雨降らしてどうするのよ!大体アンタ、ネガティブ過ぎるの!どうして、もっと前向きになれないの!?」

 雨男は何も言えません。ただ、ジンと熱を持った頬を押さえるだけです。

 晴れ女の瞳から、光る雫が零れ落ちました。

 声も徐々に弱弱しくなっていきます。


「ここが駄目なら、他に行けばいいじゃない。もっと他に方法があるかもしれないじゃない。それに……」

 


「このままでもいいじゃない。雨男でもいいじゃない……」



 最後の言葉は普段なら聞き逃していた程の小さな声でした。

 ですが、雨男の耳にはしっかりと届いていました。

 晴れ女の想いが。

 雨男は泣きじゃくり、興奮している晴れ女にハンカチを渡し、言いました。


「行こうか」


 彼女は無言で頷きます。

 二人は歩き出しました。





 とりあえず南へ――





 


 ――その日、女の子の家に一通の絵葉書が届きました。

 送り主の名前は書いてありませんが、女の子にはこの絵葉書の送り主が誰だかが、すぐに分かりました。

その絵葉書には、大きな大きなアーチを描いたとても綺麗な虹の写真が載っていました。

あの二人はきっと何処かで幸せになっている事でしょう。




               


         

   めでたしめでたし


ありがとうございます。

これらの作品は、2003年から05年頃の作品です。

なんと言いますか、かなり痛々しいですね。

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